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爆音スプラッタ

 ジーキンスのカレッジに魔界に通じる扉が出来たという報せにロビンはいっそ頭を抱えたくなった。

 死霊術師にろくな奴はいないとUK本部にいる不死者が言っていたが長年の経験から得た答は侮れないらしい。

 カレッジからは生徒が飛び出してきていた。被害者が減るという意味では幸いな事である。

 フィクションに登場するゾンビは生存者を殺し仲間とするのが珍しくないが実際の不死者が生存者を仲間にする力を持っている事は少ない。

 不死者はあくまで魂魄を死体に閉じ込めた者だ。その魂が高い魔力を持つ者である確率はこの現代社会では稀である。

 つまりエクソシストが警戒すべきは不死者を作り出す魔力を持つ死霊術師である。

 そもそも冥界と現世を一時的に繋げる術を持つと考えれば死霊術師の危険性は瞭然だろう。異次元を繋ぐというのは高等術の一種なのだ。

 校舎の真下と上空にうっすらと魔方陣が現れたのを見てロビンとハジメは焦燥した。

「不味い状況か」

 一般人であるノックの問いにロビンが頷く。

「目視の薬を飲むといい。地獄の片鱗が見れる」

 ノックは言われるがまま悪魔を目視出来るようになる薬を飲んだ。数分して効果が現れるだろう。

 校舎の窓や扉から悪霊が現れた。唸りを上げながら魔方陣に挟まれた中を泳いでいる。

 まだ日が出ている中飛び出して悪霊が怯まないのは魔方陣の効果だろう。

「この結界、入れるのかい?」

 ハジメの言葉に頷く。

「ダニーが念のために残しておいた呪いがある」

 取り出したのは魔方陣が描かれたステッカーだ。校内の至る所に貼られているものとは魔方陣が違う。

「“誤認識”させるものらしい。これを貼っている間は結界には俺達が“ダニーの一部”に見える。結界の内側のものは外に出したくない。だから結界に近寄ると取り込まれる」

「彼、こんなもの用意してる辺り予感はしてたのかもな」

 ハジメは悪霊が蔓延る結界を眺めながら言った。

「死霊術師は高等魔術が使えるからな。最悪の事態は想定してたんだろう。用意周到な奴だ」

「だがおかげで俺達も中に入れる」

 ノックが結界を睨みながら言った。その目にも漸く本来の非常事態ぶりが映ったのだろう。眉根に深い皺が刻まれていた。

「人数はいるか?」

「いるだろうな。中はリビングデッドの擬きが徘徊しているようだし」

「緊急班を待機させてある」

 思わず瞬いた。

「こんなオカルト話に付き合う特殊部隊がいるのか?」

「オカルトの専門家が何を言う」

 ノックは呆れたように肩を竦めた。

「そっちの“本場”じゃ隊員も多いし専門家が大体やっちまうんだろうが、USA支部はそっち程人がいないんだ。だが都市部で問題があっちゃ人数不足は命取りになる。使えるものはなんでも使えと上から言われてる」

 確かにFBIは特殊班を抱えているが皆素人だろうに。しかし実際“教会”とFBIが一緒に動いているのだ。ノックの言葉にも信憑性がある。

「それで? 緊急班は出すのか?」

 ノックの問いに頷く。

「ああ、頼む。まだ逃げ遅れた者もいるだろう。救助しながら親玉を叩かなきゃいけない。俺達だけでは難しい」

「わかった。連絡しよう」

 ダニーがステッカーを大量に用意していたのもこれを見越してか。用意周到な男である。

 待機させていたのは偽りではないらしく、緊急班の車両は数分のうちにやってきた。

 降りてきたのは濃いブロンドの髪を短く刈った男だ。右顎に傷があり、ブルーグリーンの目を愉快そうに細めている。

「あんたがUK本部の隊員か。随分若いな」

「ジャック。積もる話は後だ。ロビン、紹介する。こちらFBI緊急班の班長、ジャックだ。ジャック、こちらは教会UK本部のロビン」

 ジャックは大きめの手を差し出した。それを握る。

「んで? 俺らの相手はビデオゲームよろしくゾンビか?」

「みたいなものだ。弾はあるのか?」

「各隊員マガジン5つってところだな」

 死霊術師が悪霊やらを呼び出しているのを考慮すると危うい数だろうか。

「ハジメ。あんたはいけそうか?」

 ハジメはウィンクして見せた。

「この件に関してはケルベロスも協力的だ」

 冥府の番犬が味方とは大変心強い。

「よし。準備が整い次第突入する。民間人は発見次第保護。人外は容赦なく撃て。退魔弾ならリビングデッド擬きを撃っても肉体は大したダメージにはならずに中身だけ始末出来る。ダニーを見付けたら回収し、状況が悪くない限り戦力にくわえる」

「Yes,sir.」

「了解」

「なんだか軍隊みたいだ。ま、素人なりに頑張らせていただくよ」

 各々の返事に頷いた。

 突入は15分後だ。


 ダニーの呪いは結界をあっさりと通過させてくれた。ただし結界から出るには術者を倒して解かせるしかない。片道切符である。

 カレッジの中は陰鬱とした、しかしはりつめた空気が充満していた。痛い程の静寂が警戒心を煽る。

 霧のようなゴーストが時折現れるもののケルベロスの一喝で消し飛んでしまうのだから数は呼べても強い個体は呼べないのかもしれないと推察する。

 とはいっても一度に多量のゴーストを呼びながらカレッジ丸々を覆う結界を張っているのだから術師の力は相当なものだろう。こちらは人数が割けない分多勢で来られれば圧倒的に不利なのだから。

 呻き声に皆一様に辺りを見回した。廊下の角から現れたのは正気を失った生徒や教師であった。悪霊に体を乗っ取られた者もだろうが明らかに顔や体に噛み付かれた痕がある者もいる。もしかしたら彼らは“体の持ち主”を亡くしているかもしれない。死体を操るのは死霊術師の本分である。

「ここで死んだら仲間入りか」

 舌打ちして光る猟銃を呼び出す。死霊を狩る時間だ。

「弾はなるべく温存しろ」

 廊下は広くない。散弾を撒くこの武器なら足止めにはなるだろう。

 テレビの中のゾンビのように奴等は一斉に駆け出した。先ずは正面に一発。比較的綺麗な体のそれは頭に光る散弾を受け吹っ飛んだ。

 次に来た屍が食い散らかされた顔から血を流しながら襲い掛かる。

 ジャックとノックの銃弾が両足を撃ち抜き、数メートル前で転倒する。間抜けた背中に散弾を浴びせかけて、次に来た屍を銃を盾にするようにして受け止め、押しやる。よろめいたところに銃口を突き付けて引き金を引く。

 爆音と共に頭が弾けた。

「うわあ」

 ひきつった声を漏らしたのはハジメだ。ジャックは暢気に口笛なんぞ吹いている。

「人体に影響はないんじゃなかったのか?」

 ノックの声に驚きの色は見えない。扱っている者が人外だからかグロテスクなものに耐性があるのかもしれない。

「こいつは本当のゾンビだったんだろう。“中身”はもう死んでる」

 生きる屍は最早人間には該当しないといったところか。とはいえ流石に目の前で頭が吹っ飛ぶなんて中々にキツイ光景だった。

「ダニーは大丈夫かな」

 ハジメがぽつりと漏らしたのを聞き頷く。

「死んでいたらこうして結界の中には入れていないはずだ」

 ハジメは納得したようだった。

(大丈夫だよな)

 死霊術師としては生かしておくメリットはないはずだ。結界を越える時は生きていても今も生きている保証はない。

 気が急いているのに気付いてかノックと目が合った。

「多分大丈夫だろう。逃げ足の早い奴だしな」

 それは誉められるべきところなのかいまいち判りづらかったが、彼の事だ。そう簡単にはやられまいという気持ちには傾いた。付き合いが長い男の台詞は信用に足る。

 ノックの言葉を信じ、再び廊下を歩き出す。魔界への扉を探し出し、封じなければ。それが最優先事項なのだ。

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