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戻りしゴースト達

 病院へは車で数十分とかからなかった。元々ジーキンスは学校や病院が多い町な上、今は人が寝静まる深夜だ。信号にも余り引っ掛からなかった。

 地下の駐車場に車を入れ、関係者用入口から病院に入る。ハジメはノックとその同僚に挟まれるようにして歩いていた。

 ディランのいる病室の前には警官が一人立っていた。ノックは手帳を見せて病室へと入る。それに続いた。

 ディランは両足に包帯を巻き、ベッドに横たわっていた。腕には点滴が繋がれている。これが途切れてしまえば意識がないディランはゆっくりと死に至る事になる。

 ハジメはディランを見つめ、少しの間の後ノックを見遣った。

 ノックが頷いたのを見てハジメはディランに歩み寄る。

「手錠が邪魔か?」

「邪魔といえば邪魔だけど、出来ない事もないでしょ」

 ハジメはそう笑って両手をディランに翳した。

『全く。危ない遊びなんかして。次はないよ』

 ハジメの口から少年のような声が紡がれる。両手がディランに触れるとディランの体が一瞬跳ねた。そして次の瞬間飛び起きた。

「い、痛えぇっ!!」

 飛び起きた勢いのまま両足を庇ったディランにノックは驚きに目を見開き、ダニーは微妙に後ずさった。様子を見ていた医者が慌ててディランに駆け寄る。

 ディランを落ち着かせながらも脈を計り、瞳孔を調べたりしている。

「本当に戻ったのか…?」

 医者が信じられないとばかりにディランを見遣る。魂がなくなりほぼ植物状態だったのがいきなり飛び起きたとなれば驚かざるを得ないだろう。

 ハジメはといえば成功した事に安堵の息を漏らしていた。これが失敗となれば恐らく牢屋に押し込まれていただろう。そうなれば調査どころではない。

「ディラン・カンバー。事情聴取だ」

 ディランはこちらを見遣ると息を呑んだ。

「ロビン、お前、生きてたのか」

「生憎だが黙って殺されてやるつもりはない。お前が言っていたドラッグについて話してもらう」

 冷ややかに言えばディランは肩身が狭いのかベッドの中で見じろいだ。

 気付けばダニーが病室の外に移動していた。ドアの向こうからひらひらと手を振っている。

 校内に潜入している者だとディランに言いふらされるのを防ぐ為だろう。

「お前はゾンビ化するドラッグと知っていて所持、購入していた。そうだな?」

「し、信じてなかったんだよ! 何度か飲んだけど今まで効果がなかったしよ」

 それらしい話をしていたのは覚えている。だが、それなら何故偽物とも思えるそれを購入していたのか疑問である。それこそ偽物を掴まされて詐欺を疑うだろうに。

「あのドラッグは大した値段じゃない。だから皆遊びのつもりで買ってんのさ」

「遊び、ねぇ」

 心底呆れたように言ったのはハジメだ。ディランは声の方向を見遣り、その手に手錠が掛かっているのを認めると怪訝な顔をした。

 確かにハジメは奇妙な位置であろう。ハジメは視線に気付いて苦笑いした。

「あの時本当に売人が来る予定だったのか?」

 ノックの問いにディランが睨む。

「なんだよ。嘘ついてどうする」

「ロビンを釣るための虚言だったわけじゃないな?」

 ドラッグの危険性を知っていての行動だ。実際はこちらがドラッグを追っているのに感付いていたのではないかという事だろう。

 ディランは首を振った。

「言っただろ。俺は薬の効果は信じちゃいなかった。だけど売人に会ってもらえばこいつに薬の事を信じさせる事は出来ただろうぜ」

「どういう意味だ?」

 ディランはノックの低い問いにたじろいだ。意志の強そうな目と雄々しい太い眉に睨まれるとたかが学生では敵わないだろう。

「売人が変わった奴なんだ」

「そういえば売人を見たら驚くと言っていたな」

 待ち合わせ場所にて合流した後、ディランは売人が来ると言っていたのを思い出す。

「売人は“人間じゃない”のさ」

 ゾンビになるドラッグを人外が売り捌く。言葉にするとB級映画の設定かと笑ってしまいたくなるが人外を相手にする身であると強ちフィクションと言い切れないのが悲しいところだ。

「売人がゾンビとか言わないだろうな?」

「そういう奴もいるらしいけどな」

 しれっと言い放つディランに頭が痛くなるのがわかった。

「俺の馴染みはネズミだ」

「ネズミ?」

 ディランが苦しみだした直前に見掛けた気がする。もしかしたらあれが売人だったのだろうか。となれば売人がこちらの動きに気付いた可能性が高い。

「ノック。向こうにこちらの存在がバレた可能性が高くなった」

「売人がいたのか?」

「恐らく」

 潜入捜査をしている事が知れればますます警戒するはずだ。

「で、俺はこれからどうなるんだ?」

「入院中“飽きるほど構ってやる”から泣いて喜べ。引き続き聴取を頼む。俺は彼らを連れて今後について話し合う」

 同僚に引き継ぎを頼んだノックに連れられハジメも含めて病室を出た。

 ダニーは深夜の待合室のソファーにどっかりと座り、缶コーヒーで喉を潤していた。

「どうだったよ?」

「向こうに潜入捜査がバレた可能性がある」

 ダニーは肩を竦めて見せた。

「あー。まぁ、何時かは気付かれるだろうが早かったな」

「売人は人間ではないらしい」

「というと?」

「ゾンビやらネズミやら使ってると」

 ダニーははあ、といまいち現実感がわかないらしい声を出した。

「ネズミって喋れるのか?」

「大方術か何かで操っているだろうし、常識外の事もするかもな」

「黒いネズミも負けてらんねーな」

 ダニーがそう笑った。

 ノックはと言えばハジメの手錠を外していた。

「いいのかい? 手続きやら何やら」

「構わんさ。本当に意識が戻せるようだしあんたには働いてもらわなくちゃならん」

「お手柔らかに頼むよ」

 ハジメは空笑いした。

「ダニーは引き続き潜入しておいてくれ」

「お前はどうすんの?」

「顔割れしてる可能性が高いのに彷徨いたら警戒させるだろう。俺は売人の聴取に付き合ってルートを探る。“町中の獣道”を調査したいなら歓迎するが」

 ダニーは首を激しく振った。サウジェントタウンの件で服が汚れた時に嘆いていた男だ。下水やら路地裏は余り行きたくないのが本音だろう。

 ダニーは引き続き潜入、残りは聴取に取り掛かる事が決まってダニーは明日に備えてホテルに戻る事となった。

「いや~、一人だけ悪いね」

「これですぐばれたら笑い者だがな」

「そうならないように頑張りまァす」

 ダニーはわざとらしく唇を尖らせて廊下を進んでいった。それを見送り、ノックに連れられて他の加害者を起こしに向かった。

 大抵の者は目覚めて直ぐに困惑した。

 自分達が死にかけた事をぼんやりと理解している者が多く、生還出来たと涙する者もいた。

 それを落ち着かせたらドラッグの存在を何処で知ったか、売人と会っている場合は売人についての情報を聞き出した。

 ディランが言っていた通り売人は人間でない事が多く、何処から来たのかわからない場合がほとんどだった。

 商品は売人が持つコインロッカーの鍵を使い取引されているようだ。

 売人が去っていくのを見送った者もいたが、やはりというか下水道に入っていってしまったり、人が入れない場所に行ってしまったという情報が多かった。

「一度教会に戻って相談してみる。売人の小動物は恐らく魔術か何かで操られている。魔力探知出来る小道具を借りるか悪魔の隊員の力を借りて売人が消えていった場所を探れば見つかるかもしれない」

「地道だねぇ」

「捜査とはそういうものだ」

 ハジメの感想にノックが淡々と返した。

 夜も深い。一度解散となった。

 ノックの運転する車に乗り込み、アパートまで送ってもらった。

 ハジメは一応釈放されたものの、重要参考人には変わらないのでもしかしたら署内に泊まるのかもしれない。

 おやすみ、と二人に言われたのでそれに返してアパートへと入った。

 ダニーがいる隣の部屋は静かだった。明日に備えて寝ているはずだ。

 騒がしければ嫌味の一つでも言いに入らねばならなかったが、杞憂で済んだようだ。

 部屋に入り、着替えて早々にベッドに入った。シャワーは朝に済ませる事にした。

 眠気は直ぐにやってきた。それに抗う事なく瞼を閉じた。


 テレビから唸り声が聞こえると水無月翼は引きつった笑いを漏らした。それを見てにやにやと笑うのは四之宮三冬だ。

 テレビゲームのコントローラーを握るのは朱寅零二と秋初浅海だ。

 ゲーム画面は薄暗い建物を進む男女のキャラクターが映っている。各々武器を持ち、襲い掛かる敵を倒すゲームだ。

 朱寅の動かすキャラクターが突如現れたゾンビに飛び掛かられ、水無月が驚いて声を上げた。

 その中秋初は慌てる事なく朱寅に襲うゾンビを蹴り飛ばす。

「前から気になっててんけどさぁ」

 銃声を放つ画面を眺めながら四之宮が問い掛ける。

「ほんまもんのゾンビって見た事ある?」

 その話題が振られているのが自分だと気付くのに少し掛かった。

 予習のために見ていた教科書から目線を上げ、四之宮を見る。

「ほら、日本て亡くなってもぉた人は燃やしてまうやろ? せやからゾンビとか滅多に見る機会ないんよ。ロビンて教会の仕事であちこち飛び回ってそうやから見た事あるかなーて」

 なんでそんな事に興味を抱くのかわからないが、一応記憶を遡った。

「残念ながら。それに飛び回ると行っても精々隣国までしか行かない。俺はまだ未熟だから」

 個人の戦闘力は買われている。だが、魔術が使えない事とチームプレーが出来ない事が自分の評価を低くしている事は自覚していた。

「ロビンが未熟やったら僕らなんか赤ん坊並みやで。日本から出た事ないし、英語も喋られへんしなぁ」

 テーブルに広げられた宿題は英語の授業で出されたものだ。朱寅と秋初は宿題を済ませ、ノートが閉じられているが、水無月と四之宮はテレビから聞こえる音に完全に興味を奪われている。

 勉強の方は確かに自分の方が遥かに出来るだろうと内心呆れた。

「もし見掛ける事あったら写真撮っといてくれへん? ほんまもんのゾンビ、興味あるわ」

「出た。四之宮のグロテスク好き」

「スプラッタ映画大好きだもんな」

「正直、理解は出来ない」

「まさかの総ツッコミ?! 別に苦手な人に見せ回るわけやないからええやんかぁ!」

 唇を尖らせる四之宮に水無月が「でも人をビビらせるの大好きじゃん」と恨めしそうに睨んだ。四之宮が何度も脅かしているのが目に見えた。

「それはぁ、翼の反応があまりにええから? つい?」

「つい? で何回心臓飛び出そうになってると思ってんだよぉ」

 ここで起こり出さず気弱に返すから繰り返されるのではと思わないでもない。

「な、ロビン。見掛けたらよろしくな」

 全く反省しない四之宮にウィンクを飛ばされ、はあ、と間の抜けた声が出たのは仕方のない事だろう。


 目覚めて、過去を映した夢にベッドを抜け出る前に少し笑ってしまった。

 イザベラから貰ったドリーム・キャッチャーは随分と働いてくれているらしい。

「話のネタが一つ出来たか」

 この事件を解決し、USA観光を済ませたら日本に行こう。その気持ちが強まったのを感じた。

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