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屍達のパラダイス

 ゆったりとした時間が流れる牧畜の町から一転、人とビルが溢れかえる街にやってくると流石に落ち着かない。

 サウジェントタウン最寄りの空港から飛行機で数時間掛けて戻ってきた“教会”USA本部はビジネス街の中にあった。

 呼び出しを受けて急ぎで帰ってきたダニーは受付の女性に話し掛ける。

「よぉ、マリー。呼び出しくらってロクに観光せずに戻ってきちまったぜ。モテる男はつらいね。体がいくつあっても足りやしねー」

 新調した帽子を自慢げに撫でながら受付のテーブルに持たれるダニーにマリーは笑った。

「もしかしたらモテ期なんじゃない? これを逃したら冴えない男は目前だったりしてね」

「おいおいまだ20代だぜ? これから俺ってばダンディになっちまって今以上にモテモテになる予定だってのに」

 マリーははいはいと軽く流して受話器を取った。用件のみの短い通話を終えて彼女はウィンクした。

「例の彼、今会議室にいるわ」

 ダニーはうえぇ、と嫌そうに呻いた。渋々と言った顔を引っ提げてついてくるように言われる。受付に来た時から思っていたが、どうも人が多く忙しない。廊下でも隊員や警官とすれ違い、どうやらダニーを呼びつけた件は一筋縄ではいきそうにないのを予感させた。その予感を決定付けるかのように会議室もまた人で溢れかえっていた。

「お、ついに来たか」

「おかえりダニー」

「おうよ。戻ったぜーっと。んで? なんでこんな人いんの?」

「説明する。こちらに来い」

 同僚と軽く話すダニーを呼びつけたのは一人の男だ。

 ブラウンにも見えるブロンドの髪を短く切り、意志の強そうな目がこちらを見ている。背が高い。この会議室の中でもかなり高い方ではないだろうか。スーツ姿だが腰にあるホルスターと銀のリボルバーがやけに目立っている。

「そちらは?」

「ロビンだ。教会UK本部の人だけど休暇でこっちに来てる。休んどきゃいいのに率先して手伝いを買ってでるワーカーホリックだ」

 ダニーが代わりに紹介したので頷いておく。ワーカーホリックというのも多分否定出来ないだろう。

「俺はノーウィッグ・ハイアウッドだ。同業からはノックと呼ばれている。FBIの特異事件担当だ。教会USA本部とは捜査の協力関係にある。宜しく頼む」

 握手を求められそれに返しながら問いかける。

「ハイアウッド? イザベラの兄というのは貴方か?」

 ノックは頷いた。

「サウジェントタウンに行っていたんだったな。あの町は俺の故郷だ。イザベラに協力してくれた事、感謝する」

「ノック~。俺にも感謝しろよ~」

「イザベラに撃たれたらしいじゃないか」

 ノックの返しにダニーは口笛を吹く。その様子にノックは溜め息を漏らした。

「本題に入ろう。最近国内の至るところで似た事件が起こっている。人が突然身近の人間に襲い掛かり、食らうといったものだ」

「まるでB級映画だな」

「この手の話はウケるからなー。ゴシップとかにも面白おかしく書かれてるよ」

 いつの間に買っていたのかダニーが新聞をテーブルに広げた。大きな見出しで“ジーキンス ゾンビに呑まれた町”と書かれている。

 ジーキンスは教会USA本部から車で1時間程にある住宅街だ。病院や学校も近いので昼間でも人通りは少なくない。

「ここ数日ジーキンスでこの事件が多発していてな。学生の被害者、加害者が多い。この加害者というのが厄介で、最初はジーキンスの留置所に入れていたんだが、檻から“無理矢理”出てきたそうだ」

 ダニーが怪訝そうに眉を上げる。

「無理矢理ってのは?」

 ノックはホワイトボードに張ってあった写真を取り、机に置いた。

 其処には複雑骨折でもしたのかあり得ない向きに手足やら首が曲がった人の姿があった。ダニーは思わず呻いた。

「言葉通りだ。間接を外すどころか骨を自ら折って脱走した」

「ゾンビというのも強ち間違いではないかもしれないな。それにしては血色が良すぎる気がしないでもないが」

 写真に写る加害者の肌色に突っ込むと同席していた教会の研究員が答えた。

「脱走した者を捕らえて調べた結果、彼らは肉体的には死んでいない事がわかりました」

「はあ? つまり生きたまま自分の骨折ったりしてるってのか? イカれてるな」

 ダニーは益々表情を歪ませて理解できないとばかりに肩を竦めた。

「肉体的という事は精神は?」

「どうやら体の持ち主と凶行を起こしている魂は別の人物のようです」

「乗っ取りか」

「恐らく」

 それが連続で起きているというのだろうか。

「術師が噛んでいそうだな」

「面倒くせーなー。サウジェントタウンの奴も面倒だったけどよ。なんで術やらなんやら使うやつは面倒ばっか起こすかね? 暇人? 暇人なの? それとも自慢したいの?」

「さてな。なんにしろろくな奴ではないのは確かだ」

 ノックがはっきり切り捨てて、テーブルに置いてあったビニールの袋を引き寄せる。中には小さな錠剤があった。

「警察では拘束が難しくてな。今加害者は教会に留置されているんだが、加害者の持ち物、或いは自宅に高い確率でこれが出てくる。ドラッグの類いかとDEAに調査を頼んだがどうやら違うらしい」

 DEAはUSAの麻薬取締局だ。そこの検査に引っ掛からないのならば実際にそういったものではないのだろう。

「通常のビタミン剤を挽いたものが主成分だ。それに骨粉と植物の根を粉末にしたものが混じっている」

 ノックが調査の結果表を差し出してきたのでダニーとそれを覗き混んだ。

「骨粉と植物の根については引き続き調査中だ。わかり次第追って連絡する」

 骨粉が入っている辺り何かしら魔術やら呪術めいたものを感じずには得ない代物だ。

「この薬、教会でも調べたんだろう?」

 研究員が頷く。

「この錠剤ですが、そのままだと何ら異常は見られません。しかし試しに砕いてモルモットに与えたところ、凶暴化が確認されました。生物の体内に入ると魔力が感知されたので、魔力封じの何かが掛けられているようです。ただこの薬の効果は個体差があるようで必ずしも飲んだ者が凶暴化するわけではないようです」

「オイオイオイ。魔力封じだなんだかけられた薬をばら蒔かれて? まして主成分はビタミン剤で? そんなん完全にブローカー探しが面倒じゃねーか!」

 見た目も特別特徴があるわけではない。これが凶暴化の原因である事には違いなさそうだが、ダニーの言うように売買人を探すのは骨が折れそうだ。

「加害者の本来の人格はどうなんだ? 生きてんの?」

「取り憑いた人格を引き摺り出してはいるのですが、戻った者は今のところいません」

「ハイ。手掛かりナシー。やってらんないな」

 ダニーがガックリと肩を落とす。

「薬自体摂取しないと魔力を発しないなら悪魔による追跡も難しいだろうな」

「聞き込みもしている。今のところブローカーがいる事は確認が取れているが、売り場を頻繁に変えているようでな。ネットでも情報を洗っているところだ」

 学生の加害者が多いのもあってネット売買も視野に入れているのだろう。

 ダニーがふとこちらを眺める。

「なんだ?」

 視線に問うと彼は顎を撫でながら言った。

「お前幾つ?」

「18だが」

 なんとなく嫌な予感がする。

「潜り込めとか言い出すんじゃないだろうな」

「あ、わかった?」

 ダニーは悪びれもせずに肯定した。

「怪しいもんに手を出す奴らってのは独自のネットワークを持つもんよ。まして学生だ。こんだけ騒ぎになってりゃ皆ビクビクしてるはずだ。ましてDEAやらFBIが出てくりゃ尚更だ。今は隠れるのに必死になってんじゃねーか? だから潜り込んだ方が早いと思うワケ。こいつが同世代と知りゃ多少警戒が薄れると思うのよ」

 情報提供という間柄で一般人に協力を求める事は出来れど、今回は犯人側になるべく近寄らなければ情報を得るのは難しいだろう。教会関係者なら自分の身を守る術も持ち合わせている。

「不安なら俺も一緒にやってやるから」

 ばちんとウィンクされ呆れた顔を向ける。

「なあノック。この提案。どうよ?」

 ノックは溜め息を漏らした。

「どちらかと言うとお前がやりたいだけのようにも見えるがな。だが警戒が強まっているのは確かだ。いいだろう。許可する」

「さっすが! 話がわかるねェ! ホントFBIにいるのが勿体ないわー」

 ダニーが喜んでノックの背中を叩くとノックははいはいとおざなりに返した。

「流石に短期間だよな?」

 呟きに答える者はいなかった。休暇が潰れる羽目にはならない事を祈るしかなかった。

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