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第6話:筋肉と女神と爆裂娘、狭き部屋の夜

ジャイアントラビットを分子レベルで消し飛ばした爆裂少女・リリィは、あろうことか「おじさんの筋肉、もっと観察したい!」と、キラキラした目で俺たちのパーティーへの加入を(勝手に)決めてしまった。 筋肉に興味があるというのは、今後の将来に非常に期待がもてる傾向だ。(「絶望しかないわよ!」というイリスの悲鳴が聞こえるが、ポジティブに捉えるべきだろう)


結果、俺たちの拠点――という名のギルドの監視部屋(一室)に、もう一人の居候が増えることになった。


「狭い……絶望的に面積が足りない」


部屋のスペックは、ベッドが2つ、机が1つ、椅子が2つ。 もともと二人部屋として設計されたこの空間に、筋肉の塊である俺と、不憫な女神、そして杖を抱えた少女がひしめき合っている。俺が少しサイドチェストのポーズを取ろうものなら、肘が誰かの顔に当たるどころか、部屋の容積を圧迫して酸素濃度が下がりそうだ。


「リリィさん、ここは私とミスターが借金を返すための……いわば独房のような場所なんです。女の子が泊まるようなところじゃ……」 「いいの! おじさんたちについていくって決めたから!」


リリィはそう言うなり、備え付けのベッドの一つに、まるで自分の縄張りのようにダイブした。 ふと、彼女の横顔を見て思う。この子は、孤独だったのではないだろうか。 年端もない女の子が、出会ったばかりの、それも筋肉だるまの不審な男にこれほど懐きたがる。それは、彼女が「力」を持っていながら、それを包み込んでくれる「居場所」を持たなかった証左のようにも見えた。


「ああっ! そこは私の指定席なのに!」 「早い者勝ちだよ、女神様。……あ、このシーツ、ちょっと焦げ臭い」 「それはミスターのスウェットがビッグバンで焦げたせいよ!」


イリスが必死に抵抗するが、リリィはどこ吹く風で、もう一つのベッドを指差した。


「じゃあ、あっちのベッドはイリスとミスターで二人で寝ればいいんじゃない? 密着して寝れば、おじさんの体温で冬でもあったかそう」 「「…………っ!?」」


一瞬の沈黙。その後、顔を真っ赤にしたイリスが、これまで聞いたこともないような高音で叫んだ。


「な、ななな何を言ってるんですか! 女神と凡人が同じベッドで寝るなんて、神界の法律で禁止されています! それにミスターの寝返りは、ちょっとした地殻変動なんですから!」


「……俺も断る。狭いベッドで二人で寝るなど、筋肉の回復に必要な『深い睡眠(ノンレム睡眠)』を著しく阻害する。筋肉へのストレスは最小限に留めなければならん。……というか、俺が寝返りを打てば、お前は文字通りプレスされてミンチになるぞ」


若干ジト目をしたイリスの目線を心地よく(?)受け流しながら、俺は静かに椅子に座り、机の上に肘をついて考えた。事態は解決しない。ベッドは2つ。人間(と神)は3人。


「……わかった。イリス、リリィ。お前たちがベッドを使え。女性はホルモンバランスの維持が重要だ。寝不足は美容と健康の大敵。つまりは筋分解カタボリックの第一歩だからな」


「えっ? じゃあミスターはどこで寝るの……?」


リリィが不思議そうに首を傾げる。俺は迷わず、冷たい石造りの床を指差した。


「ここだ。床こそが、脊柱を真っ直ぐに保つ最高の寝床。……そして何より、ここなら、寝ている間も体幹を意識することで『静止圧トレーニング』ができる」


「床でトレーニングしながら寝るの!? 正気!?」 イリスのツッコミを無視し、俺は床に横たわった。 硬い。だが、それがいい。この硬さが大殿筋を刺激し、俺をさらなる物理的完成へと誘ってくれる。


「おじさん、本当に変……。」 リリィが眠そうに目を細めながら呟く。 彼女は気づいていた。急に押し掛け、好き勝手している自分に対し、この男は文句一つ言わずに寝床を譲った。その無骨な優しさに触れるのがあまりに久しぶりで、彼女の心にじんわりと安心感が広がっていく。 (……この人たちとずっと一緒にいようかな。なんだか、爆発させなくても心が温かい気がする)


「……もう、勝手にしなさい! その代わり、明日の朝に体が痛くなっても、私は知らないからね!」 女神もまた、気づいていた。この男は口では筋肉だのトレーニングだのと不器用な理由を並べているが、その実、女性二人を心底気遣っているのだと。その優しさが、少しだけくすぐったい。


こうして、簡素なベッドで安らかな寝顔を見せる爆裂少女と、隅っこで身を丸める女神(女神も意外と小さくなるもんだな)、そして床の上で重力と筋肉の調和を図る男の夜は更けていった。 たとえ床が硬くとも、そこに信頼がある限り、俺の筋肉は最高の休息レストを得ることができるのだ。

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