リアルでの推し爆誕
坂口隼人。かもめ亭にたまにお弁当を買いにくるお客様。そして私の大学の後輩でもある。本人は気づいてないけど。
隼人はめちゃくちゃイケメンというわけではない。普通よりちょっといいぐらい。でも、そんな彼がとある事情により私にはど真ん中だった。
私の人生で初の推しが爆誕したアニメ、『機械生命体キュリオス』。その主人公であるアスカを影で支える謎キャラであるハヤト。
『モブのくせに顔面偏差値が高すぎる』と、放送当時ネットで言われていた彼。そんな彼を私は心から愛していた。その愛が高じて私は高校時代に一度、画像生成AIに無茶振りをしたことがある。
「機械生命体キュリオスに出てくるハヤトが現実世界に存在すると仮定します。私は顔面偏差値が全国平均です。ハヤトの顔面レベルが校内トップレベルだと、隣に並んだ時に私が羞恥心により爆発します。そのため、私が隣にいても問題がないレベルのハヤトの顔写真を作ってください」
頼んだ結果、ちゃんと画像が出てきた。最初は意味不明な画像が出たり、全く違うアニメのハヤトと間違われたりもしたけど、何度も訂正や追加情報をインプットしたところ、求めるクオリティになった。
クラスの上から五番目ぐらいの顔面偏差値で、飛び抜けたイケメンではない。清潔感がありどこかミステリアスな雰囲気もあるけど、それが邪魔することなく一つの印象にとどまっている。日本中を探し歩いたらどこかにいそう、そんなハヤト像ができた。
好きだ。
すぐに思った。
この人に会えたなら絶対に彼氏にしなければいけない。そして私が命をかけて幸せにしなければいけない。そう思い画像を保存してから約五年、叶わぬ夢だと思っていたのに、夢は現実となった。バイト先に写真と瓜二つの男性が現れた。それが隼人だった。
先月、平日の夕方だったと思う。夕飯前の忙しいピークが少し過ぎた頃、ふらりと店にやってきた。隼人が店内に入った瞬間、顔を見る前から私の頭にビビッと何かが走った。こんなことは今までなかったけどすぐにわかった。これは何かのいい予兆だって。
『唐揚げ一個増量中』
本部が売上対策でいきなりやったキャンペーン。これをされると唐揚げ弁当の出が読みにくくなるので本当に迷惑。だけど、キャンペーンポスターを眺める隼人の顔を見て私は秒で赤面。暴れ狂う心臓。興奮のあまり吐血するかと思った。
ありがとう本部! まじ感謝! 弁当屋の中心で愛を叫んだ。もちろん心の中で。
「唐揚げ弁当二つ」
注文時の声もいい。私はうっとりと聞き入りながら「かしこまりました」と返事をした。そして、のろのろと弁当を準備する後輩の中川を押し退け、からあげをこっそり二つ追加して渡した。
二つ買うなんて、男子って感じがしていい。食べ盛りなんだろう。そこも好感度が高い。
支払い時にお財布の札入れのところから学生証がレジのテーブルの上に落ちた。それを見た時、これはもう運命だと思った。だって同じ大学で名前が隼人。もう完璧すぎた。
「またのご来店をお待ちしてます」
お弁当を渡す時、ついめちゃくちゃ笑顔になってしまった。でも、隼人はそれを気にする様子もなく帰っていった。
唐揚げを勝手に増やしたことについて中川から指摘されたけど、「あんたがとろいからでしょ」と一喝。根暗メガネ男子を一旦黙らせる。ついでに隼人について何か知らないか聞いてみると、私がこれまで運悪くエンカウントしてないだけでたまにくるお客様だと判明。私は隼人を推すと決意した。
なんとかして距離を詰めたい。でも、リアルの男性との関わりが希薄すぎた私はどうしたらいいのか分からない。
募る恋心、貯まるストレス。意味もなく大学に行って探してみたり、家を特定して見守ってみたりといった外堀を埋める活動しかできない自分に苛立ちながらも月日はあっという間に流れ、気がつけば夏の終わりが近づいていた。
このままではいけない。そう思っていた矢先だ。三次元で二人目推しが誕生した。




