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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第一章

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6/10

安全な場所

「もうあかんか思ったわ……」

 息も絶え絶えに言いながらテリーを見ると、テリーも肩で息をしている。

「ほんまな。でも、だから言ったやろ、あっこでべらべら喋んなって。フラグ立てすぎやねん自分」

「ごめんて」

 おれはポケットからキーを取り出し車の鍵を開ける。おれたちは車に乗り込むと大きなため息をついた。車の中に入ったことでさらに安心感が増す。

「写真残せんかったのは残念やな。テリーが撮ったんも全滅よな?」

「そやな。でも、しゃーないやん。あのおっさんまじもんやったで」

「まじもんやったな。口コミあてにならんかったな」

「どこが星二個や。危険度マックスやろ」

「ほんまな。まあ、でも刺激的な体験ができたってことでええか」

「ええんかそれ」

「ええねん。貴重な体験ってことで。じゃあ帰るで」

 おれがそう言ってエンジンをかけようとしたら、テリーが「ちょい待って」と言った。

「どうしたん?」

「あんな、落ち着いて聞いてな」

「おう、どうしてんほんま」

「これどう思う? このまま家まで向かったらやばいの連れて帰る事ならん?」

「これ?」

 テリーを見ると自分の足を指さしている。おれは天井のライトをつけてテリーの指をさす方を見た。

 真っ白の細い手が二本、床から生えてテリーの足を握りしめていた。 枝のような指がきりきりとテリーの足首にくいこんでいる。

「うおぉ!!」

 おれは思わず短く叫ぶと車から転がり出た。そのまま車から離れようとした時、テリーの雄叫びが聞こえた。慌てて車を見ると助手席でテリーがおれと自分の足元を交互に見ながら暴れている。これは状況を聞かなくてもわかる。足が掴まれて出られないんだ。

 このまま逃げ出したい、でも、テリーを見捨てるのか? そんな考えが逡巡する。でも、おれには見捨てることはできなかった。

 急いで助手席側に回りドアを開ける。そしてテリーの胴体をホールドすると、そのまま力一杯外に引っ張った。

 おれの行動にテリーがびっくりしていたようだけど、そんなこと気にしていられない。おれはやけくそで踏ん張ると、ズルズルズルズルと嫌な音と共にテリーを助手席から引き抜くことに成功した。

「立てるか? 走るぞ!」

「無理無理無理っ! 足が! 足が!」

 見ると、テリーの足に黒い髪の女がまとわりついている。バサバサの長い髪で顔は見えない。でも、車の下から出てきた時点で人間でないのは明らかだ。

「やばいのはおっさん一人で十分やねん!」

 おれは勢いよく黒髪の女に蹴りを入れる。物理攻撃が効くのかどうかわからないけれど、気がつけば体が動いていて、そして女に蹴りはヒットした。

 空の段ボール箱を蹴ったような軽い感触が足にきた。

 たぶん蹴られるなんて思ってなかったのだろう。女が血走った目を見開きこちらを見た。そして、短いうめき声とともに一度びくんと体を震わせて姿を消した。

「早よ立て! 逃げんぞ!」

「お、おお!」

 おれたちは無我夢中で走り出した。走っているとたくさんの足音が追いかけてきた。背後からひりひりするような凄まじいプレッシャーも感じる。

「なあ! 絶対なんか後ろから来てるって! 足音みたいなんするし!」

 近づいてくる気配が気になって振り向こうとしたら、テリーに肩を強く掴まれて止められた。

「アホ! ここは絶対に振り向いたらあかんに決まってるやろ! もうこれ以上フラグを立てんな!」

「ごめん!」

 そんなことを叫びながら、おれたちは廃墟に向かう途中に見たコンビニまで走り続けた。

 青く光るコンビニの看板が見えた時、立ち止まりたくなった。けど、ここで油断してはいけないと思い足を緩めることなく走り続けた。


 広いコンビニの駐車場には車が三台ほど止まっていて、車の中で寝ている人も見える。コンビニの中にも何人か人がいて、やっと胸を撫で下ろすことが出来た。追いかけてきた足音ももう聞こえない。

 コンビニに入ってすぐ、エアコンの風を浴びて自分が汗でびっしょびしょになっていることに気がついた。隣のテリーを見ても同じくシャツが体に張り付いている。

 このままじゃ脱水症状になるかもしれない、そんな危機感を持つぐらい汗をかいていたおれたちは二人分のペットボトルのスポーツドリンクとフライドチキンを購入。そのまま店内の端のイートインコーナーに移動し、座ると同時にスポーツドリンクを一気飲みした。

 フライドチキンを胃袋に入れてなんとか人心地ついたおれは、どっと疲労感が押し寄せるのを感じた。もう動ける気がしない。

「なあ、テリー。流石にここまで来たら助かったよな?」

「せやな、もう大丈夫やろ。大丈夫じゃなくてももう走られへんわ」

「ほんまそれ」

「せや、隼人……ありがとうな」

「え? なにが?」

 おれは何に対してお礼を言われているのか分からずテリーを見た。

「なにって、お前、助けてくれたやんか。車から逃げ出す時。おれ、助手席に取り残されるかと思ったわ」

「あー、あれな。そら助けるやろ。おれには人の心があるからな」

 ドヤ顔をしてやった。何かツッコミが来ると思ったのに、テリーは真顔でおれを見つめると、「せやな」と言うだけだった。少し引っ掛かりを感じたけど、おれはそれ以上に重要なことを思い出した。

「そや、車で思い出したけど、車どないしよ……」

「車? ああ、レンタカーな。取りに行くしかないやろな」

「それ本気で言ってる? もう一回あそこまで行くのやばない?」

 とはいえレンタカーを返さないわけにもいかない。それにここから歩いて帰るのもしんどすぎるし、車はなんとか回収しなければいけない。おれはどうしたものかと頭を抱えた。

「おれ行くわ」

「え?」

「日が昇ったらおれ行ってくるわ。隼人はここで待っとってや」

「それまじで言ってる? 一人で行くとか危な過ぎひん?」

「大丈夫大丈夫、明るくなる頃にはおれも体力回復してるやろうし、なんとかしてくるわ。それに」

「それに?」

「おれテディベアやし」

「関係あるんそれ?」

「世界中に愛されるテディベアやで? 明るい時間帯なら無敵やぞ」

「まじかよ」

「まあ、冗談はさておき、助けてもらったしその借りを返すだけや。せや、カメラ貸してや。ついでに趣のある心霊写真も撮ってきたるわ」

「まじか。でも、運転は? テリーって運転できんの?」

「任せろ。伊達に長生きしてへんねん」

「頼もしいな」

「タンクローリーでも余裕で転がせるわ」

「すげーなお前」

「タンクローリーは嘘や」

「嘘なんかい!」

 でも、テリーはかなり自信があるようだ。テリーの顔に無理をしているような気配はなく、本当に余裕そうだった。そんなテリーの顔を見て、おれはお言葉に甘えることにした。

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本当に大丈夫かな……?( ˘ω˘ )
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