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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第一章

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4/10

おれたちはやらかした

「お前ら、不法侵入ってわかるか?」

 おれとテリーは怒られている。それはもうばちばちに。怒っているのは自らをここの管理人と名乗るおっさん。もちろんおれたちが心霊写真を撮影しにきた廃墟のだ。

 カーキのつなぎを着て、安全靴を履いたおっさんは鬼の形相でおれたちを睨みつけている。目力が強すぎておっさんがかけてるメガネが割れそうだ。そして、おれたちはというと、おっさんの前で汚い床に正座して頭から怒声を浴びている。おれたちは完全にやらかした。


 おれたちが来たのは山の麓にあるかなり前に廃業したホテルだ。死亡事故や事件、宗教的なトラブルもなに一つ聞かない廃墟だけど、夜に行くと異音がしたり動画を撮ると変なのが映るとコメントが付いていた。危険度は五段階評価で二。飲食店のレビューサイトなら選択肢から外される評価だ。

 日が暮れてからレンタカーで突撃。テリーも行く直前までは「やめとこうや」と言っていた。けど、車に乗るとスイッチが入ったのか「おれが趣のある心霊写真をバチっと撮ったるわ!」とノリノリだった。

 アスファルトが割れて道があまりにも進みにくかったので、廃墟までまだ50mほどある所におれは車を止めた。時間は日付が変わるまであと二分切ったところ。おれとテリーは顔を見合わせて黙って頷き合うと、来る途中にホームセンターで買った大きな懐中電灯を一つずつ持って廃墟へと向かった。


 五階建ての小さなホテルだった建物。落書きだらけの折りたたみ式の塀をずらして敷地に侵入。月明かりに照らされて白濁した外壁が存在感を放つ。

 薄暗い建物の中に入ると当然ながらおれたち以外誰もおらず、建物内に響く音はおれたちの足音ぐらいだった。

 館内地図で現在地を確認すると一階はフロント、ロビー、食堂、大浴場になっていた。たぶん廃墟になってから誰かここで暮らしていたんだろう。カップラーメンやコンビニ弁当の容器、空のペットボトルや空き缶がそこら中に転がっている。

 目につく窓ガラスは全て割れていて、よく言えば風通しは悪くない。そのせいか熱帯夜にも関わらず、建物の中はどこかひんやりとしている。でも、心地よさはない。

 ざっと中を見た感じ、廃墟であることには間違いない。けれど、心霊スポットっぽい不気味さがあまりなく、おれは少し拍子抜けした。この程度なまだいける。そう思ったおれたちは客室がある二階へと向かった。

 泥や埃で汚れた階段を慎重に上がる。すると二階は思っていた以上に不気味だった。

 まず空気が澱んでいる。埃っぽい空気、カビのような嫌な臭い。心霊云々関係なく、衛生的にあまり長居はしたくない環境だ。マスクを持ってこればよかった。

 窓のない廊下は暗闇そのもので、通路も一階よりも狭い。床には大量の落ち葉や新聞紙、泥を被った写真がそこらじゅうに落ちている。二人同時に唾を飲み込む音がした。正直ちょっと、いや、かなり怖い。

 二階に来て気がついたけど、テリーと廃墟内での会話は皆無だった。一階にいた時に聞いた音といえばシャッター音と足音ぐらい。

 テリーは完全に写真撮影にのめり込んでいた。二階に上がってからはおれのスマホを睨みつけながら、角度がどうとかアングルがなってないとか文句を言いながら写真を撮りまくっている。声をかけても空返事ばかりなので、仕方なくおれは一人で探索を進める。

 ぐちゃぐちゃのベッドカバーやアメニティー用品に飾り付けられた部屋。剥がれた壁紙に蜘蛛の巣のようなヒビが入った鏡。意味不明な落書きがされた廊下。どこを見ても寒気がする。

 一階よりもやばそうな二階。でも、どういう場所を撮れば心霊写真が撮れるかわからないので、とりあえず不気味だと思ったものは、一眼レフで撮りまくった。高校時代に貯金して買ったものの、使う機会がなくて埃を被っていたやつだ。

「そろそろ帰らん? あんまり長居するのはやめとこや」

 ひとしきり撮影して、三階に行こうとした時、テリーに呼び止められた。テリーが懐中電灯をこちらに向ける。

「もうちょっとだけ。まだ心霊写真が撮れてない気がするし」

 実際、不気味な場所ではあるが不可思議な事は何も起きてない。怖いけど今帰ったら単に不気味なところに突撃しただけになりそうだ。わざわざ車まで借りたんだからなにか成果が欲しい。

「でもな、なんでも引き際が大事言うやんか。何か起こってからじゃ……」

「え、急に黙らんとって。焦るやん」

「…………」

「おい、ふざんけんなって」

 テリーが突然黙ったので、おれは不思議に思いテリーの方を向く。そっと懐中電灯の光をテリーに当てるとこちらを見て固まっていた。


「お前らここでなにをしてるんだ?」


 すぐ後ろから声がして、おれは腹の底から変な声が出た。驚いて懐中電灯を落としてしまい、光が変な方向を照らす。急いで懐中電灯を拾って声がした方向、上りの階段を見るとおっさんが立っていた。

「もう一回聞くぞ。お前らここでなにをしてるんだ? 事と次第によっちゃ警察を呼ぶぞ」

 ビビりまくっていたおれは、パンチの効き過ぎる言葉で一気に冷静になった。そして気がついた。あ、これはこれでやばい展開だって。

 おっさんはおれから強引に懐中電灯をひったくると「逃げるな。着いてこい」と言った。拒否権がないおれたちは、おっさんに続く形で202号室に案内された。そこは散策した中で一番ぐちゃぐちゃに荒れ果てているなと思った部屋だった。

 おっさんが電気のスイッチボックスを指で弾くと普通に電気がついた。少し部屋から不気味さが引く。でも、その代わりに汚さが一層際立った。

「座れ」

 おっさんが床を指さす。不衛生極まりないここに座るのか……。全力で拒否したかったけどそんなこと言える状況じゃなかった。何が写っているのかよくわからない古い写真を手で退けて、そろりと座ると床からヒヤリとした冷たさが足に伝わる。おれたちが座ると同時におっさんの説教が始まった。


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