奥ゆかしさのある心霊写真を求めて
「やっぱ、おれテリーのことプリティー系と思って引き取ってないねんけど」
食器を洗いながら三ヶ月前のことを思い返して言った。プリティーの『プ』の字の要素もない。
「そんなことないわ。テディベアの時のおれ見て心がときめかへん人間なんておらんで」
しっかりと胸を張るテリー。鳩胸にまでなってる。
「どこからその自信は湧き出てくんねん。そんな威張れるほどの見た目違うやろ」
「なんやと! それはお前の主観やんか。プリティーいうんは人によって基準が違うやんけ」
「まあ、そら人によるけど」
「やろ? めっちゃ不細工なデザインでも可愛い言う人はおるんやから。おれがおれはプリティー系言ったらプリティー系でかまへんねん」
「そういうもんなん?」
「そういうもんや」
本当にそういうものなんだろうか? なんだかかなり強引に丸め込まれている気しかしないけれど、テリーはこの話はもう終わり、という雰囲気を醸し出している。仕方がないのでおれは話題を変えることにした。
「なあ、プリティー系があるなら他にも種類があんの?」
「そら色々あるで」
事もなげに言うテリー。あるのか他の系統が。
「有名なんはオカルト系やな。髪の毛が勝手に伸びたり、血の涙を流す日本人形。夜になったらケタケタ笑いながら部屋を徘徊するフランス人形、あとなんやろ、食べ物に毒を混ぜ込んでくるビスクドールとかや」
「物騒すぎるやろ、特にラストの」
「今挙げたのは序の口や。でもほんまにあいつらは危ないで。ホラー小説とか映画とかにも出とるけど、実際はあんなもんちゃうで」
「違うって何が?」
「小説とか映画はだいぶマイルドにしてんねん」
「そうなん?」
「せやで。ほんまにやばいのは記録にも残らへんし、残っててもグロすぎるから作品にできひんねん。おれも怖すぎてあいつらとは絶対に関わりたくないもん」
「そんなに?」
「そんなに。あいつらほんま容赦ないねん。まじでキツすぎて見てられへんわ。隼人も気をつけや。あいつらは家に入れたらあかんで」
「そうか、わかった……」
詳しく聞いてみたい気もしたけど、聞いたら後悔しそうだったのでやめておいた。
食器を洗い終え、冷蔵庫からレモンの缶チューハイを取り出し飲みながら机の前に座る。
『次の写真はN県のある廃墟で撮影されたものです』
テレビの中で司会者が一枚の心霊写真を紹介する。ある廃墟の中のぬいぐるみだらけの子ども部屋。窓に子どもの顔のようなものが映っている。
場所はわからないけれど、同じ県内にこんなヤバそうな場所があるのかと微妙な気持ちになった。でも、考えてみたら当たり前か。心霊スポットなんてそこら中にあるんだから。
「これ、偽物やん。生成AIちゃう?」
テレビに向かってぶちかますテリー。
「まじ?」
「まじ。普通こんな写り方せんで。もし本物ならずぶの素人。よく見てみこの写り込み方、品性の欠片もないやん」
「品性とかあんの? 心霊写真に?」
「あるで。プロは奥ゆかしさを出すからな。にしても、あんなにたくさん……あいつらも捨てられたんかな……」
口調はいつも通り。でも、テレビを見つめるテリーにはなんとなく違和感あった。目がなんだか怒っているような、そんな気がした。それに最後なんかぼそっと気になるフレーズが聞こえた。
「どうしたん? そんなに見つめられたら照れるやん」
「え、ああ、すまん。奥ゆかしさってどんなんかなと思って考え込んでた」
おれの視線に気がついたテリーに話しかけられて、おれは咄嗟に誤魔化してしまった。でも、心霊写真の奥ゆかしさってなんだ? 口に出した途端、奥ゆかしさのある心霊写真が気になり始めたおれは、すぐあることを思いついた。
「なあ、テリー。心霊写真撮りに行かへん?」
「は? なんで? もしかして、怖がりって言われたこと気にしてる?」
「してへんわ! それに怖がりちゃうし」
「ほんまかー? そうは見えんけどな」
「うっせぇ」
少し図星だった。怖がりだけど怖がりと言われたままなのはちょっと嫌だった。でも、それを指摘されて認めるのはもっと嫌だ。
「心霊写真撮れたらおもろない?」
「おもろいかそれ? てか、お前危ないとこにわざわざ行くとかアホなん?」
確かにそうかもしれない。でも、今更引き下がれない。
それに、心霊スポットに行くのは刺激がありそうだし、できることならテリーが言う『奥ゆかしさ』のある写真が撮ってみたい。それに写真が撮れなくても楽しめそうな気もする。
怖くないといえば嘘になるけど、単調な毎日につまらなさを感じていたおれはわくわくもしはじめていた。
「テリー、さっきおもろいことは自分で起こすもんや言うたやん」
「言うたけど危険なとこ行かんでもええやんけ」
「虎穴にいらずんばって言うやん。それなりのリターンを得るにはリスクはつきものやろ?」
「お前、その発言絶対フラグやん。ホラー映画で真っ先に死ぬ奴が言うセリフやで」
テリーに指摘されておれも気がついたけど、おれ目をつむることにした。
「まあ、そんなやばいところには行かんって。五段階でいくと二とか三ぐらいの所なら大丈夫やろ」
「その評価って信頼できるんか? 飲食店の口コミサイトよりも信憑性低そうやけど」
おれはテリーを無視して心霊スポットのまとめサイトで場所の選定を始めた。そして、車で五十分ほど行ったところにある廃墟に行くことを決めた。




