詐欺会社の末路
小寺のおばあちゃんとクーリングオフの葉書を出して一週間が経った。夕飯を食べ終えてリビングで寝転がっているとイケメンが「隼人ちょっとええか?」とテーブルの向こうから声をかけてきた。
「どないしたん?」
「詐欺会社から返事の葉書は届いた?」
「ああ、ちゃんと届いたで」
昨日、たまたまおばあちゃんと会った時に葉書が届いたと言って見せてくれた。おれはそれを見て目を疑った。
『当社は、下記工事請負契約を締結いたしましたが、特定商取引に関する法律に基づきクーリングオフしたことをご通知申し上げます。』
この文の下には契約内容として『湯沸かし器交換工事に関する契約』とまで明記されていた。
おばあちゃんは見積りしかしてないって言っていた。なのに契約したことになっていたなんて。確実に詐欺だと思った。
おれはそのことを簡単にテリーに説明した。
「良かった! それなら心置きなく叩けるわ。ちょうど準備できてん」
「準備ってなんの?」
「そら詐欺会社潰す準備やんか」
「まじで?」
「まじ。な、えっちゃん」
テリーが右後ろに顔を向けると、スッと床から体格のいい女が現れた。
黒のタンクトップに黒いパンツ。その上からバサっと黒のレザーコートを着た女。この人、えっちゃんなん?
「えっちゃん、アクション映画にでも出るつもりなん?」
突然の登場にも驚いたがそれ以上に服装と鍛え抜かれた体に驚かされた。顔は相変わらず髪で見えないけれど髪は艶々ですごく綺麗になっている。
『………………』
「そんな予定はないって」
「……そっか。でも、めちゃくちゃ強そうになってるな」
『………………』
「最近素手でクマに勝てるようになったって……え? すごいやんえっちゃん! 強なったなあ!」
テリーに褒められて顔の前で手を振り照れるえっちゃん。え、おれ、こんな化け物と戦わなあかんの? 死ぬやん。呪いとかじゃなく物理的に。
「えっちゃんが詐欺会社潰してくれるて」
「……え? どういうこと?」
考え事をしていたせいでリアクションがワンテンポ遅れてしまった。
「詐欺会社の潰し方をえっちゃんに相談したら、最近編成した部隊なら一カ月で会社を潰せるって言ってくれてん」
「ごめん、部隊てなに?」
「おれらが行った廃墟のホテルあるやろ? あそこ周辺の幽霊やら化け物やらに声かけして、みんなで訓練してんて。で、その中の成績優秀者で編成した部隊があって、是非それのデビュー戦を飾らせてほしいんやと」
意味がわからない。訓練てなに? あと、部隊ができるほどあそこって幽霊や化け物がおるん? おれはゾッとした。
「誰もギリ死なへん程度に、でも一生のトラウマになる感じでいける?」
『………………』
「おい、勝手に話を進めんなよ」
「ほな頼むな」
『………………』
「おい!」
えっちゃんはおれを無視して煙のように消えた。
「大丈夫や。クソみたいなやつらは怖い思いしたらええねん」
「いやいや、そういう問題なん?」
「そらそや。人にわざと迷惑かけるようなやつらに人権なんてないねん……と言いたいけどこのご時世そんなこと言われへん。でも、嫌やろ? 法律触れてるやつが法律に守られてるって」
「まあそら嫌やけど」
「なら怖い目にぐらいあわせてもええんちゃう?」
「お前、発想が怖いな」
「そうか? おれはテディベアやからな。弱いものの味方なだけよ」
そう言って笑うテリーの顔はやはり寒気を感じるものがあった。
えっちゃんたちがなにをしたのかはおれにはわからない。でも、東邦設備株式会社は潰れたみたいだ。テリーがえっちゃんに依頼して一カ月が経つ頃には会社のビルが廃墟になったらしい。
このことはSNSで知った。東邦設備株式会社で検索すると不気味な投稿がたくさん出てきた。
・夜に叫び声が聞こえた
・同じ顔の人を何人も見かける
・喪服を着た人が何人も入っていくが、出ていくところを見たことがいない
・夜、ビルの屋上にアクション映画に出てきそうな格好の女が立っていた
・ビルの入り口が閉鎖された
・毎日朝の九時に笑いながら会社の周りを走り回る男がいる
・売地と書かれた紙が貼られた
嘘か本当かわからないが、従業員の大半がある日突然会社に来なくなった、みたいな投稿もある。
このことをテリーに伝えると
「流石えっちゃん、いい仕事するやん。労いの言葉かけとくわ」
とにやりとしながら言った。おれは「おう……」と言うだけでそれ以上深くは聞けなかった。
詐欺会社が最終的にどうなったのかはわからないけど、おれは小寺のおばあちゃんにめちゃくちゃ感謝されていた。
「坂口くんには本当に感謝してるの!」
おれは大したことしていないのに、感謝されまくり、終いには「これ、私の知り合いがやってるお店なの。よかったらご飯食べてきて!」と言って高そうなレストランのお食事券をもらった。
「彼女でも連れて行ってあげなさい」
悪気のない言葉が胸を抉る。おばあちゃん、おれ彼女いない。でも、そんなことを言うのは野暮な気がして、おれは笑顔で券を受け取った。
レストランは県内の温泉街にあった。仕方がないのでおれはテリーを連れて美味しいご飯を食べにいくことにした。
せっかく温泉街に行くのなら温泉に入ってゆっくりしたい。そこでおれたちはご飯を食べた後温泉を回り、温泉街の隅っこにあるホテルで素泊まりして帰る計画を立てた。
当日、テーブルマナーを求められる高級レストランで、カジュアル過ぎる場違いな服装の若者二人が浮いてしまうという事態は起きた。でも、それ以外は特にトラブルはなく美味しいコース料理に舌鼓を打ち、温泉に入り、温泉街を満喫した。
日が暮れて、居酒屋で簡単に夕食を済ませたおれたち。あとは泊まって寝るだけだった。
そう、そうなるはずだったのに部屋の予約が取れていなかったらしい。そして、空いている部屋が訳ありで、おれたちはそこに泊まることになってしまった。




