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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第三章

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給湯器の詐欺

 一昨日の夕方、大学からの帰り道。小寺のおばあちゃんの家から作業服を着た若い男が出てきた。そしてその背後には少し不安そうな顔をしたおばあちゃんがいた。

「こんばんは。おばあちゃん、なにかありました?」

「あら、こんばんは。いや、ちょっとねえ……」

 困り顔のおばあちゃん。手には粗い印字で読みにくい見積書と書かれた書類があった。

「そろそろ給湯器の耐用年数が限界だから交換した方がいいって言われたんだけど、なかなか高くてね」

「耐用年数が限界? そんなに長いこと使ってたんですか?」

「いやあ、そんなはずはないんだけど……」

「え、じゃあなにか間違ってるんじゃ?」

 おばあちゃんの話を聞いて引っ掛かりを感じた。これはあまりよくない気配がする。

「でも、こないだ私が契約してるガス会社から電話があったのよ。定期点検のタイミングのため、近いうちに作業員が点検に行かせてもらいますって」

「あ、前もって電話があったんですね」

「そうなの。さっきの人は関連会社の人らしいんだけど、先日の電話の点検の件で来たって言ってたわ。だから変な人じゃないとは思うんだけど……」

「だけど?」

「なんとなくだけどね、見積りが高い気がするのよ。でも、さっきの人はうちは関連会社だから安い方だって言うし……」

 見積りを見せてもらう。金額は十万円と消費税。おれはまだ人生経験が浅いからこれが高いのか安いのかわからない。でも、見積書の文字の横には手書きの斜線で消されているが『兼 契約書』と書かれて、なんだか怪しい。

 見積りに給湯器のメーカー品番が載っているのでとりあえず調べてみる。

 給湯器の定価はどうやら五万円代。でも、型が古いのか半額の販売ページばかり出てくる。

 給湯器が仮に五万として、施工費と古い給湯器の回収費用が五万もするのだろうか? ちょっと高すぎる気がする。

「これ、もしかしたら詐欺かも……」

「あら、そうなの?」

「なんとなくだけど、そんな気がします」

「それは……えっと……困ったわね。どうしましょう……」

 弱り顔で固まるおばあちゃん。そんなおばあちゃんをこのまま放置なんてできない。悩んだ結果、「この見積書、借りてもいいですか? なんとかできないか調べてみます」と言っておれは厄介ごとを引き受けてしまった。


「東邦設備株式会社は弊社の関連会社ではございません」

 ガス会社の営業所に電話をして聞いてみたら、嫌な予感が当たってしまった。これ絶対詐欺だ。おばあちゃんに借りた書類をよく見ると見積書なのに契約日の欄まである。

「それはちょっと怪しいですね。見積もり日ではなくて契約日ですよね? ちゃんと対応なされた方がいいと思いますよ」

 そう言ってくれたのは消費者センターの電話窓口のお姉さん。こういうのはどこに相談したらいいのか考えたところ、思い浮かんだのが消費者センターだった。

「ちゃんとってメールとかですかね?」

「そうですね。クーリングオフされた方が無難かと思います」

 クーリングオフ。よく聞くやつだ。よく聞くけどやったことはないし、まさか自分がやる日が来るとは思ってもいなかった。おれはお姉さんにお礼を言ってから電話を切った。

 クーリングオフってどうやるんだ? 困った時はとりあえずAIだ。アプリを起動してから簡単に経緯を説明。見積書に詐欺会社のメールアドレスがあったので、クーリングオフするためのメールの文面作成を依頼。するとものの数秒できっちりした文面が出てきた。


『知り合いのおばあさんの負担を減らすため、業者とのやり取りはあなたが代理で進める想定で書いています。あなたがおばあさんの代理人として対応する場合、そのことを強調するために、委任状(簡単な書面で問題なし)があるとよりスムーズな可能性があります』


 メールの文面とともにアドバイスをくれるAIさん。めちゃくちゃ親切だなと思う反面、おれがそこまでする必要ってあるんだろうかと躊躇いが生まれた。

 小寺のおばあちゃんはいい人だし嫌いじゃない。でも、親戚でもない人のために怪しい詐欺会社に自分の個人情報を晒すのは抵抗がある。

 ちょっと葛藤をしながらパソコンを眺めていたタイミングだった。テリーが声をかけてきたのは。


「なら、それ消費者センターの人にそのまま伝えたらええやん」

「え?」

「おれは隼人がそこまでせんでええと思うで。怪しい会社に個人情報は渡さんほうがええやろ。せやな、例えばメールはやめて葉書にしたら? 文面は印刷してあげて、住所のところだけおばあちゃんに書いてもらえばええやん」

「なるほど」

「まあ、もう一回消費者センターに相談してみ。たぶんなんとかなるで」

「なんとか?」

「騙されたと思ってやってみ」

「そんなに言うなら……」

 テリーに言われるがまま再び相談をしてみる。前と違うおばさんが電話に出た。おばさんに事情を説明すると葉書で問題ないと言ってくれ、さらに消費者センターから電話で契約キャンセルの申し入れをしてくれることになった。

「私からも電話で言いますが、契約破棄の旨の返事を葉書でよこすように書いてくださいね。こういうのはちゃんとしておかないと契約済みだとかなんとか言ってきてトラブルになることがあるので」

 おばさんはすごく丁寧に最後まで教えてくれた。でも、おばさんの話を聞いて詐欺会社って本当に面倒くさいなとも思った。まじで滅びればいいのに。大佐になって天空の城から雷でも落としてやりたい気分だ。

 電話を終えてテリーを見ると得意げな顔をしていた。電話の音量を大きめにしていたから会話内容は聞こえていたみたいだ。

「な? だから言ったやろ」

「なんでこうなるてわかったん?」

「そら経験やで。何年生きてると思ってんねん」

「まさかクーリングオフの経験まであるとは思わんかったわ」

「そらテディベアやからな。おれかてクーリングオフされる可能性があるんやから、そのあたりはしっかり勉強してるて」

 そうか、元々はおもちゃ屋さんとかで売られていたからクーリングオフ関連の知識があるのか。おれは素直に関心して「すげーな」と言った。

「冗談や」

「冗談かい!」

「まあ、そんなことよりどうする?」

「どうするてなにが?」

「その詐欺の会社、潰す?」

「は?」

 おれはテリーがなにを言ってるのか意味がわからなかった。

「悪い会社やったらさ、潰した方が新しい被害者出さんで済むやろ?」

「そらそやけど潰せるもんなん?」

「任せとき。雷落としたり爆破したりはできひんから物理的には消されへんけど、営業できひんようにはできるで」

 そう言ってにやりと笑うテリーの顔はどこか化け物じみていた。


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― 新着の感想 ―
ハハッ、見ろ! 詐欺会社がゴミのようだ!! ハッハッハッハッハッハッ!!
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