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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第二章

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14/17

悲しい現実

 全部私が悪いんだ。

 推しを作りすぎた、それで罰が当たったんだ。リアルで推しを二人も作っちゃったから。浮気しかけたことを隼人に謝らなきゃ。私はそんなことを考えながら隼人の家まで全力で走った。

 もうすぐ隼人の家。そんな時、前方の横断歩道で信号待ちをしている隼人を見つけた。手にはかもめ亭のレジ袋を持っている。

「隼人!」

 気がつけば私は叫んでいた。私の声を聞いて、隼人はびくんと体を震わせてから振り向く。そしてこっちを不思議そうな顔で見た。

「えっと……もしかしてかもめ亭の人……ですよね? なんでおれの名前知ってるんです?」

 怪訝そうな顔の隼人。そんな顔も素敵。でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。

「隼人、今すぐ私と逃げて。テリーが、テリーが人間じゃなかったの!」

 息をどうにか整えながら私は真実を告げた。

 仲のいい友達が人間じゃない。隼人にとってかなりショッキングな内容だけど私はストレートに伝えた。今は信じてもらえないかもしれない。でも、このことは今すぐ伝えてあげなきゃいけないと思った。

「あ、お弁当屋さんも知ってたんですね。でも、逃げるってなんで?」

「……え? 知ってたの?」

「ええ、一緒に住んでますから」

 私は拍子抜けしてしまった。守らなきゃいけないと思ってたのに、隼人がテリーの正体を知ってたなんて。そんな、私はじゃあどうしたらいいの? 考えていた逃避行の未来までも瓦解していく。

 ポケットのスマホが震える。取り出して画面を見ると内定先の銀行からメールが届いていた。通知画面に表示されたメールの件名を見て思わず目を背けた。私の未来は真っ暗闇となった。

 全身から力が抜けて膝から崩れ落ちる。絶望に心が覆われて涙も出ない。

「いきなりダッシュするからびっくりしたわ」

 後ろからテリーの声がした。でも、私はもうなにもかもどうでも良くなった。プツンと何かが切れる音がした。その途端視界がブラックアウトした。




 夕方、テリーが野暮用でちょっと出かけると言って家を出た。テディベアの野暮用ってなんだろうと思いながらも夕飯の弁当を買いに行った帰り道、弁当屋さんのお姉さんに声をかけらた。

 名前も知らない人に「私と逃げて」って言われて驚いていたら目の前で気絶された。なにこの状況。怖いんですけど。

「テリー、弁当屋さんの人となんかあったん?」

「いや、大したことあらへん。このお姉さんがおれらのことストーカーしてたから、あかんでってお説教しただけやで」

「おれら……え? ストーカー!? まじで?」

「まじで。でも大丈夫、反省してるみたいやし」

「反省というか、気絶してるけど大丈夫なんこれ」

「大丈夫大丈夫! えっちゃんが面倒見る言うてるから」

「えっちゃんで誰やねん」

「誰って隼人も知ってるって。えっちゃん今出て来れる?」

 テリーがそう言うと、テリーの影からぬっと女の人が出てきた。

 白いワンピース姿の細マッチョ。こんな人知らないし、人ですらないだろ。影から出てきたぞこの人。

「こないだ行った廃墟でおれ車の中で足掴まれたやろ? えっちゃんはあの掴んできた女の人やで」

「まじかよ、体型変わりすぎちゃう?」

「そら隼人にリベンジするために鍛えてるからな」

「どういうことそれ?」

「前回隼人に蹴り飛ばされたことがショックでフィジカルを強化することにしてんて」

「なんのアスリート思考やねんそれ」

『……………………』

 えっちゃんがテリーになにか耳打ちをする。

「そこそこ鍛えたつもりやったけど、トレーニングが足りひんてわかったからリベンジマッチはもうちょい先にさせてって」

「いや、したくないんやけどそんなん」

「リベンジマッチぐらいしたれよ」

「なんで幽霊と格闘せなあかんねん」

「ええやん、いい経験なるで」

「なるかい!」

「それはさておき、えっちゃん、この弁当屋の人の性格を叩き直してくれるらしい」

「どういう風の吹き回しそれ?」

「幽霊になる前の自分に似てるんやって」

「コメントしにくいはその情報」

「親近感湧くからこのまま放っておけへんねんて。気持ちがわかるからこそ更生するサポートがしたいんやと」

「なるほど……」

「ついでに対人戦の手合わせ要員にもなってもらってWin-Winな関係を築くんやと」

「ほんまどこの武道家やねん」

 ふと、視線を感じてえっちゃんを見る。長い髪で顔は見えないえっちゃん。えっちゃんはおれに向かってシャドーボクシングを始めた。

「必ずノックアウトしてみせるから覚悟しておけよ、やって」

 通訳のように伝えてくるテリー

「おれの負けでいいから再戦は勘弁してくれ」

 おれは心からお願いしたけどえっちゃんには聞き入れてもらえなかったようだ。夕日が沈む住宅街にしばらく拳が暗闇を切り裂く音が響いた。


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