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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第二章

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喋るテディベア

「あれ、聞いてる? とりあえずそのスマホ置きいや。どうせまた誰かの悪口書こうとしてたんやろ。やめときそんなこと」


 テディベアはすくりと立つと、右手で頭をかきながら言った。比喩とかじゃなく本当に動いてしゃべった。テディベアが。ありえない光景に言葉を失う。

「あ、あれ? 自分気づいてたんちゃうの?」

「気づいて……え? でも、この声は……」

「いつも唐揚げ弁当買わせてもろてるテリーや。こんばんは」

「あ、こんばんは」

 テリーの声で話すテディベア。意味がわからない。でも、なぜかテディベアの会話のペースに引っ張られていく。

「ほんま美味しねんな、あんたのとこの唐揚げ。もっと自信持ってええで」

「ありがとうございます」

「でもな、あかんで。人に迷惑かけることしたら。あんたはもうスリーアウトや」

「スリーアウト?」

 三つもダメなことをしたってこと? 私が? 心当たりがなさすぎる。

「え、わからへん? 野球しらんくてもスリーアウトぐらいは知っときや。義務教育でやったやろ?」

「いや、わかりますよスリーアウトぐらい。あと、義務教育関係ないし。心当たりがないんです」

「あ、そっちかー。とぼけるってことな。なら早速いこか。一つ目、おれのボタンぱくったやろ? 今、化粧ポーチに入れてるのわかってるからな」

「!?」

 ボタンをポーチに入れていることは私以外知らないはずなのにどうしてバレてるの。バレていたことが恥ずくて、私はカッと顔が熱くなる。

「二つ目、捨て垢で気に入らんアカウント攻撃しすぎな。一線超えてるし、隠蔽工作までしてタチ悪いで」

「え、なんで……」

「おっと、お口チャックや。今はおれのターンやからこのまま話させてもらうで。あんたは今から裁かれる人なんやから」

 テリーがそう言った途端、私の口は縫い付けられたかのように開けなくなり、なにも言えなくなった。声を出そうとしても呻き声にしかならない。

「三つ目、ストーカー行為はやっぱあかんで。なんな当たり前のようにしてるけど、普通ちゃうでそれ」

 家の中でも視線を感じてはいたけど、そこまでバレてたなんて。じゃあ視線の送り主はこのテディベアだったってこと?

「なんでバレたか不思議そうやな。おれは優しいから教えたろ。ボタンや」

 ボタン? ボタンってどういうことだろう。

「あんたが拾ったボタン。あれ、おれの体の一部みたいなもんやからさ。どこにあるか大体の場所がわかるんよ」

「え……」

「GPSみたいな感じや」

 テリーが私のバッグを指さして「今はあん中やろ?」と的中させた。私は目を逸らすことしかできなかった。

「様子見してたら、あんた怪しい動きするな思ってん。そんでえっちゃんに協力してもらったんや」

 協力してもらった? このテディベアはなにを言ってるんだ。そもそもどうしてテディベアが話してるの? その時点でおかしい。意味不明な状況から逃げ出したいけど、どうしたらいいのかよくわからない。

「えっちゃんの脅かし方、どうやった? 今回かなり工夫したって言ってたけど」

 だからえっちゃんで誰? なんて思ったらチャックが開く音とともに口が開くようになる。そしてそれとほぼ同時に天井から突然人が音もなく床に落ちた。

 いきなりの出来事に、私は短い悲鳴を上げることしかできなかった。

 テディベアの後ろに落ちた人は何事もなかったかのように立ち上がる。

 白いワンピースを着た黒髪の女性。髪に隠れて顔は全く見えない。ノースリーブから見える腕は鍛え抜かれたアスリートのようだ。

「こちら、えっちゃん。あんたの見張りや」

 長い髪を見て私はハッとした。

「もしかして、私が感じた視線とか、部屋に落ちてた髪の毛って」

「えっちゃんやろ?」

『………………』

「うん、えっちゃんやって。驚かしたろ思ったんやと」

 怪奇現象の原因がわかった。わかったけど犯人が化け物だったら怖いままだ。テディベア姿のテリーとえっちゃんと呼ばれる女はなにやら楽しそうに話している。この状況、どうしたらいいんだろう。

「さて、久本さんやっけ? えっちゃんから報告受けててんけど、あんたえらいえげつない誹謗中傷するんやな。そんなことして心痛まへんの?」

「誹謗中傷? 私がしてるのは推し活です」

「推し活いうても人傷つけるのはあかんやろ」

「私はJupiteRの活動を邪魔する存在を消してるだけよ。誰かがやらないといけないことを私がしてあげてるの」

 私がやらないといけない。だからやっているのに誹謗中傷って言われるなんて心外だった。

「そんな独りよがりな正義はただの迷惑行為やろ。まあええわ。あんたスリーアウトやからさ、ちょっと痛い目にあってもらうな」

「私が? どうして? 誰にも迷惑をかけてない私が?」

「はいお口チャック。もう喋んな」

 また口が塞がれる。

「あんたの未来、潰させてもらったから」

 未来? 潰す? 訳がわからず私は頭がフリーズした。

「たぶんもうすぐ連絡が来ると思うけど、先に教えといたるわ。あんたのSNSでの誹謗中傷やけど、リークしたから」

 リーク? 誰に?

「ピンとこんか? もちろんあんたの内定先や。こんなことしてるやつ雇うんか? って送っといたから。あと、ついでやし大学とバイト先の会社にも流しといたで」

 頭の中が真っ白になった。それ、やばくない? 大学卒業もだけどバイトはクビだし、それどころか内定が消される可能性があるんじゃ……

「また就活せなあかんな!」

 血の気が引いた。この時期からまた就活。もう大手は絶望的だ。安泰に思えた推し活の未来が音を立てて崩れ去る。真っ暗になった未来が怖くなった。

 テーブルの上で愉快そうに笑うテディベア。それを見て私は恐怖を超える怒り感じた。

「そや、そのうち訴えられるから腹括りや」

「え?」

 いつの間にかまた喋れるようになっていた。

「おれな、優しいから被害者の皆さんに情報リークしたってん。あんたが書き込み主やでって」

「え、ちょっとどういうこと?」

「そのままんやで。ついでにあんたの自白動画もおまけで送ったから訴えられたら敗色濃厚やな」

「自白動画? なにそれ」

 私が言い終わるかどうかのタイミングで、えっちゃんと呼ばれる女がスマホをこちらにかざした。画面の中で私は一人ケラケラと笑いながら喋っている。

「この書き込みは私がやりました!」

「理由はストレス発散のためです!」

 これ、夢で見たやつだ。すぐにわかった。でも、動画に残ってるってことは夢じゃなかったってこと? でも、これを送られてるってことは、私かなりやばくない?

 冷や汗が止まらない。どうしてこんなことになったんだろう。焦りから思考がまとまらなくなる。

 そもそもテリーに興味を持ったのがいけなかったんだ。隼人一筋にしていれば……


 隼人は? 隼人はこんなテディベアと仲良くしていて大丈夫なの?


 頭の中に電流が流れた気がした。

 こんなところで打ちひしがれている場合じゃない。隼人を守らなくちゃ。守れるのは私だけだ。

 私は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

「ん? どないしたん?」

 ぬいぐるみが何か言ってる。でもそんなことどうでもいい。今私がすべきことは隼人にテリーが人間じゃないって伝えること。そして隼人ともに遠くに逃げることだ。

 私は目をカッと開くと勢いよく立ち上がり走り出した。進行方向にいた女の化け物にタックルをかまし転倒させると、そのまま玄関へダッシュ。スニーカーに足を突っ込むと鍵もかけずに家を飛び出した。


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