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テディベアは夜笑う  作者: 鞠目
第二章

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10/10

初めて話すことができたのに……

 先週、隼人の来店が二週間開いた。仕方がなく生存確認をするため、私はバイト終わりに歩いて二十分ほど離れた隼人の家に向かった。

 生存確認といっても会いに行く勇気はない。そのためいつも隼人の住むマンションから十五メートルほど離れたところから見守っている。コインパーキング横にある自動販売機の物陰が定位置だ。

 スマホを見ると二十時過ぎ。いつもなら家にいるはずなのに、今日はまだ電気がついてなかった。

「どこか出かけてるのかな……」

 心配になりこのまましばらく様子を見るか悩んでいると、後ろからすごい勢いで足音が近づいてきた。

「まじでふざけんな! 隼人はフラグ立てすぎやねん!」

「ごめんて! でもあの顔はおっさんすぎるやろ! 無視するとか無理やって」

 二人の男性がなにか揉めながらもすごい勢いで走り去っていった。走っていった一人は隼人で間違いない。

 よかった、ちゃんと生きてた! こんなところで会えるなんて、やっぱり隼人には運命を感じざるをえない。

「待てやお前ら! 誰がおっさんじゃボケ!」

 私の幸福感をしわがれた怒鳴り声がぶち壊す。びっくりして私が思わず体を震わせている間に、私の横を一頭の犬が走り過ぎ、前を行く二人を追いかけていった。幼稚園児ぐらいなら乗せて走れそうなそこそこ大きな犬だったけど、犬種はわからなかった。

 今の声は一体誰が? 周りを見てもしわがれ声を発したであろう人は見当たらない。

「もしかしてあの犬?」

 一瞬過ぎてわからなかったけど、走り去った犬の顔がやけに大きくて、しかも頭のところだけ毛並みが違ったような気がした。

 毛並みっていうか髪型? 音楽の教科書で見たベートーヴェンの肖像画みたいな感じだったような……でも、そんな犬いる?

「まあ、いいか。そんなことより隼人の隣にいたのは誰だろう……」

 私にとって犬なんかよりそっちの方が重要だった。だってさっき隼人の隣を走ってた人の声、JupiteRの声にそっくりなんだもん。


 隼人の友だちの名前は思っていたよりもすぐにわかった。テリーというらしい。初めて会ってから二週間後、二人揃って弁当を買いに来てくれた。

「テリーも唐揚げ弁当でいい?」

「ええで」

 店内での二人の会話。隼人の来店が見えたタイミングで他のバイトに揚げ物の調理を命じて私はレジへ移動。束の間の推しとの時間を楽しんでいるとあっさりと名前が聞けた。名前というかあだ名だろうけど。

 テリーの外見は凶器だった。国宝級イケメンと評しても誰もが納得するルックス。茶髪にくしゃくしゃとしたパーマ。少し気だるげな顔。

 高校時代にハマったアニメ、デッドイーターに出てくるマッドサイエンティストのシュタインにそっくりなテリーの見た目。隼人とは違うタイプだけどイケメン過ぎで心拍数が跳ね上がる。しかもJupiteRに似た声ときた。私にとっては罪すぎる存在だ。

 テリーも同じ大学なのかな、なんて考えているうちに隼人の接客を終えてしまった。私としたことが痛恨のミス。せっかくお釣りを渡す時に隼人の手を握るチャンスだったのにうっかりしていた。

 店を出る二人の背中を眺めながら己の愚行に落ち込んでいると、テリーがなにかを落とすのが見えた。小さくて茶色いものが床で跳ねるが、そのタイミングで二人とも店を出てしまい気づいていなかった。急いで駆け寄って拾ってみると茶色い木のボタンだった。

「あの、お客様、落としましたよ」

 私はボタンを持って店を出るとテリーに声をかけた。

「え? ああ、おれか。すみません、ありがとうございます」

 私の声に気がついた二人。テリーはすぐに自分のことだと気づいてくれた。

 テリーにボタンを手渡す時、ふんわりと懐かしい匂いが香った。

 少し埃っぽさがあるけど、お日様をたくさん浴びた柔らかなぬいぐるみのような香り。懐かしい香りが幼い頃の記憶を呼び起こす。

 子どもの頃、唯一私を可愛がってくれたおばあちゃん。おばあちゃんが私の誕生日にくれたクマのぬいぐるみもこんな匂いだった気がする。

 おばあちゃんは私が中学生になる前に死んでしまった。その時、どさくさに紛れておばあちゃんがくれたぬいぐるみも母に処分されていた。理由は汚いから。

 懐かしくも寂しい記憶を思い出してぼーっとしてしまった私は、つい匂いに引っ張られて「テディベアみたい」と口走ってしまった。

「今、自分なんか言った?」

 テリーに聞かれて私は我に返った。

「すみません、なんだかぼーっとしちゃって」

 私は大慌てで謝ると、頭を下げて店に戻った。なんであんなこと口走ってしまったんだろう。恥ずかしくて直視できなかったけど、テリーはかなり怖い顔をしていたような気がする。もうお店に来てくれなくなったらどうしよう……。

 私は少し絶望していた。

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