第19話 「永遠に続く二組の微笑み」
春を告げる花が咲き誇る庭園。侯爵家の広い中庭では、ミラとアーロンが並んでベンチに座っていた。
花々の香りが優しく包み、穏やかな風が二人の髪をなびかせる。
「ミラ、君は本当に花が好きなんだね」
アーロンが柔らかく笑うと、ミラは少し頬を染めた。
「ええ……小さい頃から、庭いじりが好きで……。こうしてアーロン様と一緒に見られるなんて、夢みたいです」
言い終えたミラははっとして、慌てて両手を振った。
「ち、違います! その……夢みたいというか……えっと……!」
アーロンは堪えきれず吹き出した。
「君は本当に正直だね。そんなところが好きなんだよ」
その言葉にミラの動きが止まった。
「……アーロン様、それって……」
「うん。君がいい。身分なんてどうでもいい。君の笑顔を見ていると、他のことなんて全部霞んでしまうんだ」
ミラの瞳が大きく揺れた。
「わたし……わたしなんて……侯爵家の方に釣り合うような娘では……」
「君じゃなきゃ、だめなんだ」
アーロンの真剣な眼差しに、ミラの瞳が潤む。
次の瞬間、彼はそっとミラの手を握った。
その温もりが胸の奥に広がって、ミラはもう何も言えなかった。
その様子を、少し離れた場所でレイナとエリオットが見守っていた。
「ようやく……ですね」
レイナが微笑むと、エリオットは頷きながら彼女の肩をそっと抱いた。
「君のおかげだよ。ミラもアーロンも、やっと本当の気持ちに気づけた」
「いえ……わたくしは、少し背中を押しただけです」
「それでも十分さ。レイナは本当に優しいね」
「そ、そんなこと……ありません」
恥ずかしそうに俯くレイナの頬に、エリオットは指先で触れる。
「照れてる顔も、やっぱり可愛い」
「……もう、殿下……。お言葉が甘すぎます」
「甘くしてるのは、君が可愛いからだよ」
エリオットの囁きに、レイナの心臓が跳ねた。
そのとき、ミラが遠くから手を振ってきた。
「レイナ様ー! 殿下ー! 見てください! アーロン様が花を飾ってくださったんです!」
アーロンの隣で、ミラの髪に小さな白い花が咲いている。
レイナは嬉しそうに微笑みながら、小さく手を振り返した。
「二人とも、本当にお似合いですね」
「そうだな。……でも、僕には君がいる」
「殿下……もう、そういうことをおっしゃっては……」
「いいじゃないか。今は春だ。恋を語る季節だろ?」
エリオットが笑うと、レイナもとうとう笑ってしまった。
穏やかな風が二人の髪を揺らし、花びらが空を舞う。
ミラとアーロン、そしてレイナとエリオット。
それぞれの想いが結ばれ、幸せの色が満ちていく。
――この日、四人の笑顔は、春の光よりも眩しく輝いていた。
誰もが心から信じていた。
この幸せが、ずっと続いていくのだと。




