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高嶺の花と無自覚なライバル  作者: はるさんた


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第18話 学園の午後、ふたつの恋の形


午後の日差しが心地よく降り注ぐ学園の庭園。

レイナはエリオットと並んで、紅茶の香りを楽しんでいた。

今日は珍しく、アーロンとミラも誘って四人でのティータイムだ。


「こうしてみんなでお茶を飲むの、初めてかもしれませんね」

レイナが微笑むと、エリオットは穏やかに頷いた。

「たまにはいいだろう? 皆、学園で顔を合わせるのに、ゆっくり話すことは少ないしな」


ミラは、いつも通り明るく笑った。

「はい! お菓子も持ってきました!」

テーブルの上に並べられた焼き菓子に、レイナは思わず感心する。

「ミラ嬢が作ったのですか?」

「はいっ! 見た目はあまりですが、味は……がんばりました!」

「ええ、とても可愛らしいですわ」


隣でアーロンが紅茶を注ぎながら、くすりと笑った。

「この前も、授業の後に生徒たちを巻き込んで即興お菓子作りをしていたとか」

「そ、それは……みんなが退屈そうだったから!」

「君らしい」

アーロンの優しい言葉に、ミラの頬が一気に赤く染まる。


その様子を見ていたレイナは、ふっと微笑んだ。

「明るくて、楽しそうな方ね。見ているだけで元気になりますわ」

「うん。でも僕は、やっぱりレイナの静かなところが好きだ」

「も、もう……殿下、人前ですよ」

「気にしない。僕の婚約者を褒めて、誰が文句を言える?」


ミラが両手を合わせて感嘆の声を上げる。

「わぁ〜! レイナ様と殿下って、本当に理想のカップルです!」

「ミラ嬢……お静かに」

そう言いつつも、レイナの表情は柔らかく緩んでいた。


そのとき、風がふっと吹いて、ミラの帽子が宙に舞う。

「あっ! わたしの帽子がっ!」

アーロンが素早く立ち上がり、風に流された帽子を追って庭の奥へ。

レイナとエリオットはその後ろ姿を見つめ、思わず顔を見合わせた。


やがて、アーロンが帽子を手に戻ってくる。

「はい、ミラ嬢。無事でした」

「ありがとうございます……アーロン様」

目を見つめ合ったまま、時間が止まる。

秋の木漏れ日が二人を包み、風がそっと髪を揺らした。


アーロンが小さく息を吐く。

「……その、呼び方なのですが」

「え?」

「『ミラ嬢』と呼ぶのも上品でいいですが……もう少し親しく呼んでも、いいでしょうか」

「そ、それは……」

「ミラ、と呼んでも?」

「……はい。アーロン様」


レイナがその光景を見て、そっと微笑んだ。

「ふふ、なんだか甘い雰囲気ね」

「でも僕は、レイナが照れている時の方がもっと可愛い」

「……もう、本当に殿下はお上手ですね」

レイナが恥ずかしそうにうつむくと、エリオットは優しく笑った。


そんな二人を見て、ミラがぽそりとつぶやく。

「……わたしも、あんな風に言われてみたいです」

「その願い、すぐ叶うと思うけど」

アーロンの穏やかな声に、ミラは一瞬きょとんとし、それから真っ赤になる。

「も、もしかして……今のは、そういう意味で……?」

「どう思う?」

「も〜っ! ずるいです!」


その様子に、レイナもエリオットも思わず笑ってしまった。

紅茶の香りと笑い声が重なって、穏やかで温かな空気が流れる。


「ねぇ、殿下」

「ん?」

「こうして皆が幸せそうにしていると、なんだか……嬉しいですね」

「そうだな。君が笑っているなら、それが一番の幸せだ」

レイナの頬がほんのりと染まり、指先が自然に重なった。


ミラがちらりと見て、アーロンの方へ向き直る。

「私たちも……いつか、あんな風に」

「その“いつか”は、きっと近いですよ」

「……もう、アーロン様まで……」

ミラが頬を押さえ、照れ笑いを浮かべた。


やわらかな陽射しが庭を包み、風が紅葉をさらう。

4人の笑い声が、静かな午後の空に響いた。

まるで、幸福が形を取っているように。



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