誕生する恋と、越えるべき身分
午後の柔らかな日差しが、学園の庭園に差し込む。
ミラ・フォン・リーヴァは少し緊張した面持ちで、レイナ・フォン・シュヴァルツとエリオット・フォン・アルトハイムの前に立っていた。
「……その、先日は……庭園で邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」
ミラは小さく頭を下げる。
「ミラ嬢、そんなこと気にしなくて大丈夫ですわよ」
レイナは優しく微笑む。
「そうです。私たちも、あなたの気持ちはよく分かっています」
エリオットもにこりと笑う。
「ミラ嬢、僕たちは君のことを責めたりしません。むしろ、君の元気さは素敵だと思っていました」
ミラは少し安心したように息をつき、目を細める。
「……ありがとうございます、レイナ様、殿下」
「ふふ、気にしないで。私たちも、アーロン様とあなたがいい関係になれるよう、陰ながら応援していましたから」
「はい……私も、アーロン様と……」
思わず顔が赤くなるミラに、レイナは微笑んで言った。
「ふふ、二人なら大丈夫。見守っていますから」
その頃、庭園の奥ではアーロンがミラの手をそっと握り、真剣な目で見つめていた。
「ミラ嬢、君は僕にとって特別だ。君じゃなきゃ、ダメなんだ」
ミラは胸が高鳴り、思わず息をのむ。
「……でも、アーロン様……私は男爵令嬢で、侯爵家の次男と恋人同士になるには、身分が違いすぎて……」
アーロンは微笑み、そっとミラの頬に指先を添える。
「そんなことは関係ない。君の笑顔が欲しい。君がいい。君でなければ意味がない」
ミラは目に涙を浮かべ、胸がいっぱいになる。
「……アーロン様……」
アーロンは優しく彼女の手を握り返し、紅葉の葉の舞う庭園の中で静かに囁いた。
「だから、これからもずっと一緒にいよう」
ミラは頷き、そっとアーロンの胸に顔を寄せた。
「はい……ずっと、アーロン様のそばに」
その様子を見守っていたレイナとエリオットも、互いに手を取り合いながら微笑む。
「ふふ、二人の恋がちゃんと形になりましたね」
「ええ……私たちも少し安心しました」
レイナは優しくエリオットの肩に寄り添う。
「殿下、これからもお互いを大切にしてくださいね」
「もちろんだ。君もね」
エリオットはレイナの手を握り、そっと唇を重ねた。
アーロンとミラは、手をつないだまま学園を後にし、上の人間たちに認めてもらうための準備を始める。
ミラは心の中で小さくつぶやいた。
「……でも、本当に私でいいのかしら……」
アーロンは優しく彼女の肩に手を添え、真剣な目で見つめる。
「君以外の人間はいない。君のことを愛しているんだ。だから自信を持ってほしい」
ミラは深呼吸をひとつして、頷く。
「……はい、アーロン様」
その目には、強い決意と幸福が輝いていた。
翌日、レイナとエリオットは、学園内で上層部やアーロンの家族に二人の関係を認めてもらうため、慎重に説得を始めた。
「アーロン侯爵とミラ嬢は、本当にお互いを大切に思っております」
「ええ。身分の差なんて、愛の前では関係ありませんわ」
上層部たちは最初は難色を示したが、二人の誠実さと互いの幸せそうな表情を見て、次第に認めざるを得なくなる。
「……なるほど……二人の気持ちは真剣なのですね」
「ええ、間違いありません」
レイナは柔らかく微笑み、エリオットも優しく頷く。
こうして、二組のカップルは正式に認められ、晴れて学園内外での交際が許可された。
庭園に戻ったミラは、アーロンの手を握りながら小さく笑う。
「……アーロン様、私……幸せです」
「僕もだ、ミラ嬢」
アーロンは笑みを浮かべ、彼女の手をそっと胸に当てる。
レイナとエリオットも、互いの手を握り、肩を寄せ合った。
「ふふ、これで二組とも安心して恋を楽しめますね」
「ええ……これからは、もっと甘い時間を過ごせそうですわ」
庭園には秋風が吹き、落ち葉が舞いながら、二組のカップルを優しく包む。
恋の始まりと、互いを認める幸せ――
それぞれの心に、新しい季節が訪れていた。




