午後のデートと、恋の予感
秋の午後、王立学園の広場には柔らかい日差しが降り注いでいた。
レイナ・フォン・シュヴァルツとエリオット・フォン・アルトハイムは、いつものように静かな木陰のベンチに腰を下ろす。
「殿下、学園の中で二人きりなんて珍しいですね」
「ふふ、そうか?」
「ええ。……なんだか、嬉しいですわ」
レイナが微笑むと、エリオットはそっと彼女の手を取り、指を絡める。
「俺も、嬉しい」
「……殿下」
「ん……?」
「手、握ったままでいいんですの?」
「もちろん」
紅葉した葉がひらひら舞う中、二人の間には甘い沈黙が流れる。
エリオットがレイナの頬に指先をそっと添えると、レイナは小さく息をのんだ。
「……殿下……」
「どうした?」
「……そんなに、じっと見ないでください」
「見ないわけにはいかないだろう」
レイナが少し赤くなると、エリオットは満足そうに微笑む。
「ふふ、殿下……本当に意地悪ですわね」
「意地悪じゃないさ。君の表情が可愛すぎるだけだ」
「……もう、殿下」
その甘いやり取りの横を、軽やかな足音が近づいてくる。
「失礼いたします。……アーロン様、ミラ嬢」
振り向くと、アーロン・ラングレーとミラ・フォン・リーヴァが、少し照れくさそうに手をつないで歩いてきていた。
アーロンは胸の奥で小さく深呼吸して、ミラに微笑む。
「ミラ嬢、今日は来てくれてありがとう。学園内の散策、楽しんでくれると嬉しい」
「はい……アーロン様と一緒ですので、楽しみです」
ミラの声は少し震えていたが、頬の赤みは明らかに幸福の色だった。
二組のカップルは、学園の庭園をゆっくりと歩き出す。
レイナとエリオットは甘く言葉を交わしながら、互いの肩に寄り添い、歩幅を合わせる。
「殿下……今日は、特別に楽しいですね」
「君といるだけで、楽しいさ」
その声にレイナは小さく笑い、自然とエリオットに寄り添う。
一方でアーロンとミラは、初めての二人きりの散策に少し緊張していた。
「……あの、ミラ嬢、歩きやすい場所で……いいですか?」
「はい、アーロン様」
手をつないで歩く距離感は、ちょうど心地よい。
「ミラ嬢、紅葉した木々がこんなにきれいだとは思わなかった」
「……はい。学園では、ここまで自然を感じることは少ないです」
アーロンは一歩近づき、そっとミラの肩に腕を添える。
「それなら、今日は特別に、君とゆっくり楽しもう」
ミラは驚いた顔をしながらも、頷く。
「はい……アーロン様と一緒ですので」
二人の間に静かな時間が流れる。
アーロンがふと紅葉の葉を一枚摘み、ミラに差し出した。
「これは……?」
「君の笑顔を、少しだけ記念に」
ミラは照れくさそうに手を伸ばし、葉を握る。
その瞬間、指先が触れ、胸が熱くなる。
「……アーロン様」
「どうした?」
「……その、手……温かいです」
アーロンは少し微笑み、そっとミラの手を握り返す。
その時、ふと振り返ると、レイナがエリオットに寄り添い、頬を赤らめて笑っていた。
「殿下、あまり私ばかり見ないでくださいませ」
「いや、君の表情を見るのが楽しくて仕方ない」
レイナが微笑むと、エリオットはそっと彼女の肩を抱き寄せた。
「……ああ、見てください、殿下」
「何を?」
「紅葉が、私たちの歩く道を彩っていますわ」
「……確かに。君と歩くこの景色、特別だな」
互いの距離は自然と近くなり、言葉のひとつひとつが甘く絡み合う。
その横で、アーロンとミラも徐々に打ち解けていた。
「ミラ嬢、今日は……君と一緒にいて、本当に嬉しい」
「わ、私も……アーロン様とご一緒できて嬉しいです」
アーロンはそっとミラの肩に手を添え、二人は笑い合う。
レイナとエリオットの笑い声が、アーロンとミラの耳にも届く。
「ふふ、二組同時に甘々ですね……」
「……うん。でも、この雰囲気、悪くない」
アーロンはミラの手をしっかり握り直し、二人の世界を静かに楽しむ。
日が傾き始め、庭園の影が長く伸びる。
四人は一緒に歩きながらも、それぞれの恋の予感を胸に抱いていた。
アーロンは次の週末に計画するデートを心の中で思い描き、
エリオットはレイナの手を握る指に小さく力を入れる。
午後の陽光が、二組のカップルをやさしく包み込む。
紅葉と笑い声が、甘く静かな午後を演出し、
学園の庭園には、恋の予感と幸福の風がそっと吹き抜けていた。




