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第8話 タイタン・タウン

 ルォシーと別れダイアナ・シティのホテルで1泊した後、翌朝陽翔はタイタン行きのスターシップに乗りこんだ。テラフォーミングされた火星や金星と違い、土星の衛星タイタンは、昔と様子は変わっていない。以前と違い、地球からの移民が地下都市に住んでいるのが唯一の相違点だった。

 タイタンは、地球の周囲をめぐる月や水星より大きい土星最大の衛星だ。大部分が窒素の大気に包まれているために、その輪郭はかすんで見える黄色い星だった。またその表面温度は太陽から遠く、厚い大気を持つためにマイナス179.2℃の極寒である。

 このタイタンの地下にあるタイタン・タウンに土方茶子ひじかた ちゃこが住んでいた。陽翔の乗った旅客船はタイタンの軌道上にワープアウトし、彼はそこから他の乗客と一緒にマイクロ・ワープで地下都市にある転送ステーションに瞬間移動する。

 陽翔はステーションを出ると、土方茶子の家に向かう。目的地への道のりは、陽翔の脳に埋め込まれたナノメディアがナビしてくれる。タイタンの重力は0.14G。重力が小さすぎて普通には歩けないのでマグネット・シューズを使用する。

 月の重力が0.165Gなので、さらに弱い引力だ。やがて陽翔は目的の、土方茶子の家まで来た。玄関の呼び鈴のボタンに触れると、脳波通信が茶子から送られてくる。あらかじめ脳波通信のアドレスを彼女に知らせてあるのだ。

(今ドアロック開錠したから入ってよ)

 脳内に、茶子からのメッセージが送り込まれる。確かに扉が解錠された音がする。指示された通りドアを開いた。中に入り後ろ手に扉を閉めるとオートロックで施錠される。廊下を歩き、灯りの漏れる部屋に向かった。その部屋のドアをノックする。

「入ってちょうだい。遠慮しないで」

 室内では、1人の女性がろくろを回している。部屋は多分体育館ぐらいの広さがあった。

 たくさんの棚があり、様々な色やデザインの陶器が置いてある。花瓶もあれば湯飲み茶碗もあった。

 何の用途に使われるのかわからない陶器の姿も散見される。

「ちょっと待ってて。きりがつくまで」

 茶子が、こちらを見ずに話した。

「今、ちょうど終わった」

 茶色に髪を染めたオーバーオール姿の女性が、こっちを見あげた。

「僕は、土方茶子。話は聞いてる。よろしくね」

 まず1人称が「僕」なのに驚いた。顔は瀬麗音と同じなのに、茶子の方はボーイッシュな雰囲気がある。

 陽翔は茶子に応接室に案内された。彼女は自分で作ったらしい陶器のカップに紅茶を入れてくれたのだ。

 紅茶は良い香りがして美味しかった。

「難しいお願いかもしれませんが、俺はあなたの別人格の女性と結婚したいんです。彼女は他の人格の許可を得たいと話していました。仮に彼女が妊娠したら、それは当然茶子さんも妊娠します」

「避妊するという選択肢はないの?」

「子供を作らないなら、結婚しても良いですか?」

 陽翔は思わず前のめりに聞いていた。茶子は、苦い笑みを浮かべている。

「そういう問題じゃないんだけどね。すぐには返答しかねるなあ」

「茶子さんは、逆の立場ならどう感じますか? 好きになった男性がもし解離性同一症だったら」

「難しい質問だね。僕も普通の女だから、恋もしたよ。でも、どの男性とも長続きしなかった。無理ないよ。土曜日にしか会えないし、しかもこんな病気じゃね。体目的の男なら大勢寄ってきたけどさ。だんだん面倒くさくなって、今はこのタイタンで、陶器作りに打ち込んでいる。陶器は、いいよ。人生と違って、自由に形を変えられる」

 ため息混じりに茶子が答えた。

「無論すぐには回答できないとわかっています。量子テレポート通信で大丈夫ですので、お気持ちが決まりましたら連絡ください。必要とあれば、また来ます」

 陽翔は名刺を彼女に渡す。

「遠くまでわざわざありがとね。全部の人格とは会ったの?」

「まだです。明日の日曜に日風舞さんと会う約束になってます。それで全部の人格に会ったことになりますね」

 陽翔はそう説明した。

「そうなんだ。僕は彼女に会えるはずがないのだから、どんな人かわからないけど、虐待されてたくらいだから、難しい性格かもしれないね」

「それは偏見でしょう」

 陽翔はそう回答したが、自分で言うほど自信がない。上手くコミュニケーションを取れると良いのだが。

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