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第5話 思わぬ危機

 もはやこれまでと観念した時、突然陽翔を襲おうとした熊の首の両側から血が噴き出した。そしてそのままその熊は前のめりに倒れ、下生えの中に突っ伏した。ズシンと重い衝撃が大地を震わせる。まるで地震のようだった。

 気づくといつのまにかレイガンを手にした女性が離れた場所ぬ立っている。顔は紛れもなく瀬麗音だが、彼女と違って緑色のロングヘアだ。

 瀬麗音はショートカットなのでこの人格はその頭にカツラをかぶっているのだろう。目にはグリーンのカラーコンタクトを入れていた。しかし毎回驚くが、大変な人格の分裂だ。もしかしたら瀬麗音と日風翼の親子に騙されてるんじゃないかと思えてくる。

「あの熊はなんだったんだ? このコロニーに、あんな危険なけだものがいるだなんて聞いてないよ」

 ようやく気持ちが落ち着いた後で、陽翔は聞いた。自分でも、言葉に熱い憤りがあるのがわかる。今でも手が、小刻みに震えていた。心臓が激しく鼓動している。全身汗でびっしょりだ。

「このコロニーには、サファリパークもあるの。そこから逃げだしてきたってわけ。サファリパークを訴えます?」

 瀬麗音いや、森広杏樹がそう尋ねた。

「別にいいよ。あんたのおかげで助かったしな。しかし転送ステーションでは、熊が逃げたなんて聞いてない」

「サファリパークから逃げたのに気づくまでに、かなり時間がかかったみたい。詳しくはわからないけど。そのうちネットニュースで報道されると思う。あたしもさっき知ったばっか。でも、間に合って良かったな」

 そこで女は、笑顔になった。

「あんた、森広杏樹さんだろう? 親父さんに聞いたろうけど、俺は九石陽翔と言います」

「はじめまして。聞いてます。とんだ初対面になりましたね」

 杏樹は見る者を安堵させるような、やわらかな笑みを浮かべる。

「しかしなんだって、こんなアステロイド・ベルトにいるんですか? 他の人格もそうだけど、みんな地球にいればいいじゃないですか。それになんで、こんなに性格が違うんですか?」

 陽翔が尋ねる。自分でも、まだ興奮が収まってないのがわかる。おのれの声が、怒りと恐怖で震えていた。

「お父様に聞いたけど、全部で7つのパーソナリティは太陽系のあちこちに散らばっているそうね。他の人格のことは、よくわからないけど」

 杏樹が、困惑した表情になる。

「そして君は、フォレスト・シリンダーの森林の中にいるってわけだ」

「他の人格はどう感じてるかわからないけど、あたしは自分の境遇を考えると、なるべく他の人間に会いたくないの。多重人格者なんて、ゲテモノとしか思われないわ」

 杏樹は、まつ毛を伏せて話した。

「このコロニーは元々日本人観光客向けに造られたので、日本時間とリンクしてます。朝目が覚めて夜眠るまで、森の中で1人過ごせば、不憫な人生を考える隙もありません」

 瀬麗音が似たような話をしてたのを思い出す。性格はそれぞれ個性的だけれど、多重人格の悲哀は一緒ということだろうか。

 陽翔の恋人はビースト・ハンティングに一生懸命に打ちこんで、自分の状況を忘れるようにすると語っていた。

 そんな彼女のパッションが、ハンターとしての活躍につながったのかもしれない。

「お父さんから聞いただろうけど、俺は月曜の人格と結婚したいんです。その了解をとりつけに来ました」

「仮に私が嫌という回答をしたら?」

「その時は、諦めるつもりです。俺の相方と君とは、肉体を共有してるわけだしね」

「あなたの彼女は、幸福な人ね」

「それは、どうかな? 俺の恋人は自分の置かれた状況を忘れるためにビースト・ハンティングに打ち込んでる。それは俺も一緒かな。きっと大抵の人間が自分の運命を多かれ少なかれ呪っていて、それを忘れようとして、何かに全力を傾けてるのかもしれないんじゃないのかな?」

「そうかもしれませんね。私もここで木を使った家具や模型を作ったり、畑で野菜や果物を育ててる時が1番安らぎます」

「回答は、すぐにとは言いません」

 陽翔が話した。

「お父さんを通じてでも良いですし、俺のナノフォンに電話かメールでも、またここへ直接来てもいい」

 陽翔は杏樹に名刺を渡す。

「わかりました。確かにすぐにはお返事できる性質の物ではないですね。この後また、他の人格に会うんでしょ?」

「そうです。あなたが4人目なんで、後3人です。明日会うパーソナリティは今まで以上に個性的なんで、楽しみな気もしますし、不安もあります」

 その後陽翔は杏樹の住む丸太小屋へと案内された。

「これ全部、君が建てたの?」

 絵本にでも出てきそうな温かみのあるデザインの小屋を見ながら陽翔が聞く。

「まさか!」

 杏樹はオーバーに両手を広げて微笑んだ。

「設計は私ですけど、組みたてはロボット達がやりましたよ」

「素敵なデザインだ。センスがあるんだね」

「あら。陽翔さんは、ビースト・ハントの腕だけでなくお世辞までお上手ね」

「いやいや、そんなことないって」

 陽翔が激しく否定すると、杏樹はそよ風みたいな笑顔を浮かべる。2人は丸太小屋の中に入った。

 そこで彼女の作ってきた木製のアイテムを見せてもらう。

 それは十畳ぐらいの部屋にたくさん陳列してあった。木彫りの動物達、木製の車や宇宙船のおもちゃ、けん玉、木製のカップやスプーン、箸、将棋盤やチェス盤等がある。

 どれもが素材の良さを生かした、あたたかみのあるデザインだ。

「見てたら、あれもこれも欲しくなっちゃうなあ」

「よければ何か持ってってくださっていいんですよ」

「本当ですか? いやいやちゃんと買いますよ。売ってるんでしょ?」

「おかげさまで、太陽系中から注文が来ます。ホームページで受け付けて、貨物用の宇宙船で地球や火星や金星や月面やスペース・コロニーに運ぶんです」

「いいですね。俺は不器用だから、こんなのできないなあ。ビースト・ハントしかやれることがないです」

「ビースト・ハントで頂点を極めたんだから、それでいいじゃないですか!」

「トップを極めたと言えるかな? 強いライバルがいっぱいいるしね。若手も台頭してきてるし、歳をとってもできる仕事じゃないからね」

「陽翔さんも、色々大変なんですね」

「大変ってほどでもないけどさあ」

「それより汗かいたでしょう? お風呂に入られてはどうですか?」

「本当? そいつは助かるな」

 シャワーかと思いきや、案内されたのは屋外で、木製の五右衛門風呂で湯船に浸かった。

 陽光を浴びた大森林を見ながら湯に入るというのも、格別なものがある。

 着替えはなかったがネットで購入し、マイクロ・ワープですぐに丸太小屋まで転送させた。汚れた服は袋に入れて、持ち帰るつもりである。




 その後陽翔は木製の食器類を購入すると、今度は次の目的地へと向かったのだ。次に行くのは、金星だ。太陽系の第2番惑星だった。

 地球より太陽に近いため、かつては人間がとても住めない灼熱の地獄だったが最新のテクノロジーによりテラフォーミングされ、火星同様人類が大勢移住していたのである。

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