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第4話 フォレスト・シリンダー

 美流と別れた後陽翔はその夜、アクア・コロニー内にある同じホテルに再び泊まった。例えそれが人工の物であっても、夜の海は美しい。

 空にはホログラムの星が散らばり、浜辺には肩を寄せ合って歩くカップルの姿が見える。瀬麗音と一緒に月曜にここへ来たかった。泳げない彼女が訪問してくれるかは、甚だ疑問だったけど。

 翌朝転送ステーションに行き、マイクロ・ワープで軌道上の宇宙船に乗りこんだ。その船は、ケレス行きだった。ケレスとは、アステロイド・ベルトにある準惑星だ。アステロイド・ベルトとは、火星の公転軌道と木星の公転軌道の間に浮かぶ小惑星帯の呼び名である。

 無数の小さな惑星が帯状に浮かんでいるのが、その名の由来だ。陽翔がこれから行くのは正確には、ケレスの赤道上空の軌道上に建設されたスペース・コロニーだ。このコロニーはケレスに建設された高さ1024キロメートルの軌道エレベーターを使って資材が運ばれた。

 このケレス・コロニーは巨大な円盤の表面に直径2キロ、全長10キロのシリンダー数千個を相互連結させた、大規模なスケールの建造物だ。各シリンダーを回転させて、内部に0.9Gの重力を作りだしている。

 太陽光を集めるためにコロニーの端に2枚の巨大な鏡を45度の傾斜で二枚貝のように設置してあった。

そのうちの1つフォレスト・シリンダーに森広杏樹もりひろ あんじゅがいる。彼女は日風舞のサブ人格の1つなのだ。このシリンダー内は全域が森林と農場になっていた。

 日風翼会長の話では、杏樹は森林地帯に丸太小屋を建て、そこで暮らしているそうだ。やがて陽翔の乗りこんだ旅客用のスターシップはケレスの軌道上にワープアウトした。大小無数の様々な形をした小惑星や準惑星が浮かんでいるアステロイド・ベルト。

 その中に紛れて存在するケレスは、アステロイド・ベルトの中でも1番大きい。直径は945キロメートル。海王星軌道の内側にある唯一の準惑星だ。太陽系の天体の中では33番目に大きかった。

 円盤状のコロニーの太陽とは反対側に2枚の丸いミラーが二枚貝のようにパックリと開き、今にもコロニーを食べるかのように設置されている。

 このでかい鏡で大勢の人が住むシリンダー群に光を注ぎこんでいるのだ。

 陽翔はスターシップからマイクロ・ワープでフォレスト・シリンダーの転送ステーションに移動した。

 そこで手続きを済ませたあと、転送ステーションでレンタルしたエアー・バイクに乗りこんで森林地帯へ向かう。

 エアー・バイクにはタイヤがなかった。

 タイヤのあるべき場所にはお椀を伏せたような形の装置があり、下部のローターを回転させて、空を飛ぶ事ができたのだ。

 まさに、空飛ぶバイクである。フリーサイズのフルフェイスのヘルメットをかぶる。

 かぶった時には大きめだったが、陽翔の頭に合わせてサイズが縮み、ピッタリとフィットした。

 転送ステーションからエアーバイクで森林エリアへと飛翔する。陽翔はナビを、杏樹のいる丸太小屋に設定した。

 事前に日風翼から、場所を教えてもらっていたのだ。

 巨大な円筒の内部に、見渡す限り見事な森が広がっていた。

 地球より重力が小さいので、火星ほどではないが、草木がひょろ長く見える。

 杏樹の丸太小屋が森林区画のどこにあるかは、事前に聞いていた。

 アクア・コロニーもそうだが、太陽は見えないのに陽光が降り注いでいるというのは不思議な感覚だ。

 空には鳥達が舞い、白い雲が浮かんでいる。頬をなでる風が、心地よい。アクア・コロニーとは、別の意味で癒された。

 バイクから、鳥が嫌がる特殊な電波を放っているので、こっちに飛んできたりはしない。なのでバード・ストライクなども起きなかった。

 森の上をエアー・バイクで飛んでいた陽翔だが目的地が近いので、途中でバイクを降下させる。

 バイクは森林地帯に降りた。丸太小屋までもうすぐだが、前方は木が密集しており歩きで行くしか方法がない。

 陽翔はマシンを乗り捨てると、木立の中へと入ってゆく。獣道のような、下生えを踏み締めたあとがある。

 多分杏樹は、ここを普段歩くのだろう。よりによって、他人を拒絶するような場所に住んでるもんだと陽翔は感じた。

 かなりの人嫌いなのかもしれない。

 しばらく歩くと異常な気配を背中に感じ、振り返ると20メートルぐらい先に、獰猛そうな熊の姿があった。

 熊は恐ろしい叫び声をあげると、こちらに向かって突進してくる。まるで悪魔のようだった。

 武器を持ってるわけじゃないので、三十六計逃ぐるにしかずとばかり走ったが、どんどん背後にけだものが、恐ろしいスピードで近づいてくるのがわかる。

 背後に熊の荒い息が近づいてきた。その直後陽翔はつまずいて転んでしまった。

 振り返るとすぐそばに身長2メートルはあるかと見える熊が立っており、今にも陽翔に襲いかかろうとしていたのだ。

ビースト・ハントの大会で熊のアニボットを倒した経験はあったのだが、さすがに本物の熊は違う。

 こちらを睨んだ眼差しに凄みを感じる。まるでそこからレーザーが放たれているようだ。

 硬く尖った歯の並ぶ大きな口が、今にも陽翔を食い殺そうと待ち構えていた。熊の吐く息が臭い。口から咆哮が轟いた。

 戦慄と恐怖のために、陽翔はいつしか絶叫をあげている。まさに絶対絶命だ。ホラー映画の比ではなかった。

 大きく開いた口からよだれがたれている。息は臭く、陽翔の鼻を突く。とてもこのモンスターから逃げられるとは思えない。

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