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第10話 結末

 応接室の中に入ると日風翼会長と、その娘の姿があった。娘の舞は、オレンジ色のワンピースを着ている。予想とは裏腹に、太陽のように朗らかな笑みを浮かべていた。

「はじめまして。九石陽翔です」

 陽翔は、相手に挨拶をする。

「はじめまして。いえ、あなたの方は初めてじゃないんでしょうけど。日風舞です」

 舞が名乗った。

「舞は、自慢の娘でね」

 日風翼がそう説明する。

「あら、そうかしら。お父様はたくさん養子がいらっしゃるもの。わたくしなんか、そのうちの1人に過ぎないんでしょう」

「みんな、わたしの大事な子供だ」

 日風会長が宣言すると、舞はいたずらっぽく笑いながら、肘鉄を喰らわせる真似をした。やがてかしこまった表情になって舞が、陽翔の方を見つめる。

「九石君。君には3Dフォンで話したが、私は舞も含めて7人の娘全員に、判断は自分のことだけを最優先するように言ってある」

 横から日風会長が、言葉をはさむ。

「わかってます。大丈夫です。俺も舞さんに無理強いする気はないですから」

「九石さん」

 今度は舞が口を開く。

「正直まだ、決めてないんです。すぐに返答できるようなお話ではありませんから」

「よくわかってます」

 陽翔が答えた。

「俺は子供を作らなくても良いかなって考えてます。舞さん含めみなさんがそれで結婚を承知してくれるなら」

「九石さんの考えは、わかりました。いずれにせよ、すぐには返答できません。わたしは今の症状を治療したいと考えてます。実現は難しいと先生には言われてます。仮に治療できたなら、それは他の人格がなくなるのを意味します。そういう意味では、わたしと九石さんは対立関係にあるわけです」

 硬い口調で舞が話した。

「対立とは考えてません。俺の愛した人は、あなたと同じ顔と体を共有してます。そしてあなたが幸せになるのなら、いつでも自分の魂が消えても良いと打ち明けてくれました。その考えは、俺も同じです。治療で瀬麗音の人格が消えても、それであなたを恨んだりしません。むしろ喜ばしいです」

 しばらく沈黙が続いた。太陽のような舞の笑顔は消え、今は翳りがさしていた。

「陽翔さんの考えも、瀬麗音さんの人生観も、理解しました。少なくとも、そのつもりです。最終的な判断は、後日お話しいたします」

 ようやく口を開いた舞が、そんな言葉を紡ぎだす。

「それで大丈夫です」




 日野市の日風邸を出た陽翔は再び中央線の電車で新宿に行った。そして新宿の転送ステーションからマイクロ・ワープで軌道上のスターシップに乗りこんだ。宇宙船は月行きだった。明日の月曜瀬麗音に会って、火曜日からの経緯を伝えるつもりである。それからは慌しかった。

 7つの人格それぞれと量子テレポート通信でメールのやり取りをしたり、再び彼女達の住む天体に行って話したり。最終的に地球時間で3か月後の日曜にある報告をするために、陽翔は日野市にある日風邸へと向かったのだ。最初に舞と会った時のように、陽翔は日風父娘と応接室で向かいあった。

「話は、すでに舞から聞いたよ」

 眉をひそめ困惑しきった表情で、会長の日風翼が陽翔の顔を見る。父とは対象的にありったけの笑みをたたえて、舞がビースト・ハンターを眺めていた。その目はうっとりと、陽翔の顔に見とれている。

「正直なんで、そんな結論になったのか理解に苦しむ」

 日風会長が、さらに続けた。彼が当惑するのも無理はない。自分が逆の立場なら、やはりそう感じただろう。

「でも、7人共承諾しました。無理強いはしてません」

 陽翔はそう回答する。

「君が発案したのかね?」

 日風会長が、陽翔に尋ねる。

「違います。最初にある女性が自分も俺と結婚したいと口に出したんです。正直びっくりしましたよ。彼女の人格とは、まだ会ったばかりですし。ただ、話を聞けば納得できる部分もあるんです。1週間のうち1日だけしか存在できないわけですから恋愛も難しいんですよ」

「陽翔さんのおっしゃる通りよ」

 横から舞が、助け船を出す。

「あたしもすっかり恋愛は、諦めてたの。でも、7つの人格全員が陽翔さんと結婚するなら全部解決するじゃない」

「お前は、本当にそれで良いのか?」

 日風会長が娘に問うた。その目は暗く、真剣だ。

「九石君にとってはハーレムみたいなものかもしれんが、お前にとっては夫に他に6人の愛人がいるようなもんだろう。世間の人達がどう言うか」

「お父様。残念だけど、あたしは今の状態でも、周囲の人の偏見から逃げられない。実の父親に虐待された解離性同一症という時点で」

 先程までとは打って変わった眼差しで、舞がそう主張する。さすがの日風会長も、言葉に詰まってしまったようだ。

「それに7人の人格がそれぞれ別の恋人を持ったとしたら、あたしの体は常時7人の男性とつきあってしまう形になるんだけど、そっちなら納得するの? それとも7人のパーソナリティが、死ぬまで彼氏を作らない方がいい?」

 さらに沈黙が続いた。会長がすぐに返信できないのも無理はない。でも陽翔の腹の内は決まっていた。 最初は彼自身も戸惑った。最初にこのアイディアを火星で生活する火宝萌に提案された時にはだ。

 が、よくよく考えれば7人共それぞれに魅力的だし、萌以外の6名が納得するならそれでも良いかもと考えたのだ。破廉恥な発案だと受け取られるのを承知の上で、この件を陽翔は他の人格達に説明した。反発を食らうかと思いきや、最終的には全員が賛同するという予想外の結末になったのだ。

 実際にこの結婚が上手くいくかはわからない。でも困難に思えた時でも、陽翔は人生を乗り越えてきた。そしてビースト・ハンターとしてもトップにのぼりつめたのだ。今度もきっとハッピーエンドが待っていると信じたい。

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― 新着の感想 ―
ひとりひとりと出逢いながら、最後は全員を選ぶ!気持ちいい終わり方でよかったです!
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