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席替えをしてから一週間が経ち、僕は先の懸念が遠からず的中したことを思い知った。転校生、長瀬涼子は騒がしい奴だった。より正確に言うと、声ではなく動作が騒がしい、挙動不審な奴だった。授業中、真剣に板書をノートに写していると思いきや、突然宙を向いて微笑んだり、明らかに板書を写すタイミングじゃない時にノートの端になにかを書いたり。まるで見えないなにかとやり取りをしているような、奇妙な行動がよく見られた。その姿を見て、彼女が自己紹介の時に言った霊感少女という言葉が頭に浮かんだ。まさか本当に幽霊が見えているのか? 一瞬そんな考えがよぎり、馬鹿馬鹿しいとすぐに振り払った。単純に落ち着きがないだけだろう。ただ、授業中に視界の端で怪しい動きをされるのは正直うっとうしい。すでに数回、先生に「ちゃんと聞いているのか?」と注意を受けているくらいだ。
「あのさ……」
三限と四限の間の十分休憩の間、ついに僕は自分から転校生に話かけた。
「……え? わたし?」
転校生は少し遅れて反応した。大きな丸い目が僕の方に向く。
「そう、君。あのさ……」
「君じゃない」
「え」
「わたしは長瀬涼子。君じゃないよ」
彼女ははっきりと言った。決して大きい声じゃない。だけどまっすぐ耳に届いてきた。とても大事なことなんだ、と言われたような気がした。
考えてみれば、彼女が転校してきてすでに一週間が経っている。それなのにクラスメイトから名前を呼ばれないというのは、人によってはショックなことなのかもしれない。しかも僕は転校初日の朝と放課後に二回、自己紹介を受けている。
出端をくじかれてしまったけれど、彼女の気を悪くしてしまったことに関してはこちらに非があるので、僕はひとまず「ごめん」と一言謝罪してから仕切り直した。
「長瀬さん。あのさ……」
「うん。なに?」
今度は嬉しそうに目を細める。ただ、これから僕が伝えるのは彼女に対する明確な苦情なので、また気を悪くさせてしまうかもしれない。そう考えると少し気が引けるけれど、授業に集中していないことについては彼女の方に非があるので、そこは飲み込んでもらおうと話を続ける。
「もうちょっと落ち着いて授業受けてくれない?」
「え?」
彼女は間の抜けた声を出した。大きな目をさらに開き、「どういうこと?」と訊ねてくる。どうやら自覚がないらしい。
「授業中に怪しい動きが目立つというか。宙に向かって微笑んだり、いきなりノートの端になにか書いたり。微妙に視界の端に入ってきて気になるから、できればもう少し抑えてもらえると助かるんだけど」
指摘されて思い当たったのか、あはは、と、彼女は恥ずかしそうに笑った。
「ごめん。気が散るよね」
「せめて先生に注意されないくらいにはした方がいいよ」
「そうだよね。うん! 気を付ける!」
彼女は大きくうなずく。思ったよりも爽やかな返答に僕は少し面食らってしまった。
「ちなみに授業中のあれはなにをしてるの?」
「あれは……まぁ、コミュニケーションかな?」
「……まさか幽霊となんて言わないよね?」
「それは……」
僕が訊くと彼女は、うーん、と唸りながら斜め上を見上げる。すると今度はうんうん、とうなずき、
「それは佐伯くんの想像に任せるよ」
と言って笑った。
予想外の答えに僕はまた面食らった。あんなに堂々と自分のことを霊感少女だと言っていたから、てっきり「そうだよ」と即答してくるものと思っていた。
「次の授業始まるね」
彼女が言うのと同時に四限目の予鈴が鳴り、先生が入ってきた。教室内が授業の準備に向けて動き出し、自然と会話が途切れる。僕は彼女に違和感を覚えたまま授業に臨んだ。
授業中、彼女は今までよりも目立たないように動作を小さくしながら、変わらず見えないなにかとやり取りするような行動を続けていた。




