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水の溜まった桶とひしゃくを持ってばあちゃんと長瀬さんが待つ場所へと向かうと、ばあちゃんが開口一番「哲夫に会ったのかい?」と訊ねてきた。
哲夫は伯父さんの名前だ。僕がうなずくと、ばあちゃんはため息を漏らした。
「墓石が濡れてるからもしかしたらとは思ったけど、入れ違いだったんだね。ごめんよ」
ばあちゃんはいつも伯父さんことになると僕に気を遣ってくれる。この毎年の墓参りも、伯父さん夫婦と鉢合わせないようわざと時間をずらして来ている。ばあちゃんが伯父さんとの会話の中でさりげなく聞き出して調整しているのだ。ただ、その気遣いがありがたいと思う反面、心苦しくもあった。迷惑をかけている気がして、申し訳なさが募る。
僕は「大丈夫」と努めて明るく言った。だけど、その言葉は僕の口から出た途端にまるで綿毛のようにふわふわと宙に浮いて、不安定な状態のままその場に漂い続けた。
「さ、お参りしよう」
僕はそう言って、桶とひしゃくを地面に置いた。すでに濡れた墓石に水をかけるのはなんとなく憚られた。少なくとも、僕がしてはいけない気がした。花も水も線香も、僕が触れてはいけないもののように見えた。
「佐伯くん」
長瀬さんが僕を呼んだ。彼女の方に顔を向ける。互いの目線が交わり、一本の線になった。
「大丈夫。わたしたちは分かってるから。佐伯くんのこと、ちゃんと見てるから」
長瀬さんとばあちゃんの優しい眼差しが目に映った。身体の奥がじんわりと熱を帯びて広がっていく。
彼女の言う「大丈夫」には、地に足のついたような安定感があった。僕が発したものとは違う芯の通ったその言葉に僕は勇気づけられた。
ばあちゃんが僕に花を差し出した。僕はそれを受け取り、墓石の前にかがむ。すでに供えられている花は伯父さんが用意したものだろう。種類の違う二つの束が入っていた。僕は互いの花を傷つけないように隙間へと差し込む。もう片方は「わたしがやるよ」と言って、長瀬さんがやってくれた。
花を供えてから僕らは目を瞑って手を合わせた。
僕は頭の中で、語りかける。
ねえちゃん。今日は珍しく人を連れてきたよ。
僕の友達って言っていいのかな。最近よく一緒にいる人だ。転校生で、なぜか僕に絡んできて、自分のことを霊感少女なんて言うから、最初は変な人だと思った。だけど、僕の身の上を知った上で変わらず接してくれる優しい人だ。
思えば、なんとなくねえちゃんに似てる気がする。だから打ち解けられたのかもしれない。
……正直、僕はまだ他人と関係を持つのが怖い。また失ってしまうのではないか、自分がまた誰かを不幸にしてしまうのではないかと不安になる。
だけど、今度こそ、繋がりを守りたい。
僕自身のことを見てくれる人を、今度こそ……。
だからどうか、見守っていてほしい。
僕のことを、僕らのことを、どうか……。




