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キズナ  作者: 羽藏ナキ
第一章

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12

 次に彼女が目をつけたのはペットショップだった。

 広いエリアを占有しており、区画ごとに犬や猫、ハムスターやウサギなどの小動物、爬虫類や両生類、熱帯魚といった具合に分けられていた。

 彼女は目を輝かせながら一直線に爬虫類や両生類のエリアに向かった。


「長瀬さん、爬虫類好きなの?」


 ヘビやトカゲの入ったケージをじっと見つめる彼女に僕は訊いた。


「爬虫類に限らず生き物は基本好きだよ。あ、でも虫は少し苦手かも」


 彼女は笑ってそう答えると、再び視線をケージの中身へと戻した。

 近くを通りかかった店員が「よかったら触ってみますか?」と彼女に声をかけた。彼女は「はい!」と即答し、ひときわ大きなヘビを指名した。初めは店員に抱えられた状態で躰をさすり、最後には自分の肩に乗せて楽しそうに触れ合っていた。彼女の笑顔には一点の曇も見られなかった。

 ヘビはどちらかというと悪いイメージを持たれることが多いように思うし、僕も苦手な方だ。だけど、彼女はそんなヘビに対して先入観なく魅力を感じているらしい。

 彼女の勧めで僕も少しだけヘビに触らせてもらった。ザラっとした鱗とひんやりとした体温のない躰は慣れない感触だったが、思ったほど悪くない、とも思った。



 十三時を過ぎたところで昼ご飯を食べようという話になった。

 歩き疲れたのか座ってゆっくり食べたいと彼女が言ったので、フードコートではなく店内で食べられる店を探した。お昼時でどの店も行列ができていたけれど、運よくイタリアンのチェーン店にすんなり入ることができた。

 注文を終えて、一息つくように出されたお冷を飲む。彼女も同じ様にコップの水を飲み、それから思い出しように言った。


「今日は夕ご飯に誘ってくれてありがとう。ご馳走になります」

「気にしてくていいよ。ばあちゃんが言い出したことだし」


 今日は彼女をうちの夕飯に招待することになっている。もちろん、誘ったのは僕じゃない。ばあちゃんだ。僕が日曜日に出かけることを伝えると、「長瀬さんとかい?」と聞いてきたので、僕が「そうだよ」と答えると、「夕飯に誘いなさい」と言ってきたのだ。

 仕方なしにメッセージで彼女にその旨を伝えると、すぐさま彼女から「もちろん行く!」と返信がきた。そうして彼女を含めた食事会が開かれることになった。


 料理が届いてからも僕らは食べながらぽつぽつと話をした。話すといっても話題を提供するのは彼女で内容はとりとめのないものばかりだった。

 お互いの料理が半分くらいになったところで、彼女はコップに残った水をすべて飲み切り、ふう、と息をついてから言った。


「佐伯くんはいつからおばあさんと暮らしてるの?」


 緊張していたのか、彼女の声は少し震えていた。僕を見つめるその目は真剣そのもので、人を不快にする濁りは見られなかった。意を決したような彼女の佇まいにはある種の覚悟のようなものが感じられて、彼女はこれを訊くために今日僕を誘ったのかもしれないと思った。

 だから僕も、ありのままを正直に答えた。


「小学校に入る前からだよ。それまでは母親と二人暮らしだった」

「ご両親は今、どうしてるの?」


 彼女は恐る恐るといった様子で訊ねてきた。


「さあね。二人とも生きているとは思うけど、どこでなにをしてるかは知らない。父親なんて顔すら知らないし」

「え?」

「聞いた話だと、父親は母親が僕を身ごもったときに逃げたんだって。しかも浮気までしてたらしい。クズ野郎だよ」


 つい力が入り、語尾が吐き捨てるような口調になった。目の前の彼女がビクッと肩を震わせたのが分かった。もちろん最後の言葉は彼女に向けて放ったものではない。だけど、彼女を怖がらせてしまったらしい。

 僕は、ふう、と一息ついて気持ちを落ち着かせた。


「だから母親と二人で暮らしてたんだけど、ある時突然ばあちゃんの家に行くって言われて連れていかれたきり、母親は帰ってこなくなった。ぎりぎりの生活だったし、いろいろ限界だったんだろうね。あんなこともあったし……」

「あんなこと?」

「いや、なんでもない」


 数日前に夢で見た彼女の声が思い出される。

 僕はコップの水を一口飲んでから、ふう、とまた息をついた。


「まぁそんなわけで両親とは暮らしていないわけだけど、別に不幸だとは思ってないよ。ばあちゃんたちは良くしてくれてるし」

「そっか……」


 それまで暗い表情だった彼女は、僕の最後の一言で少しは安心たらしい。


「話してくれてありがとう」


 彼女はそう言って、いつもの笑顔を見せた。


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