《ROUND1‐4》ゼリー飲料と休息と帰還した拳士
――この世に、“獅子”の名を持つ闘士は二人も要らぬ!!
――強さを求め、その先に何があるか……貴様は確かめてみたくはないか?
――強くなりたくば、喰らえ。獣でも人でも、喰らい尽くして己の糧にするのだ!!
――闘え……闘え……闘え………………
――――闘えええええッッッ!!!!!
「うわあッッッ?!!!」
…………あの密林の情景。そして『拳華成闘』の初陣からどれだけの時間が経ったかは分からない。
眠りから覚め、暗示を掛けられていくような悪夢から解放された赤城玲王の上体には包帯が巻かれ、彼の視野には、見慣れない真っ白な天井と、LEDライトの照明だけ。
「…………ここは、何処だ……? オイラの島じゃねぇ……」
そう。舞台は名もなき島から離れて日本列島。東京都は千代田区。
武道の聖地と言われている『日本武道館』の真横に設置された最大規模のスポーツジム施設。
――この施設の名は【HERCULES】。ギリシャ神話の英雄であり、格闘の神の名を刻まれた施設に玲王は保護されたのだ。
最初は、故郷の一つである名もなき島の事が気掛かりだった玲王だったが、その不安もヘラクレスの施設を見ていくうちに消えて、逆に見慣れぬ風景に興味を惹かれていった。
――では、玲王がヘラクレスに連れてこられる前。拳華成闘の件からここまでに至る経緯を、もう一度確かめてみよう。
〚SETTING...〛
『よし。これで奉納完了や』
カマキリ拳使いのマンテラーとの拳華成闘をどうにか突破し、ダメージを負いながらも、目的であった石碑にて例の秘石を納める豪樹。
――色の三原色、赤・青・黄で彩られたピラミッド型のパワーストーン【心技体の秘石】。これを石碑内の松明と岩に囲まれた古い祭壇の皿に奉納した。
しかし、奉納したからといって、直ぐに何か不思議な事がある訳ではなく、納めることによって後々大きな意味を為す事だろう。
それは何時の日か、作者が忘れない限り覚えておこう。
――”伏線“はそう簡単に忘れないよ! by作者。
「さて、と。後は……」
石碑を出た豪樹には、もう一つ残された義務がありました。
先程の拳華成闘にて、マンテラーを咆哮ひとつで吹き飛ばした赤城玲王が疲れ果て倒れている事。そして彼をこの先、どうしていくべきか。
(【拳華印輪】の腕輪なしに、相手の攻撃とダメージを受け付けた玲王。ヤツが幾ら強かろうと、奈落道がそれをほっとく訳あらへん。秘石も納めてるし、島の場所も筒抜けやし。
それに……今の島の状況を見たら、コイツがどんなにショックを受けるか……!)
玲王が気絶している間に、奈落道流によって襲撃された島の様子を傍観していた豪樹。その様相は悲惨この上無しであった。
何しろ見渡す限りの草原は、奈落道流の火器によって焼滅され、阿漕にも穀物や果実といった食料は根こそぎ取られていった。だが最も残酷だったのは……
マンテラーによって惨殺、喰い殺されたクマ達の残骸が密林の彼方此方に棄てられていた。
その殆どが斬撃で内臓を抉られ、胃の中にはこの島の木の実が出ていた。これには血生臭さに豪樹は目も鼻も当てられない程に酷いものであった。
(さっきの雄叫びも、玲王と仲良くしてたクマを殺された怒りから来たもんや。また奈落道に傷付けられるくらいなら…………ワイは、コイツに賭ける!!)
高橋豪樹の一大決心。果てた玲王を自慢の肉体で軽々と背負い上げ、島の果てにて、特殊な電波を発する万能携帯【プレイギア】からSOS信号を発信させる。
――――数時間後、豪樹と玲王は『ヘラクレス』の一員を乗せたヘリにて、帰還するのだった……!
〚SETTING...〛
そういう訳で、無事に東京へ戻ってきた二人。
玲王はあの残酷な状況を知らぬまま、豪樹によって連れて来られた訳だが。当の本人はスポーツ器具に興味津々。
純粋無垢な彼には、あの惨劇は知らない方が良かったのかもしれません。
さて、豪樹の方は何をしているかと言うと?
――――ジュウウウゥゥゥウウ〜〜ッッ
身体の多動性に着手したeスポーツ用ユニフォームやシューズを開発する部室内にて。
口を目一杯萎ませ、チューブ状の容器に入っているエネルギー補給用のゼリー飲料を飲み干す豪樹。
“10秒メシ”を有言実行させるかの如し、瞬速の栄養補給。喉越しに良いシャインマスカットの味が口元に拡がり、飲み干したゼリーのカロリーが五臓六腑に染み渡る。
その味の余韻に浸る間も無く、プレイギアにて着信を掛けた。
「…………あっ、報告に遅れて申し訳御座いません。”マスター・金剛“。【心技体の秘石】の奉納、無事に完了しました」
『――――うむ、御苦労であった。しかし無事と呼ぶには気を遣い過ぎる。危険な目に合わせてしまった我が先に謝る事だ。済まぬ事をした』
「いえ、とんでもない! ワイも……いや、私も不時着なんてミス冒さなかったら、奈落道の連中に……」
『どのみち、闘いには避けられぬ。それよりも豪樹が無事で何よりだ』
「あ、ありがとうございます」
何やら、【マスター・金剛】と呼ばれる上司と会話をしている豪樹。しかしガタイの良い兄貴分の豪樹が畏まる程の上司さんって、どんな人でしょうね?
『それよりも、“赤獅子”と呼ばれる野生児を保護したと聞いたが。何故に彼を連れてきたのだ?』
「えぇ、それが……」
――豪樹の説明を掻い摘んで、語り部の私『Mr.F』が代わりに説明するならば。
本来は腕輪を装着しない人間が、腕輪を着けた者への攻撃は受け付けず、逆に攻撃を受ければ致死量に値するダメージを受ける仕組みだが……
あの時腕輪の着けてない玲王は、マンテラーの衝撃波を受けても無傷。更には怒りの咆哮でマンテラーを一撃で吹き飛ばした事を、マスター・金剛に語ったのでした。
『つまり、彼のPASが……?』
「そうです、マスター。彼の魂に宿る【赤獅子】が、彼を強くさせてるのかと……!」
〚SETTING...〛
代わって場面は『ヘラクレス』内にて設備された格闘場。そのフィールドの外辺には、トレーニング用のマシンが設備されたジムとなっている。
「なんだなんだぁ〜? 面白そうな事してんじゃん!」
彼にとってはへんちくりんなマシン達に飽きて、ガラス越しに顔をへばり付けながら傍観するは、スパーリングしている二人のファイターの姿!
西陣、青の武道着を纏った美青年『武 龍青』!
東陣、黄色のインナーシャツに着飾った健康優良女子『萌黄 舞』!
――この二人の出逢いが、赤城玲王の人生を大きく変える!!
〚Coming Soon…〛