1 彼女と大家さんの優しさに挟まれて
「もう今年も終わりだねー」
「私達の季節が来るね。寒ければ寒い程、調子が上がってくる感じ」
私達は北の地方に住んでいて、冬は寒くなるのだけど、私も彼女も寒さには強かった。逆に暑さには弱くて、今年の夏は二人でグッタリと過ごしたものだ。北国で三十五度近くまで気温が上がるのはおかしいと思う。長く生きていると、地球の温暖化というものが実感できた。
「荷物、私も持つってば。過度に女の子扱いをしないでよ」
「いいの。私の方が、筋力があるんだから。貴女のために恰好をつけさせて」
買い物の帰り道で、いつも通りの遣り取りを交わしながら私達は歩く。私の彼女が男前すぎて困る。私だって非力という訳では無くて、むしろ一般的な女性よりは筋力もあって、荷物運びも上手いのだけど。こういう所で彼女は譲らなくて、それで居て夜になると絶対、私に逆らわないのだから両極端が過ぎる。
彼女の方が筋力はあるから、確かに向こうから強引に来られたら困るんだけど。私は彼女の強さと優しさに甘えてばかりだ。
「あら、買い物帰り? 相変わらず仲が良いわねー」
「あ、大家さん。ええ、今夜は鍋にしようと思いまして」
「……どうも、大家さん」
私と彼女が住んでいる、アパートの大家さんと道端で挨拶を交わす。私の彼女は、私以外の人間と会話をするのが苦手なようで、いつも言葉足らずだ。
大家さんは絵に描いたような善人で、何かと野菜などを私達にお裾分けしてくれる。この大家さんと私は仲が良くて、そんな事もあって、まだ小さなアパートから私は引っ越しする気にならないのだった。
「……先に行くから、大家さんと話してていいよ。では……」
そう私に言って、最後に大家さんに軽く会釈してから、買い物の袋を持って彼女は部屋へと戻っていった。うーん、人見知りが治らないなぁ彼女は。
「若い子の会話を邪魔しちゃったかしらねぇ。私が貴女に話しかけると、いつも寂しそうな、不安そうな表情になるのよね彼女。あの子とも私は仲良くなりたいんだけど」
「あー、難しいと思いますよ。彼女を手懐けられるのは、ムツゴロウさんくらいだと思うので」
「まあ、何それ。まるで野生動物みたいじゃない」
大家さんが面白そうに笑う。彼女が引越しをしたがっているのは、ひょっとしたら、私と大家さんを引き離したがってるからじゃないのか。元が動物系の精霊である彼女は、他の人間が私と仲良くする事を嫌がっているように思えた。
「私は彼女の、飼い主みたいなものなので。だから責任を持って、彼女を幸せにしたいんです。これからも彼女は、大家さんに懐かないかも知れませんけど、悪気は無いと思いますので。これまでも、これからも、至らない点はあると思いますが私達を何卒、よろしくお願い致します」
「あらあら、まぁまぁ。こんなオバちゃんに若い子が頭を下げるものじゃないわよ。お年寄りの方と話してるみたいだわー」
私も長く生きているので、どうしても所作が若者離れしてしまう。大家さんは楽しそうに笑っていて、同性カップルである私達に、いつも何かと目を掛けてくれる。案外、「私達、実は精霊なんです」と言っても、大家さんは笑って受け入れてくれるんじゃないか。そんな事を私は考えた。