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一話 「これボク、ダウンロードされてないなぁー」

 人里から離れた辺境の道を、二台の馬車が進んでいた。

 先頭の馬車には、武器を携えた男達が、緊張した面持ちで乗り込んでいる。

 殺気だっているというより、一種怯えているようにも見える表情だ。

 後続の馬車には、複数の女性と子供が乗っていた。

 いや、乗っている、というのは少々語弊があるかもしれない。

 正確には、無理やり閉じ込められているのである。

 男達は、奴隷商人であった。

 女性と子供達は、彼らの商品。

 今はその運搬中であった。


「なんだってこんな場所通らにゃならねぇんだよ。もっと安全なところがいくらでもあるってのに」


 奴隷商人の一人が、ぼやくようにつぶやく。

 後続の馬車を操っている、御者の男だ。

 彼らが通っているこの道は、大変危険な道であった。

 人が住む領域と、人ならざる者達が棲む領域の境界近く。

 いつ何時、モンスターと呼ばれる化け物が現れたとしても、おかしくない場所である。

 無論、そんな場所を通っているのには、それなりの理由があった。

 御者の男の言葉に、隣に座っていた男が煩わしそうに顔をしかめる。


「仕方ねぇだろ。一応非合法な商売だからな」


 少なくともこの国では、奴隷というのは非合法なものであった。

 奴隷を扱うのも、奴隷になることも禁止されている。

 少人数ならばともかく、馬車に乗せられているは合わせて十数人ほど。

 これだけの人間を運ぶとなると、流石に目立つ。

 人目を避けられる道を選ぶ必要があったのだ。


「まったく、違法だ違法だっていう割には、お貴族様のなかにゃぁ、道楽で奴隷持ってるのもいるってのになぁ」


「本音と建て前ってやつだよ。知ってるか? 手を出す奴がいるから、法で禁止するんだよ」


「はぁー。そういうもんなのか? 博識だねぇ」


「あのぉ、すみません」


 御者席に座る二人は、ぎょっとした顔で後ろを振り向く。

 声の主は、商品である奴隷の少年であった。

 荷台の檻の中から、声をかけてきたのだ。

 一見して、驚くほど美しい少年である。

 どこか儚げな顔に、潤んだ揺れる瞳。

 薄汚れてはいてもわかるきめ細やかな肌は、上質な絹のような艶めかしさを湛えている。

 何より目を引くのは、特徴的な白い髪の毛だろう。

 僅かに銀を含んだ色合いは、見るものを誘惑するような魅力があった。

 まるで、名工が命をかけて作り上げた、彫刻作品のような少年である。


「お忙しいとは思うんですけどもぉ。ちょぉーっと、2、3ご質問させて頂きたいなぁー、なぁーんて」


 へらへらと笑いながら、揉み手をしている。

 その表情は小物感漂う卑屈そうなものであり、ビジュアルとのギャップがすごかった。

 思わず引いてしまう御者の男だったが、咳ばらいをして気を取り戻す。


「なんだお前。大人しくしてろよ。自分の立場分かってんのか」


「いえ、もちろん大人しくしていようとは思っているんですけどもね? ほら、これから自分がどこに連れていかれるのかわかったりなんかすると、心の準備とかもできてご迷惑もおかけしないかなぁー、なぁーんて」


「どこにって。お前、捕まって奴隷にされてんだぞ。ふつうそんなこと気にするかぁ?」


 少年達は、借金などで縛られてこの状況に陥っているのではなかった。

 武装した奴隷商人達に村を襲われ、捕まったのである。

 普通なら、喚くなり絶望するなりするのが、普通の反応だろう。

 少なくとも、揉み手で状況説明を求める奴は、そうはいない。


「まぁまぁまぁ! ちょっと変わった質問かなぁー、とは思うんですけどもね! 気になっちゃうとどうしても、ほら! 大丈夫! これお聞きしたらおとなしくしておりますので!」


「どういうメンタルしてるんだお前。どこって、あれだよ。隣国だよ。あっちなら大っぴらに奴隷売買できるからな。こっちの国の人間は高く売れるんだよ」


「あっ、やっぱりそっち方面だったりします? ワンチャン王都だったりとかは?」


「なんのワンチャンスなんだよ。ねぇよ、どうして王都になんてつれてかなきゃならねぇんだよ。あぶねぇだろうが。俺達だってつかまりたかねぇよ」


「ですよねー! そうですよね、王都に奴隷持ち込むとか危険ですもんねぇー! あははは! いえ、そうですかぁー! ありがとうございますぅー!」


 少年はぺこぺこと頭を下げながら、そそくさと檻の端っこの方へと移動していった。

 御者席の二人は、顔を見合わせて肩をすくめる。

 おかしなやつだとは思ったが、この商売を長くしているとそういうヤツを見ることもあった。

 状況に錯乱して、少々頭のネジが外れてしまったやつである。

 この少年も、きっとそんな感じなのだろう。

 そんな風に考え、すぐに少年のことは気にしないことにしする。

 見た目は飛びぬけていいから高く売れるだろう、と思う程度だった。

 一方、端っこに移動した少年は、へらへらと笑っていた顔とは裏腹。

 人目を避けるように格子に向かって座り込むと、頭を抱えていた。


「これボク、ダウンロードされてないなぁー」


 ダウンロードとは、いったい何のことなのか。

 話は、この少年が生まれる前のことまでさかのぼる。




 少年の名前は、ルシアという。

 生まれる前、要するに前世では、日本のブラック企業でリーマンをやっていた。

 連日の残業でへろっへろになりながら歩いていた、深夜の帰り道でのことだ。

 老朽化した水道管からの漏水で地面が突如陥没。

 落下と同時に強かに体を打ち付けたのだが、打ち所が悪かったらしく、そのままぽっくり逝ってしまったのである。

 そして、気が付いたら。

 赤ん坊として異世界に転生していたのである。

 いったい何が起きたのかと混乱したが、騒いだところで事実は変わらない。

 どうやら今世ではルシアという名前らしい、という事実と共に、彼はその事実を受け入れたのだった。

 そんなルシアは、体が動くようになるとこの世界のことを調べまくった。

 といっても彼の生まれた場所はごく小さな村であり、手に入れられる情報は少ない。

 それでも何とか手に入った情報を考察して、ある結論を得た。

 この世界は生前にプレイしていた女性向け恋愛ゲーム、いわゆる乙女ゲーの世界である、と。

 しかも自分は、その攻略キャラの一人であるらしいのだ。

「トキメキ戦略シミュレーション ファルニア学園キラ☆らぶ戦記」

 それがゲームのタイトルである。

 ふざけてんのかと思うような名づけだが、戦略シミュレーション系のゲームが得意なことで有名な某有名企業が作ったゲームだ。

 恋愛パートのすっ飛び設定と、それと相反するガチガチにガチすぎるシミュレーションパートが評判となり、地味にヒットしたタイトルである。

 評判がよかったおかげか、ダウンロードコンテンツなども複数作られ、多くのファンを長い間楽しませてくれた作品であった。

 ルシアも生まれ変わる前、このゲームを楽しんでいる。

 恋愛ゲームとして売り出されていたのだが、そのあたりはまるっと無視して戦術シミュレーションゲームとして楽しんでいた。

 有料追加ダウンロードなどもすべて買い揃え、いかに効率のいい部隊を作り上げるかに注力していたものである。

 そんな中にいたのが、今の自分自身、ルシアというキャラクターであった。

 元奴隷という暗い過去を持つ人物であり、癖が強いものの使いこなすことができればなかなか強力な戦力として機能するキャラクターだ。

 このキャラクターなのだが、ゲーム当初には存在していなかった。

 いわゆる「追加有料ダウンロードキャラ」だったのだ。

 ゲームを買った後、さらに追加でお金を払うことで買うことができるキャラクターなのである。

 ただ、残念ながらこの世界、どうもルシアというキャラクターは、購入されていないっぽいのだ。

 そう判断した理由は、いくつかある。

 中でも一番大きいのは、ルシアの生い立ちにあった。

 ルシアというキャラクターは、幼い頃に奴隷商人に売り渡され、王都に住む貴族に奴隷として買われた、という設定を持っている。

 その類まれな美しさを気に入られて、5,6歳という幼いころから、籠の鳥のように閉じ込められて生きてきたのだ。

 が。

 実際のルシアは、現在14歳。

 それまではド辺境の農村で、サバイバルな生活をしていた。

 美しさを愛でられ、王都の巨大なお屋敷できらびやかな衣装を着せられて育ったという「ゲームキャラのルシア」とは、真逆といっていい生活だ。

 本来なら売り飛ばされるはずの時期に、ルシアはそういったイベント一切エンカウントすることなく育ったのである。

 そして、ストーリーとは全く関係ない今の時期に捕まり。

 やはりストーリーとは全く関係ない、隣の国に売り飛ばされようとしている。

 一体どういうことなのか。

 いろいろと考察した結果、ルシアは一つの結論を出した。

 それが、「これボク、ダウンロードされてないなぁー」だったわけである。


「これ、この後どうなるんだろうなぁ」


 聞いた話によると、隣国というのは奴隷を鉱山などで使い、産業を発展させているらしい。

 おそらくこのままいけば、鉱山とかで一生穴を掘らされたりするはずだ。

 ルシアとしてはうれしくない、というか絶対に避けたい状況である。


「こんなことなら、王都で奴隷として暮らしてたほうが万倍ましじゃないかよぉ」


 というより、ルシアとしてはそっちの方が望ましい。

 大きなお屋敷の薄暗い部屋で、きれいなお洋服、はどうでもいいとして、一切働かず美味しいものを食べて寝るだけの生活。

 気を使うべき相手は自分を所有している貴族だけで、それ以外はストレスフリーな環境である。

 なんと優雅で満ち足りた生活だろう。

 多くの社畜戦士が、望もうとも決して手の届かない恵まれ過ぎた環境ではなかろうか。

 ブラック企業でだいぶヤラれていたルシアにとっては、むしろ望むところな人生なのだ。

 どうにかして逃げ出したいが、それは不可能だろう。

 ルシアはちらりと、奴隷商人達の方を盗み見た。

 もう、お前ら傭兵とかとして稼いだ方が絶対収入いいだろふざけんな、といった感じの体格である。

 全員マッチョだし、上半身は基本的に逆三角形だ。

 二の腕とかはボンレスハムかと思うぐらい太いし、こういう三下的ザコキャラ風の方々特有の油断した感じなども一切ない。

 いかにも歴戦の兵士風の雰囲気がバリバリで油断も隙もなく、たとえガラス瓶を持ったルシアが後ろから殴りかかったとしても、無傷で返り討ちにされること請け合いである。

 対するルシアのスペックは、ヒョロヒョロな手足にぺこぺこなお腹。

 手には武器すらなく、むしろ縄で手枷をされている状態だ。

 ゲームのキャラクターに転生したのなら、そのキャラの能力を使えばいいのではないか。

 そういう考えもあるだろうが、残念ながらそれは出来ない。

「トキメキ戦略シミュレーション ファルニア学園キラ☆らぶ戦記」というゲームは、名前通り学園を舞台にしたゲームである。

 ファルニア学園に通う生徒となり、戦闘技術を身に付けていく、というのがゲームの流れなのだ。

 つまるところ登場キャラクターの戦闘能力は、学校での教育によるもの。

 まったくそんな教育を受けていない今のルシアの戦闘能力は、おそらく狂暴なリスあたりにも劣るはずだ。

 このままでは、隣国で一生ツルハシ片手に穴を掘る生活を送ることになってしまう。

 何とかして逃げなければ。


「ああ? なんだ、どうした?」


「わかんねぇ。なんかあったのかな」


 馬車が止まり、御者台に座る二人の不審げな声が聞こえてきた。

 何かあったらしい。

 ルシアも気になって、格子の隙間から周りをうかがってみた。

 先を行く馬車が止まったので、後続の馬車も止まってしまったらしい。

 その理由がわからなくて、男たちは困惑しているようだ。

 この辺りは、モンスターも出現する危険地帯である。

 さっさと通り抜けてしまいたいのだろう。

 ルシアとしても、身の安全は気になる。

 あるいは、そのモンスターでも出現したのかと、格子に顔を押し付け、先頭の馬車の方を見やった。

 目を凝らすと、馬車の前に何かがいることが分かってくる。

 やたらときらびやかで、豪奢な布の塊のように見えた。

 周囲がもろに山林ということもあり違和感で一瞬分からなかったが、どうやらドレスを着た女性のようだ。

 髪型が特徴的で、こめかみのあたりからバームクーヘンの原木でも吊り下げているかというような、工業用ドリルっぽい髪形をしている。

 少々離れているが、目鼻立ちはかなり整っているように見受けられた。


「なんだありゃ。お貴族様の娘か?」


「なんでこんなところにいるんだよ」


 御者台の二人が、困惑したように言う。

 ルシアも全く同じ気持ちである。

 なんであんな格好をした人物が、こんな人里離れたド辺境にいるのだろうか。


「ん? いや、待てよ? あの格好どっかで見おぼえあるなぁ」


 馬車の前に立ちはだかっている人物に、ルシアは確かに見おぼえがあった。

 農村出身である今世では、まず間違いなく関わり合いにならない人種のはずである。

 ということは、ブラック企業でリーマンをしていた前世でのかかわりのはずだ。

 しかし、あんなあからさまなお貴族様のご令嬢的な人物と自分に、どんな関係があったというのだろうか。

 それにしても、思わず称賛したくなるほどのお貴族様な外見でだ。

 どうやら、前の馬車に乗っている男達と揉めているらしい。

 離れているので声こそ聞こえないが、胸を反らし口元に折り畳みの扇を当てるような仕草をしていて、この辺りも令嬢感に拍車をかけていた。


「でも、なんか相当偉そうな感じだなぁ。気位高そうだし。令嬢っていうか、悪役令嬢みたいな」


 乙女ゲーなどに極稀に登場する存在、悪役令嬢。

 主人公を邪魔する、ライバル的な立ち位置にいるキャラクターのことである。

 そういえば、ルシアが転生したと思しき「トキメキ戦略シミュレーション ファルニア学園キラ☆らぶ戦記」世界にも、悪役令嬢が居た。

 紹介プロフィールにでかでかと書かれた文言は、そのものずばり「悪役令嬢」。

 かなりインパクトのある外見だが、性格とキャラ性能の方もかなりとがっていた。

 プレイによって変化するストーリーによっては、味方になったり敵になったりする忙しいキャラクターで、プレイヤー人気は案外高かったものである。

 ルシアも結構気に入っていて、よく使っていたものだった。

 戦闘では高火力な魔法を使いこなすキャラクターで、耐久力と移動力は最低レベルなものの、その圧倒的な攻撃力から固定砲台的な役割を担っていたものだ。

 攻撃シーンが特徴的で、手にした扇を上へ放り投げると、背後に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 魔法ごとに対応した個別のセリフと共に突き出された手の指輪が輝くと、背後の魔法陣から魔法が飛び出すのだ。


「そうそう、ちょうどあんな感じに」


 馬車の前に立っている人物は、まさにそんな仕草をしていた。

 すなわち、手にしていた扇を放り上げ、背後に巨大な魔法陣を出現させ、輝く指輪を填めた手を前へ突き出したのである。


「このわたくしの前に立ちはだかるとはいい度胸ですわ!! 身の程という言葉を骨身に刻んで消し飛びやがりなさい!!」


 ルシアは全身から血の気が引くのを感じた。

 もしあれがルシアの知っている人物、というかキャラクターであれば、これは非常に不味い状況である。

 檻の中にいる、他の捕まっている人達に向かって叫ぶ。


「頭を抱えて、伏せて! はやく!」


 言われた捕まっている人達は、皆きょとんとした顔をしている。

 無理もないだろう、突然そんなことを言われても反応できる人というのは少ない。

 ルシアはわざと大げさな仕草で、頭をかばってその場に伏せた。

 他人がやっているのを見ると、自分も思わず同じような行動をしてしまう。

 確かそんな心理的な効果があったはずで、それを願っての行動だった。

 狙い通り、半分ほどの人間が頭に手をやったり、屈んでくれる。

 これで少しは被害が免れる、そう思った瞬間だった。

 爆音と閃光。

 思わず顔をそむけてしまうほどの光が迸り、爆音で馬車が軋む。

 馬車につながれた馬が暴れ出し、御者台の男達が転げ落ちた。


「なんだぁ!? 何が起きた!!」


 奴隷商人達が叫んでいるのが聞こえる。

 警戒しながら顔を上げてみると、男達の驚きの原因が目に入った。

 前方の馬車が半壊し、乗っていた奴隷商人達が地面に転がっているのだ。

 動いているようなので、死んではいないらしい。

 何が起きた、と奴隷商人達は叫んでいたが、ルシアにはおおよその見当がついていた。

 おそらく先頭を行っていた馬車と、貴族らしき人物との間でトラブルがあったのだ。

 そして、腹を立てた貴族らしき人物が、魔法をぶっ放したのである。

 あの外見にこの行動。

 やはり、あれはルシアの予想通りの人物で、間違いないようだ。


「このわたくしを誰だと思っていますの!?」


 貴族らしき人物の声が、ルシアの耳にもはっきりと聞こえた。

 馬車が軋む音や男達の悲鳴と罵声を貫いて聞こえてくるというのは、驚きである。


「わたくしの名はエルザルート! エルザルート・ミンガラム男爵!! 栄光あるファルニア王国の、偉大なる軍閥貴族ですわ!!」


 悪役令嬢エルザルート。

「トキメキ戦略シミュレーション ファルニア学園キラ☆らぶ戦記」の登場人物の一人である。




 ルシア達を運んでいた奴隷商人達は、かなり武闘派な連中であった。

 ド辺境の村を襲い、住民を搔っ攫っていくというかなりアグレッシブなタイプの奴隷商人だったのだ。

 商人というより、シンプルな人さらいである。

 もしかしたら、平時は本当に傭兵などをしているのかもしれない。

 おそらく荒事に慣れていたのだろう。

 貴族らしき人物、エルザルートに襲われた直後の立ち直りと判断は、恐ろしく素早く、かつ正確であった。


「やべぇ! 魔法使いだ! 逃げろ!!」


「殺されるっ!!」


「たすけてぇ! ママー!」


 脱兎のごとく逃げ出したのである。

 ルシアも思わず「はやっ!!」といってしまうほど見事な遁走だった。

 彼らの判断は、正しいといえるだろう。

 この世界に置いて魔法使いというのは、歩いてしゃべる兵器のような扱いだ。

 それはそうだろう。

 大掛かりな装置もなしに、単独で巨大な破壊力を生み出すような相手である。

 ざっと見、奴隷商人達の持っている武器は、剣や斧、槍が少々といったところだった。

 想像していただきたい。

 剣や槍を武器に、手からロケット砲っぽいものを打ち出してくる相手と戦いたいと思うだろうか。

 少なくとも、戦い慣れていると思しき奴隷商人達は、逃走を選んだようである。


「やったっ! これで逃げられ、るって、え、まって! ちょっと、鍵開けてってくださいよ! もしもーし!」


 奴隷商人達の逃走は、まさに見事の一言だった。

 ただ、あまりにも見事過ぎたのである。

 身を守るためと思しき武器や食料を最低限馬車からひったくるように持ち出すと、すさまじい勢いでばらばらに逃げだしたのだ。

 ほかの荷物はすべて置き去り、無論、その荷物の中には、商売道具である奴隷達も含まれていた。


「ちょっと! せめて鍵だけ! 鍵だけ開けていってくださいよっ!!」


 ルシア達が閉じ込められている馬車は、荷台に檻が据え付けられていた。

 その中に奴隷が閉じ込められているわけだが、かなり頑丈そうな造りで、壊すことは難しい。

 ということは、このまま放置されたらかなりまずいことになる。

 檻を壊すことが出来なければ、餓死することになりかねない。

 あるいは、モンスターに食われる、等ということも考えられる。

 どっちにしてもあまり楽しい未来ではないのだ。

 だが、ルシアの声もむなしく、男達はあっという間に逃げ去ってしまった。

 もはや後ろ姿も見えない。

 絶望しかけるルシアだったが、すぐに気を取り戻した。

 もっと肝心な、助けてくれそうな人が目の前にいるではないか。


「あの、そこのお方! お助けください! お願いします何でもしますから!」


 ルシアが声をかけたのは、エルザルートである。

 普通に考えれば、まずこの場面なら助けてくれるだろう。

 だが、残念ながらエルザルートは普通ではなかったようである。

 ちらりとルシアの方を見ると、苛立たし気に眉を吊り上げた。


「愚民がこのわたくしに指図するつもりですの!?」


「へっ!? 違います違います! 冷静に! 冷静になってくださいぃ!!」


 なにか、怒りのスイッチのようなモノが入っているらしい。

 たぶん何を言ってもキレられるだろう。

 だが、ここで諦めたら、待っているのは餓死かモンスターの餌になる未来だ。


「あの連中は非合法の奴隷商人で、私達は無理やり捕まえられて連れてこられた被害者なんですぅ! 貴女様はお貴族様とお見受けします! どうか哀れな民衆にお慈悲を!」


「無理やり捕まえられた? あの連中、そんなことしていましたの」


 エルザルートは、意外なことを聞いて驚いた、という顔を見せた。

 どうやら連中が奴隷商人だということを知らなかったらしい。


「えっ、ならなんであの人たち吹っ飛ばしたので?」


「このわたくしに小生意気な口を叩きやがったからですわ」


 完全にヤバいやつのセリフである。

 できれば関わり合いになりたくないところだが、そんな贅沢は言っていられない。


「あの、そんなわけでして、助けて頂けると本当にうれしいんですが」


「そうですの? 貴方以外はそうでもなさそうに見えますけれど?」


 言われて、ルシアは後ろを振り向いた。

 捕まっているほかの人達は、檻の端っこの方で固まって震えている。

 明らかにエルザルートを警戒している様子だ。

 無理もないだろう、目の前でいきなり魔法をぶっ放したような相手である。

 危険だと思うのが当然だ。

 しかし、今は贅沢を言っていられる時ではない。


「なにしてるんですか皆さん! ここであの方に放置されたら、檻に閉じ込められたまま餓死するか、あるいはモンスターの餌になるしかないんですよ! ほら、お願いして!」


 ルシアに言われて、震えていた人達も自分の立場に気が付いたらしい。

 ハッとした顔になって、慌てた様子で格子にしがみついた。


「おねがいです、お助けください!」


「鍵を! 鍵を開けてくださいまし!」


「お貴族様ぁ! お願いいたします!」


 懇願の声に、エルザルートはいささか困ったように顔をしかめる。


「鍵をねぇ。ざっと見その辺に鍵なんて落ちていないようですし。探すのは面倒ですわね。まあ、開けるだけなら鍵なんて不要ですわね」


 あ、これヤベェ流れのやつだ。

 瞬時に察知したルシアは、檻の反対側に走った。

 自分だけ助かるのも目覚めが悪いので。


「逃げて! 魔法で鍵を吹っ飛ばすつもりですよ!」


 と、叫んでおいた。

 先ほどのこともあったので、今度は皆素早く反応してくれる。

 雪崩を打つように檻の入り口から人が離れるのと、ほぼ同時。

 エルザルートが前に突き出した指先を中心に、空中に魔法陣が浮かび上がった。


「吹き飛びなさい」


 いうや否や、魔法陣から閃光が飛んだ。

 檻の鍵に直撃すると、爆発。

 頑丈そうに見えた鍵が、一撃で吹き飛んだ。


「あっぶなっ!! こわっ!!」


 叫ぶルシアだったが、とにかくこれで助かったのは間違いない。

 慌てて、檻の中から這い出した。

 他の人達も、のろのろと外に出ては、お互いに無事を確認して喜び合っている。

 ルシアも喜びに酔いしれたいところだが、そうもいかない。

 実に気の滅入る話だが、まだ危険は過ぎ去っていないのだ。


「あの、ありがとうございます。確かお名前は、エルザルート様でございましたね。危ないところをお助けいただき、助かりました」


 あくまで、エルザルートのことは知らない体でお礼を言う。

 まさか、前世から貴女のことを知ってるんですよ!

 などというわけにはいかない。

 そんなことを言えば、頭がおかしいやつだと思われるだろう。

 もしルシアがそんなことを言っている奴を見たら、まず間違いなく「ああ、何かよっぽどつらいことが有ったんだな」と思う。


「たまたま通りがかっただけですわ」


「それでも、助かったことには変わりませんので。そういえば、なぜこのようなところに?」


「わたくしの領地がこのあたりだからですわ。もっとも、来るのは初めてですけれど」


「トキメキ戦略シミュレーション ファルニア学園キラ☆らぶ戦記」というゲームは、プレイヤーの選択によってかなりキャラクターの命運が変わるゲームであった。

 今は詳しく思い出している暇もないが、たしか「悪役令嬢エルザルート」には、地方に飛ばされる展開も多かったはずである。

 おそらくそういった展開の一つが、現在の状況なのだろうと思われる、が。

 正直なところ今はエルザルートがどんなルートに入っているかなどどうでもよかった。

 ルシアとしてはそれよりも、自分の身の安全の方が気になるのだ。


「それは。では、一番近くの人里なんて、ご存じないでしょうか? 私達、遠くから連れてこられまして。この辺りの地理に明るくないんです」


 人のいるところに行くまで、安心することはできない。

 食料と身の安全を確保できなければ、何にしても危険なのだ。

 エルザルートは、悩むように腕を組んだ。


「そうですわね。わたくしが来た方向に行けば大きな街がありますけれど、かなり距離がありますわ。歩きならば二三日はかかるかしら」


 いつモンスターが襲ってきてもおかしくない場所を、二三日も歩きたくはない。

 武器や食料などは、奴隷商人達が置き去りにしていったものがあるだろうが、それにしても危険は危険すぎる。


「小さな村ならば、この先にあるはずですわ。ここから一時間程度のはずですわね」


 この世界の時間は、一日二十四時間で、日本と変わらない。

 日本製のゲームの世界だからだろう、非常にご都合主義だが、わかりやすくて助かる。

 それはいいとして。

 村があるというなら、好都合だ。


「それは、何方の方向に?」


「あちらの方角ですわね。これからわたくしが向かう予定ですわ」


 さらに好都合である。


「あのっ! それでしたら、よろしければご一緒に連れて行っていただけませんでしょうかっ! けっして、お邪魔になりませんので!」


 エルザルートについて行けば、たとえモンスターに襲われても撃退してくれるはずだ。

 村に一緒についていければ、事情説明もしてもらえるだろう。

 お貴族様の紹介であるならば、無下にはされないはずである。


「構いませんけれど。大所帯ですわねぇ」


 エルザルートは、ちらりと捕まっていた人達の方へ目を向けた。

 ルシアとしても、彼らは一緒に連れて行ってやりたいところである。

 こんなところで見捨てるというのは、あまりにも目覚めが悪い。

 元日本人としての良心的呵責もある。


「大丈夫です、お手は煩わせません! 勝手についていくだけですので! ほら皆もお願いして! こんなところで置いてけぼりになりたいんですかっ!」


「お、お願いしますお貴族様ぁ!」


「こんなところに置いていかれたら、死んでしまいます!」


 ルシアに促され、皆慌てて懇願し始めた。

 実際、大げさではなく死んでしまうだろう。

 何しろ捕まっていたのは、女子供だけなのだ。

 おそらく大人の男性は、別口で売られているのだろう。

 体力があって働き手としての価値のある大人の男と、女子供とでは、需要が全く違うのだと思われる。

 そうなると、売る先が変わるのも当たり前なのだろう、と思われた。

 まあ、実際のところはルシアの知るところではないし、興味もない。

 流石のエルザルートも、命がかかった圧力にはたじろいだ。

 困惑した表情を浮かべながらも。


「まあ、いいですわ。行きがかりのことでもありますし」


「有難うございます! ありがとうございます! では、申し訳ありませんが少々お待ちください! すぐに準備いたしますので!」


 大急ぎで動き出そうとするルシアを、一人の女性が服を掴んで止めた。

 服はかなりボロボロなのであまり荒く扱ってほしくないのだが、言葉も上手く出てこないぐらい動揺しているのだろう。


「どうかしましたか?」


「あ、あの、私達はその、どうすれば」


 ルシアよりも年上の女性なのだが、どうやらかなり頼られているらしい。

 先ほどからあれこれと指示をしていたので、一番冷静だと思われているのだろう。

 こちらの言うことを素直に聞いてくれそうなのは、願ってもないことである。


「あっちの吹っ飛ばされた馬車に、武器や食料などが残っているはずです。それを持てるだけ持っていきましょう。それから、使えそうなものも。これからの生活の役に立つかもしれませんから」


 現在のところ、ルシア達は無一文である。

 少しでも金に換えられるもの、あるいは物々交換に使えそうなものがあったほうがいい。

 ルシアの言葉に、皆納得したようにうなずいている。

 それから、すぐさま動き出し、馬車の中を物色し始めた。

 ルシアもそちらに混ざろうかと思ったが、別にやることが有ることに気が付く。

 幸いなことに、ルシア達が載せられていた馬車には、まだ馬が繋がれたままだった。

 馬車が動くようならば、これで移動したい。


「よしよし、ちょっと体を見せてくれな」


 少々興奮気味の馬を宥めながら、あちこち見て回る。

 どうやら、大きい怪我はしていない様子だ。

 奴隷商人達の乗っていた方の馬車の馬は、彼らが乗って逃げてしまったらしい。

 馬は貴重な労働力で、自分達で使うのにも交換するのにも助かったのだろうが、仕方がない。

 乗っていた馬車は二頭立てで、繋がれた馬は二頭とも無事だ。

 これだけでも、十分な幸いと言えるだろう。

 そんな様子を見ていたエルザルートが、感心したような声を上げる。


「貴方、その年で馬を扱えるのですわね」


「へ? ああ、はい。そういう機会に恵まれまして」


 馬の扱いというのは、特殊技能の一種である。

 現代日本で言えば、車を運転できるのと同じようなもの、といっていいかもしれない。

 よほど裕福な貴族の家か、あるいは家業が馬借下でもない限り、ルシアの年齢で馬に乗れるというのは珍しい。

 ルシアの場合は、必要にかられて馬の扱いを覚えていた。


「多少なら、馬車も扱えますので。あ、よろしければ、エルザルート様もお乗りになりますか?」


「そうね。そうしましょうかしら」


 有能アピールをして置けば、置き去りにされることもあるまい。

 まして同じ馬車に乗っているとなれば、なおさらである。

 内心ガッツポーズをしながらも、ルシアの頭にある疑問が浮かんだ。

 ここまで思いつかなかったのが不思議な類のものだったが、まぁ、緊急事態だったのでよしとする。


「ところでエルザルート様。なぜ、お一人で?」


 普通、貴族が一人で、しかもこんな危険地帯を歩いていることなどありえない。

 何か理由があるのだろうが、その辺がルシアには想像がつかなかった。


「一人ですわね」


「あの、供回りの方々は? 危険だと思うのですが」


「貴族であるこのわたくしをそうたやすく害せるものがいると思って?」


 貴族がどう関係してくるのかはよくわからないが、なるほどエルザルートをどうこうできるものはそう居ないだろう。

 ゲーム通りのスペックであるならば、敵キャラを一ダースは用意しなければどうにもならないはずだ。

 それに、エルザルートはかなり我が強い性格のはずである。

 何かしら理由があって一人で歩くと言い出したら、誰の制止も聞かないだろう。

 深く考えればいろいろ不自然なところはあるのだろうが、今のルシアにはその辺の理由だけで納得するのには十分であった。

 何しろ、現在進行形で自分の身が危ないのである。

 他人のことなど、正直そこまで考えている暇はなかった。

 ある程度合点がいく理由が聞ければ、それで納得してしまえるような心理状況なのである。


「そういうものですかぁ」


 後々、この時のことをルシアは深く後悔することになるのだが、その時にはすべて後の祭りであった。

 この後、ある程度荷物をまとめ終えたルシア達は、馬車に乗り込んだ。

 エルザルートの案内に従って、村があるという方向へ向かって出発したのである。




 逃げ惑う犬っぽい亜人。

 それを追い回すのは、屈強な肉体を持つ緑色の亜人。

 目の前に繰り広げられる光景に、ルシアは唖然としていた。


「あの、ここは」


「村ですわ」


「村って。亜人の村じゃないですか」


 エルザルートに案内されて到着したのは、亜人の村であった。

 しかも、どういうわけか襲撃の真っ最中である。

 犬っぽい亜人、おそらくワーウルフだろう。

 それを、オークと思しき亜人達が襲っているのだ。

 見る限り、ワーウルフはどの個体も体が小さいように感じられる。

 そういう種族なのかもしれない。


「いや、どうするんですかこれ」


 ルシアは困惑しながらも、何とかそう絞り出す。

 エルザルートとルシアの二人は、茂みに身を隠していた。

 この村に近づく、直前のことである。

 何かの異変を感じ取ったらしいエルザルートが、突然馬車を止めるように言いだしたのだ。


「何かありましたか?」


「おそらく。皆、少しここで待っていなさい。そうですわ、貴方だけはわたくしについてきなさい。少しは役に立ちそうですしね」


「はい?」


 どうやら、エルザルートはルシアをある程度評価しているらしい。

 ルシアは言われるまま、エルザルートと村に向かったのだが。

 到着してみれば、このありさまだったわけである。


「いや、それ以前に亜人の村って」


 この世界の人間と亜人は、あまり折り合いがよろしくなかった。

 人間寄りの亜人、例えばいわゆる犬耳猫耳のようなビジュアルが殆ど人間のような種族はともかくとして。

 それ以外の亜人種とは、ほぼ敵対しているといってよかった。

 確かにここは村は村だが、「敵対種族の村」なのである。

 見つかったら血祭とかにあげられるかもしれない。


「亜人だろうが村は村。このわたくしの領地ですわ」


「いや、領地って。領地? ウソ、まさか」


 ルシアの顔から、さっと血の気が引いた。

 エルザルートが辺境に来るルートの中に、確かそんな展開があったはずなのだ。

 その優秀さと危うさを危険視した宰相だったかが、エルザルートを辺境へ追放するのである。


「まさか、エルザルート様。無知蒙昧なる亜人種を、王国に住まうものとして正しき姿に教導するのが目的で、ド辺境の、本来亜人のものであるはずの土地を領地として授けられたのでは?」


 それが、エルザルートを追放する際の建前だった。

 無論、亜人の領域であるこの一帯が王国領土であるわけもなく、亜人が素直に人間の言うことなど聞くはずもない。

 完全なる無理難題の類であり、実現不可能なことを押し付けられた形である。

 それでも、王国貴族であるところのエルザルートは、「国王からの勅命」として言い渡されたこれを、断るわけにはいかなかった。

 むしろ、国王陛下へ絶対の忠誠を誓っている彼女は、嬉々としてこれを受け入れたのである。

 と、ルシアの記憶が確かならば、そんなような設定だったはずだ。

 心底から外れてほしいと願ったルシアであったが、現実は非情である。


「貴方、よくそんなこと知っていますわね? 王都で発表されたのは数日前のことでしてよ?」


「まじで」


 最悪である。

 当たってほしくない予想が当たってしまった。

 一体どうすればと頭を抱えるルシアだったが、状況はさらに悪い方向へ向かう。


「全く、面倒ですわね」


 突然エルザルートが茂みを離れ、騒ぎの渦中へと歩いて行ったのだ。


「ちょっ!? まっ!」


 ルシアが止める隙もあればこそ。

 エルザルートはさっさと村の中に入っていった。

 そして。

 手に持った扇を、高々と空へ放り投げたのである。

 瞬間、エルザルートの背後に、巨大な魔法陣が現れた。

 円形に複雑な文様、さらにそれに重なる形で、複数の円が浮かび上がる。

 この時のルシアには把握できていないのだが、これは炎の魔術式に、さらに別属性の魔法と制御術式を掛け合わせた、かなり高度な魔法陣であった。

 一瞬にして展開されたこれらは、エルザルート自身がくみ上げたものではない。

 エルザルートの指に光る、指輪の効果によって作り出されたものなのだ。

 魔法の道具である指輪に魔力を送り込むことで、魔法陣を作り上げたのである。

 そして、作り上げたその魔法陣に、さらに魔力を送り込むことで、強力で破壊的な魔法を発動させるのだ。

 奴隷商人達の馬車を破壊した、あれである。

 だが、この時編み上げられた魔法陣は、あの時に作られたものよりもさらに大きく複雑なものであった。

 当然その効果もより強力なものになっている。


「静かにしなさい、この愚民共がっ!!!」


 一喝。

 それと同時に、エルザルートの背後に浮かんだ魔法陣へ、指輪を通じて莫大な魔力が流し込まれた。

 刹那に発動したのは、グネグネと湾曲した軌道で飛ぶ光矢の魔法。

 一本や二本ではない。

 何十という光の矢が、意志あるもののように空を飛び回る。

 そしてそれらは争う亜人達の間を縫って、地面へと突き刺さった。

 次の瞬間、強烈な爆風と爆音、目もくらむような閃光が、辺り一面にまき散らされた。


「なんだっ!?」


「うわぁああああ!?」


「どうなってる!」


 亜人達は一瞬にして、混乱に陥った。

 多くの亜人は、人間よりも五感が鋭いといわれている。

 そのせいだろう、音と光による衝撃は、かなり大きなものだったようだ。

 ふらついているだけならまだましな方で、目を回して地面に転がっているものも少なくない。

 そんな状態の中、エルザルートは腰に手を当て、高笑いを響かせる。


「おーっほっほっほっほっ!! このわたくしの目の前で揉め事を起こすだなんて、不届き千万! 何が原因か知りませんけれど、喧嘩両成敗ですわっ!!」


 いや、喧嘩じゃねぇよ、なんか知らないけど戦的な奴だよ。

 そうツッコミたかったルシアだったが、無理であった。

 ルシアも光と音でやられていたからである。


「今日からこの土地はこのわたくし、エルザルート! よくお聞きなさい! エルザルート・ミンガラム男爵が治める土地になりましてよ! ゆえに! このわたくしに許可なく騒ぐことは、決して許しませんわっ!!」


 おーっほっほっほ、という、テンプレ的な笑い声。

 思わず感心するほどわかりやすい高笑い。

 エルザルートの圧倒的な存在感の前に、ルシアも亜人達も、ただただ唖然としてその姿を眺める事しかできないのであった。

新連載です


作者をご存じの方には信じがたい事実かもしれませんが、実はすでに一章分書きあがっています

これから毎日投稿です

作者が投稿を忘れなければ、ですけども

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 例えモンスターに襲われても →たとえ(仮令、縦令、縦え)~ ※他にも該当箇所多数 「たとえ~でも」は英語のeven ifと同じ仮定法なのですが「例え」は使いません。  これは誤字報告…
[一言] 初っ端からエクストリームな出会いだこと >隣国で一生ツルハシ片手に むしろ片手でツルハシ扱えるようになるまで生きていられるかどうか
[一言] クリスマスプレゼントでしょうか、ありがとうございます。
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