Episode4 選択
(知らない天井だ……)
うっすら目を開けると白い天井と壁に掛けられた俺の制服が見えた。
どうやら俺は裸で病室のような室内のベッドで寝ていたらしい。
意識が徐々に深い闇から帰ってくる。
起き上がろうとするも体の各所が痛い。それに……
(何か体の上に乗っている……重い……)
「あっお兄ちゃん!起きた?」
舌足らずな少し高い声が耳に届く。
見ると俺の太ももの上に見知らぬ少女―――いや、幼女が跨っていた。
「昨日あんなに激しくやっちゃったのに元気だね!」
(激しく……やった……?)
(ッ!!)
さらに“あること”に気づいてしまう。
俺の愚息も起きてしまっているのだ。も、もしかしてこれの事言ってたのか?
(目の前の女の子が言ってたことから考えると……いや待て待て記憶にないが俺はもしかしてこんなに幼い子相手に重大な罪を犯してしまったのか!?)
「ちょっと待っててね、お兄ちゃん」
そんな俺の心配をよそに幼女は部屋を出て行った。ほかの人を呼ぶのだろうか。
さっきは寝起きという事もあり男子高校生的思考をしてしまったが、冷静に考えてみるとここはどこかさえ分からない。
確か葉月と特殊部隊らしき人達の戦闘の末、葉月のガスグレネードで意識を失ったはずだ。あの戦闘もいまだに信じられないが、普通に考えればあの特殊部隊の人にここへ連れてこられたとみるべきだ。
すると部屋のスライドドアが開かれ、さっきの幼女と共に女性が入ってきた。
その女性は女性にしては高身長で髪はダークブラウンのショートカット。緑色の瞳によく似合っている。ボディーアーマーを着込んで帯銃したいかにも女兵士然とした人だ。
「おはよう。加賀谷葵君」
「えっと……」
あの場で声を聴いた女性だ。
いきなり名前を呼ばれて戸惑うが、彼女は続けた。
「加賀谷葵。準機密事項135842号とそれに伴う特例措置に則り、現時刻より聴取を開始する。なお身体の状態を鑑み、面接室等を用いない略式で行う。」
「あの、これはどういう……」
―――チャキッ
先ほどの幼女が申し訳なさそうに拳銃の銃口を俺に向ける。
ベレッタ Nano。ベレッタ社のポケットピストルだが幼女の小さな手にはちょうどいい。通常装弾数は6発と少ないが、見たところ一通り銃の扱いの訓練を受けているようなのでロクに動けない俺に対しては十分だ。
「君が武器を持ってないのは知っているが、万が一暴れられても困るのでな。銃を向ける非礼を許してくれ。」
「……質問してもいいですか」
俺が銃口に怯えつつ言う。
「構わないが、答えられる範囲でな」
「ここはいったいどこなんですか?」
「答えられない」
「あなたたちは?」
「準機密事項に触れるため答えられない」
「じゃあ葉月は、あいつは何者なんですかッ」
「悪いが捜査結果も準機密扱いだ」
(何も答えてくれないのかよッ)
女性の襟でもつかんでやろうと思ったが、幼女の構えるベレッタナノの銃口を見て踏みとどまる。
「……俺は、この後どうなるんですか?」
「それには答えよう。これはこちらも話そうと思っていたのでな。」
「ありがとうございます。」
「君は準機密事項に関するものを目撃してしまった。そして準機密事項135842号に伴う特例措置には目撃者に関して以下の対応を行うように定められている。“機密保持のため身元が不明の場合、身柄をとらえ次第殺害が必要ならば実行する許可を有する。不要あるいは身元の確認が取れた場合でも特別監視所へ収監する権限を○○○は有する”」
「その特別監視所、というのはどんなところなんです?」
「私も詳しくは知らないが、要するにスパイ容疑がかかった者が詰め込まれる監獄だ。そこに送られたら終わり。人間的な生活はおろか死ぬよりつらいという話だぞ。」
(まさかそんなところに俺は送られちまうのか……?)
死ぬよりつらいという事は拷問でも待ち受けているのだろうか。日本にそんな所があったとは。
「安心したまえ。続きがある。“捜査に関して役立つ情報、あるいは特殊技能をもち、身元確認ができているならば○○○へ入隊することが可能である”」
「……?」
「私も好んで少年を廃人にしたい訳ではない。幸い君の素性はわかっている。それに有益な情報も持ち合わせていることだ。」
「その、つまり……?」
「機密情報を部外者に知られてはならない。ならば、情報を知ってしまった者を内部の者にしてしまえばいい。」
「まさか俺に入れっていうんですか?いくらなんでもおかしいですよ。」
「なら、人として生きることはもうできないな。権限があると書いてあるが実質的にはこの選択肢以外はない。」
「俺は普通の生活がしたいですよ。それなのに変な部隊に入るか、人として生きられないかなんておかしいじゃないですか。憲法でも人権とかは保証されてるって……」
「あんなものは解釈次第でどうにでもなる。君は入隊資格を持っているならば入らない手はないだろう。それにこういうの、好きなんだろ。」
女性はホルスターの拳銃をポンと叩いて言った。
確かにFPSゲームは好きだし、兵器に関しても興味があった。学校に武装集団が来て、自分が撃退する妄想だって何回もしていた。けれど、実際に命を張ってでも銃を握りたかったかというとそういうわけではない。そんな覚悟は俺にはない。
特別に充実した毎日ではなかったとはいえ別に俺はこの生活が嫌いではない。教室での居場所とかそういうものはなかったけど、それでも何だかんだ楽しみはあった。友達と遊ぶことだって―――
(友達……)
葉月のことが思い出される。そもそもこうなったきっかけは葉月だ。結局葉月は何も答えてくれなかった。でも、この人達なら何か知っているかもしれない。それに、自分で葉月のことを知って分かり合いたい。
俺の思考を読み取りでもしたのか女性は口の端を持ち上げて言った。
「もちろん、隊員である以上情報共有はなされる。……気になるんだろう、彼のことが」
俺自身が、俺の唯一の親友のことを知らなくてどうする。
もし悪人だったとしても、俺は受け止めるし善い方向に正してやる。
それが親友としての務めだ。
そしてそれができる立場が用意されている。
なら、―――
「入隊を、希望します。」
きっと大きな困難が待ち受けていることだろう。
でも、必ず乗り越えて見せる。
親友のために。
「ようこそ、SATSへ」
俺は差し出された右手を、強く握り返した。
結構な期間が開いてしまいました……次話もなるべく早く上げます。
ここからが本編です!ガンアクションバリバリ書いていきますよ!
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では、また近いうちに。