Episode2 邂逅
すべての授業が終わり、生徒たちは訪れた放課後をエンジョイすべく行動し始める。
ほとんどの生徒は部活の準備を仲間と行い、そうでない奴らも友達と話しつつ帰りの支度をしている。
そしてそんな彼らを横目にすでに支度を終えていた俺は、速足で教室から去る。
正直こんな自分が情けなくなってもくるが、嘆いたところで現状は何も変わらない。
俺の通っている高校は、最寄り駅からすぐのところにあるので駅に着くのにそう数分とかからない。
速足で歩いていたらすぐに駅に着いてしまった。
まだ周りには自分と同じ制服を着た生徒がいない。
改札口にICカードを通して通過する。
この駅には上りが2本、下りが2本の計4本の線路が通っていてプラットホームは上り、下り共に1つずつある。
家へは下りの列車を使う。電車で3駅移動した後にバスに乗り換え、家に近いバス停で降りる。
この一年半で染みついた動きで迷うことなく目的のホームへと続く階段を下りていく。
階段を降りたところの頭上の電光掲示板に表示される発車時刻を見ると、あと5分ほど列車の到着まで時間がある。
ホームを移動するのも面倒なので、階段そばの誰も並んでいない乗車位置でネットニュースを見ながら待つことにする。
『新防衛大綱、9条に抵触する可能性が……』
一つ目の記事をタップして開く。
すると同時に、大きな音を立てて対岸のホームに上り列車が減速しながら滑り込んでくる。
この時間帯は上り列車にはあまり人は乗っていない上、この駅で降りる人もまばらだ。
何の気なしにスマホから顔を上げて上り列車のホームの様子を見る。
改札口に上がる階段を列車から降りた乗客は上っていく。
その中の一人の男に目を疑った。
「―――!!!」
(あッあれは!)
(葉月!?)
あの横顔は間違いなく葉月だ。
とても他人の空似とは思えない。
(何でここに居るんだ……?)
そんな疑問が頭をよぎる。
引っ越しをして転校をしたということは学校の通学圏外へ引っ越した、と考えるのが自然だ。
なのに学校の最寄り駅にいるということは何かここに用事でもあったのか。
何はともあれ詳細を告げずに俺の前から姿を消し、音信不通だった理由を聞かなければならない。
後ろの人に順番を譲り、階段を数段飛ばしながら駆け上る。
階段を登りきるとちょうど改札を出ていく葉月の背中が見えた。
それを追って改札を出ようとすると―――ピンポーン
「係員のいる改札口へお回りください」
「チッ」
自動改札機に行く手を阻まれる。
そんな俺を数メートル先を歩く葉月がチラッと見る。
しかし、そのまま先へ行こうとする。
(こんな時に……クソッ)
(IC定期券は一度入ったら同じ駅では出られないんだッ……)
急いで有人改札へ向かう。
「すいません、学校に忘れ物しちゃって」
「あ、わかりました。ちょっと定期見せてもらえますか?」
「はい」
パスケースからICカードを取り出して差し出す。
若い駅員さんはそれを受け取って機械にかざすが、機械がエラーを吐き出す。
「あれ?おかしいな~田辺さん、誤入場の時ってどうするんでしたっけ?」
よく見ると名札の上に研修中のバッジを付けた駅員はそんなことを言いながら奥へ引っ込んでしまう。
つくづく運が悪いよ、俺。
どうやら先輩らしい駅員と共に駅員がやっと顔を出す。
「君また入場する?」
「戻ってきます」
先輩であろう中年駅員が尋ねてくる。
会話すらもどかしい。
彼らには悪気はないのだろうが、とにかく遅い。
「じゃあさ、戻ってきた時にここで声かけてくれればいいから。」
「わかりました」
「はい、じゃあこれ」
半ばひったくるようにして差し出されたICカードを受け取り、改札口を出る。
左右を見回すと、繫華街へ向かう階段を葉月は下りていくところだった。
見失わなかったことはよかったが、だいぶ距離が離れてしまっている。
走って追いかける。
俺が階段を降り切った辺りで向こうも俺の存在に気づいたようだった。
―――そして、走り出した。
明らかに俺の存在に気づいてから走り出した。
つまり逃げたということだ。
(何故だッ何故なんだッ!?)
休みの日にたまたま出会ったときは両手を振ってこっちが恥ずかしくなるほど大声で俺の名前を呼んでいた葉月が俺から逃げ出した。
葉月らしからぬ行動だ。もしや人違いなのだろうか?見る限りは葉月にしか見えないが。
俺に会いたくないということか。
確かに、何も告げなかったのは後ろめたいだろう。でも逃げるだろうか?
こうなっては無理やりにでも捕まえていろいろと聞かなくてはいけない。
俺はさらに加速した。
* * *
葉月は思った以上に逃げ方が上手かった。
そもそも葉月は長身で足が長く、とても速い。
対する俺は、帰宅部で普段ろくに運動などしていない。
だが、何とか粘り強く距離を詰めていく。
駅から出てだいぶ時間がたっている。
ここは恐らく繫華街の奥の方だろう。あまりこの辺は治安が良くないので近づいたことがない。
もうだいぶ暗くなってきてもいる。
相手も疲れてきたのか、距離はあともう5mほどだ。
最後の抵抗か、葉月はさらに暗い細い裏道に続いているであろう角を曲がる。
(よしッもう追いつけるッ全部、聞かせてもらうぞ。それから心配させたこと詫びさせてやるッ)
俺も角を曲がった途端、
―――ザッドサッ
天地がひっくり返る、一瞬の浮遊感。
そして全身に伝わる痛み。
「グ八ッ」
俺はどうやら曲がり角の死角で待ち伏せていた葉月に組み伏せられたようだった。
口の中が砂と血の味がする。視界が滲む。
いつの間にか首筋には黒く塗られたSOGナイフが突きつけられている。
「は、葉月……?」
「受け身も取れないとはな。どこの間者だ?」
再会した親友の第一声はそれだった―――。
予想以上にさっさと書けてしまいました。
次話も数日のうちに投稿します。
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