選定の転生者
「おめでとうございます」
な、なんだ?
身体はピクリとも動かない。目の前は真っ暗。金縛りか?
「貴方は3つの転生の座を賭けたバトル・ロワイアル。運命の夢への挑戦権を得ました」
ドリームオブディスティニー、直訳で運命の夢か。でも由来は何だろう?
「これから我々が選んだ貴方を含め計81人で毎日夢の中で戦って貰います」
僕の疑問には答えることをせずに、ただただ説明を続けるその声はどこか無機質に感じられる。
だからバトル・ロワイアルってことか。でも夢の中って
「そして、貴方たちにはそれぞれ能力が与えられます。相手を倒せば相手が持っている能力の中でどれかひとつだけ奪えます。能力がひとつも無くなった時点でリタイア。デメリットは一切なしです」
めちゃくちゃ胡散臭い。
「時間は毎日23時~4時半の5時間半。但し休日の土曜日~日曜日にかけては休みで、貴方は普通に生活出来ます」
確かに、これは僕が何かしなくてもいいから特にデメリットはなさそう。夢だから寝不足とかなさそうだし。
「位置は常にランダムでスタートするので23時までに寝られなかった場合、その間動いていないので注意してください」
リアルの状況が左右されるのか。り、リアルアタックとか洒落にならないのですが。
「リアルアタックは余裕でありますが、一般人に危害を加えない限り能力は使えるので問題ありませんよね?一般人に危害を加えた場合は危害を加えた能力を怪我の程度に比例した時間使えなくしたり何らかのデメリットが存在します。詳しくは直接記憶させておくのでそれで確認してください」
段々意識が霞んでいく。次に目覚めたのはいつも通りの時間の朝だった。
「あれは……夢、だったのか?」
【運命の夢】の開催は……1週間後の夜からか。……!?いつの間にか記憶に刻まれていたのか!考えたらすぐに出てくるようになっているみたいだ。
「いや、どうやら夢じゃないみたいだな」
僕の目線の先には透き通るように白い肌、銀の髪を持つメイド服を着た美少女が白銀の椅子にもたれながら目を閉じて座っていた。彼女の中指には透明で綺麗な薔薇の形をした石が填まっている白銀の指輪を着けている。
「綺麗……って!朝食の準備しないと!」
ひとり暮しなので朝食の準備は僕がやるしかない。と言っても、食パン焼いて目玉焼きとベーコンをのせて醤油かけて食べる程度だけど。
慌てて1階へ降りるとさっさと朝食を済ませてから念のため簡単なものを作り、自室に置いてから鞄を持って学校へ向かった。
放課後になると速攻で帰宅するとシャワーを浴びてから自室へ向かった。決して美少女がいたからシャワーを浴びた訳では無い。これが帰ってきたらシャワーを浴びる癖があるだけだ。
「で、問題はこれだな」
高校生になってからひとり暮しを始めた。アルバイトも無しにそんな生活が出来るのは高校生になってから両親が海外へ転勤になったからだ。元々本部が海外にある会社に勤めていて、昇進した結果、両親共にそっちに行くことになった(両親は同じ会社に勤めている)。
あくまでも一時的な転勤らしいので予定通りに進めば後3年くらいで戻って来られるらしい。だから僕はこの3LDKという広い家でひとり暮しが出来るのだ。
それは置いといて、僕の部屋にいるこの美少女。作ったサンドイッチが手を付けられていないところを見ると学校から帰ってきても目が覚めていないのだろう(サンドイッチは後で美味しく頂きました)。そこから推察するに、まず間違いなく【運命の夢】に関わりがあるだろう。
「とりあえず触れてみるか?」
【運命の夢】にまつわる記憶に能力の系統というものがある(系統だけ知っているのでどんな能力があるかは分からない)。
基本的には実体を持たない能力なのだが、唯一の例外の系統として知能のある武器という系統がある。彼女はそれに該当するのではないか?と思ったのだ。
知能のある武器系統は装備する権限を持つ者以外には扱えず、触れることで魔力を送り込み知性を宿し使用することが出来るようになる。
因みに、魔力は能力を授かった時に使えるようになっている。
僕は彼女の手に触れると魔力を流し込む。すると、彼女は瞼を開きこちらへと視線を向け口を開いた。
「遅いです」
「え?」
「一体今までどこに行っていたのですか?もう16時半過ぎじゃないですか」
「ご、ごめんなさい」
彼女は時計を一瞥すらもせずに時間を把握しているようだ。
「よろしい。では自己紹介をします。私は機巧人形のノクティフィアと申します。ノクトとお呼びください」
「わかった。ノクトね。僕は「存じ上げております。玲様ですよね?」
「そ、そうだけど……」
既に情報が行き渡っている?魔力を流した時に基本的な情報も一緒に流れたのか?だとしたらさっき怒られたのは解せない。
「では、【思考接続】を行ってもよろしいですか?」
「【思考接続】?」
「私と玲様の考えてることがお互いに分かるようにするだけのことです」
「……それは簡単に切り替えが出来る?」
戦闘において、言葉を交わさなくても連携が出来るのは大きなメリットだ。しかし、日常生活においてはデメリットの方が上回るだろう。
まぁ、テストでのカンニングや先生に当てられたときにサポートしてもらえるというメリットはあるけど、常に思考を読み取られるのは結構キツいとおもう。
「私からは不可能ですが、玲様からは任意で出来ます」
つまり、僕の好きなタイミングで心を読めるってことか。ノクトには申し訳ないな。
「分かった。それで、どうすればいい?」
「額同士をくっつけてください。そして魔力を送れば完了です」
「こう?」
僕は言われた通りに額同士をくっつけて魔力を流した。
『はい。これで無事に出来ました』
脳内に直接ノクトの声が響いてくる。上手くいったことに安堵してとりあえず接続は切っておく。
「お疲れ様でした。それでは、夕食でも作りましょうか?」
「助かるよ。因みにノクトは食べるの?」
「いえ、私は食事を取らなくても問題ありません。ただ、その代わりに魔力を注いで欲しいのです」
「充電みたいな感じか。構わないよ」
「ありがとうございます」
僕も休日は料理したりするのである程度の調理器具は揃っているし、食材だってある。ノクトはキッチンへ行くと冷蔵庫と野菜室の中を見てから料理に取り掛かった。
「……ほぉ。流石メイドだ」
「私メイドと名乗りましたか?」
「いや、服がメイドっぽいから勝手にそうなのかと思っていただけ」
「そうでしたか」
目の前に広がる夕食は僕が作るより遥かに豪華な料理だ。もはや比較するもの烏滸がましいレベル。
「それでは、私はお風呂の準備や片付けがありますので」
「分かった。充電は?」
「寝る前でお願い致します」
「了解」
僕は夕食に舌鼓を打ちながら食べ終え自室に戻ると白銀の椅子に座っているノクトがいた。
「玲様。少しよろしいでしょうか?」
「勿論構わないよ」
「では、玲様はルールを確認したと思ってよろしいですか?」
「大まかなルールなら」
「そうでしたか。ではこれからの1週間をどうお過ごしになられますか?」
何故【運命の夢】の開催までに1週間の猶予があるのか。それは自身の能力に慣れる為だ。僕の場合は……ノクトに全て任せるしか無い、かな?
僕の戦闘能力は皆無だ。故に連携が出来る訳がない。囮くらいにはなるけど。
つまり何が言いたいかと言うとやることが無いのだ。
「コミュニケーションを取るとか……『これの練習をするくらいだと思うけど』
『その通りです。読まれたくない事を読まれないように頑張って下さい』
どうやらノクトは既にコントロール可能みたいだ。流石だな。
『どれだけ離れても使用可能ですし、慣れればなんとなくお互いのいる方向くらいは分かりますので、なるべくこれからは積極的に活用なさるのがよろしいかと』
『そうだね。そうする』
それから1週間。少しでも早く【思考接続】に慣れるようにする為に些細な会話でもそれを使うようになり、日常生活にまで支障をきたす事がたまにあった。
まぁ、元々ぼっちだからノクトとの会話に夢中になっていても問題無いケースがほとんどなので、日常生活に支障をきたすと言っても授業に集中出来ていないとかその程度だ。
そして、遂に今日が【運命の夢】の初日だ。
『覚悟は良いですか?』
『何の覚悟?』
『無論決まっております。誰かを殺す覚悟です』
『……それこそ無論だな。じゃなきゃこれはすぐに終了する』
『……』
「えっ?何で黙るの?」
『何でもありません。そろそろ寝る時間ですよ?』
思わず声に出して理由を聞いたのに答えてくれない。え?僕弄られたの?豆腐メンタルなので至急止めてもろて良いですか?
ノクトの充電を済ませるとベッドに入り目を閉じる。ノクトも白銀の椅子に座って瞼を閉じた。
23時
気が付けば自室ではないどころか地球上だと思えない別の場所にいた。何の恒星か知らないがそれから照りつける熱や光はまるで本物の太陽のようだ。感覚も元の身体と何一つ変わらない。ここは本当にリアルに近い。しかし、暑すぎる。
『日が出てる砂漠はこんなに暑いのか』
『隠れておいて下さい。万が一玲様が死んでしまったら終わりなのですから』
『分かってるよ』
辺りを見回すと至る所で頻繁に砂嵐が起こっているので滅多に見つかることは無いとは思う。探知が出来る能力だってあるだろうが、その場合は戦闘能力は僕と等しい可能性が高い。最初は1つしかないから居場所が分かるというアドバンテージがあるだけでも、こちらが気が付いていなければ十分脅威だ。
何にせよ今の僕に出来ることは息を殺しながら身を潜めることだけだ。
【運命の夢】が開始してから4時間半。残念なことに能力者に出会ってしまった。
『ノクト、相手がこっちに近づいて来てる』
『……申し訳ありません。私も戦闘中ですので今しばらくかかります。玲様がしっかり隠れているならば相手は探知の能力者だと思われますので玲様でも問題無いかと思われます』
『了解。まぁ、本当に探知の能力者なら僕1人で何とかするよ』
素手でどうやって倒すのか。実は【運命の夢】限定の仮想通貨、Pが存在し、これは能力の星の数によって貰える数が変化する。
星というのは能力の強さの基準のようなもので一ツ星から九ツ星まであり異なる星の能力しか一度に持ち込めない。これは事前に設定しておく必要があり空きがある状態で能力を取得すると自動でセットされる。
九ツ星が1Pで一ツ星が9P、魔法と知性のある武器は3Pとなっている。そして、能力が多ければ多いほど多くのPが貰える。
つまり僕は開始時点で3Pあることになる。それを1P使って護身用ナイフくらいはそれを使って購入してある。多分相手も何かしら購入しているはずだ。
【運命の夢】ではメニューを開きアイテムの購入や時間確認などが出来るのだ。前者は星が低い能力者への救済処置だろう。
しかし、相手が六ツ星以下なら4P以上持っている為、多少不利だが……何とかするしかない。
今は砂嵐は鳴りを潜めており、僕と相手の2人しか周りにいない。
相手は中年男性でコートを着ておりとても暑そうだ。しかし、武器が見えないというメリットの方が勝っているからこそ脱いでいないのだろう。
僕はナイフを抜いて警戒している。見渡す限り砂漠が広がりオアシスなんてあるのかと疑ってしまう程だ。しかし、サボテンや大きな岩は至る所にあるので隠れることは十分可能だ。にも拘らずお相手さんはこっちに向かって来ている。
本当に奴は探知の能力者なのか?
相手の場所が分かるというアドバンテージを活かして砂嵐のときに仕掛ければ良いのに何故今姿を現しているのか。ただのバカならそれで構わないが、何かしら理由があった場合は少々不味い。
距離は約50メートル弱だろう。その距離になって中年男性はコートで隠していた拳銃を取り出した。
はっ!素人が簡単に扱える代物じゃあ無いだろうに。
当たる訳がないと高を括っていた僕は次の瞬間、頬を引き攣らせることになる。何かが岩に当たったと思ったら一発の発砲音が鳴り響いたのだ。
コイツ訓練でも受けてるのか?そもそも拳銃の命中率なんてかなり低いと思ってたんだけど。
だが、止まってる的に当てることと動いている生き物に当てるのは難易度が全く違うはずだ。気持ちの問題もあるし、それにこれはただの威嚇だ。当てる自信があるならそんなこと言わなくても構わないだろう。
「そこの坊主。さっさと降参しな。そうすれば苦しまずに殺してやる」
ビンゴだな。弾が勿体無いと思っている可能性もあるけど、恐らく予想通り。だけど、全く当たらないということを前提とするのは危険か。自分に都合が良い情報しか入ってこない、なんてことはざらにある。それに、当てる自信はあるけど、良心から警告している可能性だって存在するし、用心するに越したことはない。
暫く無言でいると痺れを切らしたのかもう一度発泡して警告してくる。が、僕はそれに応じない。
「そんなに殺されたいようだな。なら望み通り殺してやるよ!」
走って僕の隠れている岩へ真っ直ぐ向かって来る。が、砂漠地帯なのでそこまで速くない。
おっさんは20メートルくらいのところで立ち止まるとコートの中から何か取り出した。
もしかしなくても手榴弾か!
一個1Pと中々の値段だが、それ故に十二分に脅威だ。
急いで岩影から移動すると背後で爆発音がした。振り向くと岩が砕け散った跡が見える。
こりゃ大変なことになった。
拳銃と18の弾丸に2Pを使っているだろうから既に合計3P消費しているが、一ツ星の場合ならば、まだあと6P分残っている。購入出来るアイテムなら閲覧可能なので3P以下のアイテムしか見ていないから4P以上のアイテムにどんなものがあるのか知らないが、脅威なのは変わらない。
別の岩に隠れるが、またもや手榴弾が投擲される。
周りにある隠れられそうな岩は残り一個。他はどれも小さすぎる。
最後の岩も手榴弾で砕かれてしまった。
追い討ちをかけるように砂嵐が襲ってきて視界はもう最悪な状況だ。
これ詰んだか?
相手の位置は見えないし、あのおっさんは恐らく探知の能力者だろうからこっちの位置は把握出来る。とりあえず立ち止まれば拳銃で殺られると思ったので走る。すると背後から手榴弾のものであろう爆発音が響いた。
少し経過したが、動くことによって狙いが定まらないのか知らないけれど、あの爆発音から何一つ攻撃をしてくる気配がない。
こっちの体力が尽きるのを待っているのか?砂嵐直後の手榴弾は砂嵐に襲われ動揺していると思ったから?
暫くして、砂嵐が過ぎ去り辺りを見回すとコートの男が目薬らしき物を注してした。
あれは視力回復のやつか。探知は視界がクリアじゃ無ければ使えないのか?
視界によって能力が大きく左右される能力系統は魔眼しかないはず。探知は時間・空間系統だと思っていたのだが、もしかしなくても奴の能力は……。
僕は残っている2Pの内1Pを消費してとあるアイテムを購入する。
僕はコートの男が目薬を注し終わったのを確認してからナイフを持って接近する。そして相手が僕に気が付いた瞬間にいつさっき購入した閃光弾を投げた。
おっさんは見事に光を直視してしまったので何も見えないはずだ。
そして、僕はナイフで心臓を貫いた。
『こっちは片付いたけど、ノクトは大丈夫?』
『問題ありません。こちらもそろそろ終わります』
後10分弱で初日がようやく終わる。けど、どこに隠れようかな。
見るからに戦った痕跡のあるここは隠れるところなんて無い。あるのは隠れるには心もとない岩とサボテンくらいだ。
まぁ、後10分ならなんとかなるか。念のため終了時間まではサボテンと同じ形で身を隠すことにした。そして、無事に【運命の夢】の初日を乗り切ったのだった。
目が覚めて1階に降りるととノクトが既に朝食の準備をしていた。
『おはよう』
『おはようございます』
『戦果はどう?』
『メニューを御覧になれば分かると思いますが1キルです』
『流石ノクト』
メニューを開いて能力一覧を見れば防御・攻撃系統、六ツ星のダメージ軽減と魔眼系統、二ツ星の千里眼が追加されていた。
ダメージ軽減があったからノクトが手間取ったのかな?それと、やはりあのおっさんの能力は千里眼だったか。
千里眼は視力が良くなる能力なので閃光弾の影響がより働いたのだ。
それと所持している仮想通貨が5Pになっていた。これは最後の能力を奪った者は全額貰えるシステムによるものだ。本来なら半額で端数は切り捨てなので相手が2P以上持っていなければ貰えない。
更にメニューのアイテムボックスを見れば拳銃と16発の弾丸とナイフが入っている。
『それよりも、玲様がキルをなされていたことに驚きました』
『たまたま上手くいったんだ』
「おめでとうございます」
『ありがと』
わざわざ声に出してまで祝ってくれたことに少し照れてしまう。
朝食を済ませるといつも通り学校へ向かった。
これから時が経つに連れて【運命の夢】での戦いは激しくなっていくだろう。報酬だって転生して能力を引き継ぐものという非常に魅力的な報酬だ。ただの一般人の僕に与えられたチャンス。これをなんとか掴み取るんだ。
残りの能力者数45人
異能力バトルと言いつつやったのは千里眼を利用した目潰しとダメージ軽減を使ったノクトが参戦してこなかった理由作りだけでしたが、一応ある程度の能力は出しているのですが、そういうのは能力を複数持っている相手の方が面白そうだとか、初手からそれはどうなの?という能力だったりするので、それはいつかするだろう連載のときのお楽しみということで。