96話 内通者
唯火と朱音がいるであろう席に向かうと、もう一人先客がいた。
「やぁ、ナナシ」
「聖也。悪いな、俺のせいでダンジョン攻略が遅れてるみたいで・・・」
「何を言っているんだい、そもそも君たちがいなければ実現すらままならないこの状況・・・・むしろ、ギルド同士の対立に巻き込んでしまって申し訳ないのはこちらの方さ」
そう言う彼の隣の席に腰を下ろす。
「ま。それは言えてるかも・・・・アタシらが舐められてなければ、あんなマネさせなかったのに」
「そうなんだが・・・どうしたんだい朱音?やけに殊勝、ナナシに優しいね?」
「は?べ、べつに普通でしょ。ていうかこいつがあんなので死ぬタマじゃないわよ」
「ナナシさん。本当になんともないです、か?」
「ああ。本当に大丈夫だから」
トントン、と軽く患部を叩いて見せると三人とも安心したような表情を見せてくれる。
「まぁ、病み上がりには違いないんだ。ナナシの分の食事を持ってくるよ」
「あ、それなら私が」
唯火の甲斐甲斐しい申し出をやんわりと聖也が収め、席を離れる。
それを見届けると朱音は切り出した。
「さっきあんたが入ってきた時、皆が言ってたから予想はついてると思うけど、あの狙撃はワイバーンがドロップした魔石を狙った。ユニオンとは別のギルドの仕業に違いないわ」
「・・・そうみたいだな」
「魔石は、やっぱり稀少なものですからね」
「あたしとしても油断してたし動揺したわ。可能性はゼロじゃないと思ってはいたけど、まさか竜種なんて強種族の魔石が白昼堂々ドロップするなんて。しかも名持でもないのに、その大きさはユニオンが討伐してきて保管してあるダンジョンの鍵になる魔石よりも大きかった・・・・」
「・・・・」
朱音は、俺が【解体師】のジョブ持ちで、『ドロップ率上昇』のスキルを所持していることを知らない。
それを知るのは、俺のステータス画面を見せ、『小鬼迷宮』でも説明した唯火だけだ。
(あまり目立たないスキルかと思っていたが、こんな災いの種になるとはな)
いっそ明かした方が良いのかと考えていると。
朱音が声を潜め。
「『遮音』」
「! どうしたんだ?」
「この席の周りの空間に音を遮断する効果を付与したの。内緒話よ」
(ホテルでのやつか・・・・)
唯火は事前に知らされていたのだろう。
特に動揺した様子も見られない。
「でね、ワルイガ。あのワイバーンの魔石はメンバーにもごく一部を除いて秘密裏に保管することにしたわ」
「理由は?」
「身に染みてる通り、価値があり過ぎるから。余計な虫を引き寄せかねない。それと・・・・」
言いにくそうに言葉に詰まる朱音。
それを代弁するように唯火が引き継ぐ。
「内通者が、いるかもしれないそうなんです」
「根拠は?」
「・・・・あんたを撃ったあの狙撃。射角から、弾道を追って行き着いた狙撃ポイントが、ユニオンがよく使う見張り台にもなってるのよ」
「ユニオンの誰かが、魔石を奪おうとしたってことか?」
「あくまでその可能性もあるってこと。基本、その場所を使う見張りは小規模なチームで行われるの。その日、都合よくそのビルは使われてなかったわ。たまたまなのかどうかは知らないけど」
「・・・・なるほど、な」
結論として、彼女の言いたいことはなんとなくわかった。
「チームの編成、指示を担っている聖也が黒に近いってことか」
「・・・・」
悲痛な表情で俯く朱音の後方に見える、人当たりの良さそうな青年。
彼女が『遮音』を解き、辺りの喧騒が戻る。
「お待たせ、ナナシ。食欲はあるって聞いてるからね。大盛にしてもらってたら時間かかっちゃったよ」
「ああ、悪いな」
整った顔立ちに、爽やかな笑みを浮かべ。
「どうしたんだい?顔色が優れないようだが」
「――――いや、少し食えないかもなって、思ってな」
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名:ワルイガ=ナナシ
レベル:75
種族:人間
性別:男
職業:
【逃亡者】
【鑑定士】
【解体師】
【斥侯】
上級
【剣闘士】
【精神観測者】
武器:なし
防具:なし
防具(飾):伝心の指輪
攻撃力:1353
防御力:1259
素早さ:1127
知力:993
精神力:1181
器用:1982
運:159
状態:
称号:【小鬼殺し】
所有スキル:
《平面走行LV.10(MAX)》
《立体走行LV.10(MAX)》
《走破製図LV.10》
《聴心LV.2》
《洞観視LV.4》
《精神耐性・大LV.4》
《心慮演算LV.3》
《目利きLV.9》
《弱点直勘LV.10(MAX)》
《弱点特攻LV.10(MAX)》
《ドロップ率上昇LV.6》
《近距離剣術LV.10(MAX)》
《体術LV.10(MAX)》
《直感反応LV.10(MAX)》
《武具投擲LV.9》
《索敵LV.10(MAX)》
《隠密LV.6》
《五感強化LV.10(MAX)》
ユニークスキル:《 能 現》
食事を終えると当てられた部屋に戻り、俺はステータス画面とにらめっこをしていた。
その理由は。
「現状、竜種と戦う力としては特段大きな対策はいらないし出来ない・・・問題は索敵系だよな」
今まで【斥侯】の職業を取得して以来、その索敵の面で不便を感じた事は無かった。
閉塞的なダンジョン内や、多人数を相手取る時や市街でもその効果を充分に発揮してきた。
「でも、あの時の狙撃はレベルを最大に上げた『索敵』でも範囲外の位置からのものだった・・・・」
たまたまレンズか何かの反射を視認してから反応したに過ぎない。
まぁあんな絶好のポイントを陣取ること自体稀だろうから、またすぐ同じ方法で襲撃を食らう可能性は低いと思いたい。
撃ったやつらも目立ちすぎて存在を気取られることは当然避けるだろう。
(ワイバーン戦で、三人の連携なら竜種相手でも後れを取ることはまずないと確信を持てた)
それほどまでに、唯火の火力、朱音の応用力の高さ、池さんの剣は優秀だ。
であればやはり当面の課題は・・・・
「どうやって二人を急襲から守るか、だな」
合わせ技で索敵系の上位スキルを練り合わせれば広範囲をカバーできるかもしれないが、外にいる間、もしくは戦闘中ずっと発動していられるかというと到底現実的ではない。
一番楽なのは事前に動きを知ることが出来ればいいんだが・・・・
「・・・・そうか。『聴心』」
正直、まだ黒とはっきりしていない彼相手にアクションを起こすのは憚れるが、手段を選んでも居られない。
久我の時のようにその心、意思を読み取る事が出来れば――――
「試してみる、か」
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「やっぱりここにいたか。聖也」
「・・・ナナシ?」
以前、歓迎会を抜け出した時に話した屋上に顔を出すとやはりそこに目当ての人物がいた。
「ダンジョン攻略班の準備の方は大丈夫なのか?」
俺が完全に復帰したと、響さん達には理解してもらい、一日ずれ込んだダンジョン攻略は準備が出来次第開始されることになっている。
「ああ、ほかの者に任せているよ。今は僕がダンジョンに入っている間代理の人間にこの見張り役をやってもらわないといけないからね」
その引継ぎをね、と言う。
確かに二名のメンバーが聖也の近くで何やらやっているようだった。
「・・・・そう言うナナシは、どうしたんだい?」
「ちょっと、ダンジョン攻略に行く前に激励でも、と思ってね」
「ふふっ。それは心強い、是非とも攻略者のそれにあやかりたいね」
(・・・・悪いな)
にこやかに笑う目の前の青年に内心謝りつつ。
(『聴心』)
対象の心の声を暴くスキルを発動した。
《――――――。―――――。――――》
「な・・・?」
俺の耳に届いたのは、
驚きの内容だった。




