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94話 凶弾

「しかし、結構派手にやったな・・・・ビルの外壁も壊したし、俺が突っ込んだテナントも滅茶苦茶だったし」


「いいじゃない。『回帰勢(オリジン)』の一般人にはけが人が出なかったんだから。あたしたちが来るまでワイバーンも空を飛んでただけみたいだったし。脅威に足る者にしか関心が無いのかしらね?」


「明らかに強種族だし、そう言うクセもあるかもな」




そう返しつつ、思考の半分以上は街の損壊に向いていた。


俺が踏み台代わりに使った街灯も壊したし、ワイバーンを落とした屋上も無傷ではないだろう。

・・・・俺原因の割合が多いな。




「弁償とか、させられるのかなぁ」




本音を言ってしまえば、人に害成すモンスターを倒したんだから大目に見ろ、と言いたいところだが。

そのモンスターの発生すら自分が原因なので、もし請求されたら逃げるのも心苦しい。




「んん?ああ、言ってなかったっけ?モンスター討伐時の街への損害は全部国側、『探求勢(シーカー)』持ちよ」


「あ、そうなのか?」


「そ。三つの勢力が絶妙なバランスで均衡を保っているのは言ったでしょ?『探求勢(シーカー)』は私たちギルドの反発を恐れている、一般人の労働も守らなくちゃライフラインが途切れる。それはギルドも同じ。一般人・・・『回帰勢(オリジン)』の人たちを失えば生活が成り立たない、だから敵視してる国からの討伐要請も表上受ける。その結果、ダンジョンやそこから発生する資源を巡って敵対勢力との抗争が起きないように、私たちはある程度国側にそれらを流す。モンスターの牙とか鱗とかも価値があるらしいわよ?」


「ああ。それは確かに前に聞いたな」


「その資源の受け流しは私たちが思うより、国側にとって実入りがいいらしくてね。だから、あまり余って損壊した街の修繕はあちらさんがやってるってわけ。ま、あたしらにやれって言われても出来ないし、それこそ反発されかねないからね」


「なるほど。街の修復を保証しろとか言われたらどうしようかと思った・・・・」




ま。人死にが出ていないなら、知らんぷりして遠くに逃げるつもりだったが。




「けどまぁ。今回の損壊は結構な物よね。相手が竜種なら仕方がないけど、あんたがさっき言ったように派手にやったと思うわ」


「・・・・俺のせいで街の人たちからの『ユニオン』への風当たりが強くなったりするのか?」




流石にそれは俺としても知らんぷりはできない。

酒を飲み交わしたもんだから、もう情は移っている。




「んー、どうでしょうね?聖也はああいってたけど、あたし的には『回帰勢(オリジン)』の人たちのことそこまで警戒してないし。むしろナワバリ内の人たちは気さくに声をかけてくれる人たちも結構いるのよ。『廃棄区画』の人たちは話が別だけど」


「そうなのか?」


「ええ。だからまぁ、彼らから敵愾心を買うようなことはないと思う」




そんなやりとりをしながら、俺たちは非常階段で降りていく。

ビル内に人が残っている場合、武装した俺たちを見て怯えさせない為らしい。


さっきは一瞬で頂上まで飛んだが、エレベーターも使わず地道に降りていくとかなり時間がかかった。


箇所箇所で飛び降りてショートカットする提案をしたら、


『いやよ!今日はもう絶叫はたくさん!』


と却下された。






::::::::






「ナナシさん!朱音ちゃん!やりましたね!」


「ん。最後は唯火がおいしいとこ持ってったけどね」




長い階段を降り切り地上へと着くと、唯火が出迎えてくれた。


互いの両の掌を合わせ相手の健闘を称えるように控えめなハイタッチ。

内容は血なまぐさいものだけど見ていてなかなか微笑ましい。

微妙な疎外感は感じるが。




「あ、ナナシさん。剣、こっちの屋上に落ちてきましたよ」


「ほんとか!?」




俺たちが下りてくる間待っていたのだろう。

建物の壁に立てかけた抜身の剣を取り渡してくる。




「・・・・よかった。なんともないな。ありがとう、唯火」




それを受け取り検めると、特に刃こぼれもした様子も無く相変わらず美しい刀身がさらされていた。

気持ち丁寧に鞘へと納めながら、唯火に感謝を伝える。




(唯香がワイバーンを倒した時、また『武器熟練度』ってやつの上昇を告げてた・・・・やっぱりこの剣は、竜種を斬るごとに武器熟練度ってのが上がるようだな)




厳密には斬った対象の討伐後に熟練度が蓄積される、か。




(スキルにも同様に熟練度がある、武器も成長するってのか?)




『目利き』をかけても、その旨を記す文言も、現状の熟練度も可視化されないからそこまで気にしても仕方がないかもしれないが。




「いえ、そんな・・・・それよりも、これも落ちてたんです」


「え!?ちょっ・・・・これって!?」




唯火が差し出してきた手のひらには、拳大の煌びやかな石。




「魔石か。もしかしてワイバーンのか?」




大きいな。

ゴレイドの魔石並みに大きいんじゃないか?




「はい、多分。亡骸の近くに落ちていたので・・・・」




三人で魔石が放つ不思議な輝きをのぞき込んでいると。




「ちょ!唯火!!隠して!!それ隠して!!」


「え?あ、ど、どうしたの?ひゃっ!?裾まくらないでぇ!?」


「お、おいどうした?」




朱音が大声を上げたと思ったら手に持った魔石をぶんどり唯香の服の下に隠そうとする。




「あたしじゃバレるけど唯香ならおっきいから大丈夫!」


「わかんない!何言ってるかわかんないってば!」


「・・・・なにをしてるんだ」




何やら姦しい光景が広がっているので大人のマナーとして明後日の方角へと顔をそむける。

背後の黄色い声を聴きながら遠くに見えるビル群を眺めていると。




「――――――ん?」




チカチカと、視界の端で網膜を刺激する光源が眼球を刺激する。






《熟練度が規定値を超えました。》

《五感強化LV.10⇒LV.10(MAX)》






きっかけは、サラマンダーを倒した後の何者かの視線。




油断していたわけではないと思いたいが、あの時俺は今自分がしていること。

一つの組織に肩入れすることで、そこから繋がる悪意ある存在を敵に回すことになるだろうことをはっきりと予感、自覚した。


そして、それからその類の気配には特段の注意を払っていた。






「―――伏せろ!!」






だからこそ。

その、心の備えがあったからこそ、俺の体は瞬時に。

的確に、動いた。






「「きゃっ!?」」






研ぎ澄まされた視覚に映ったこちらを監視する人影と。






「ナ、ナシ・・・・さん?」






遅れて耳に届いた乾いた発砲音、そして――――――






「え・・・・?ちょっと、ワルイガ!?」






背中から左胸まで貫く強烈な痛みが、俺の判断は間違っていなかったと。






「ナナシさん?ナナシさん!!?」






急激に重たくなる瞼と、薄れる意識の中そんなことを思っていた。


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