93.5話 付与魔術師の苦難
「――――っと」
『放魔』を放った反動が運良く俺をビルの屋上へと運び、無事着地する。
それとほぼ同時に竜がビルの屋上へと叩き落とされる轟音が響き渡る。
「頼んだぞ・・・・」
当たりを見渡すと、四つん這いで尻をさする先客の姿が。
「いったた・・・お尻打ったぁ~・・・・」
「大丈夫か?」
俺が屋上に放り投げた後着地に失敗したのだろう。
あの超スピードの中の事だったから、かなり無理な体勢で『盲目』を放ったはず。
尻を打つのも仕方がなかった。
「大丈夫じゃないわよ!あんたもうちょっと女の子をソフトに扱えないわけ!?」
「わ、悪い。あんな速度で飛んだことないからタイミング見誤った」
そう言われると、年頃の女子を扱うのが苦手な俺としては弱い。
素直に謝罪しつつ手を取り立ち上がらせる。
「ま、まぁ。付与するのがあんたじゃなかったら?この作戦も取れなかったわけだし、チャラにしてあげる・・・・」
「どうも」
遠回しによくやったと労っているのか?
照れることでもないだろうに顔を赤くしている。
「そ、それより。唯火は?ワイバーンはどうなったのよ?」
「うまく所定のポイントに墜とした。あの子ならきっと――――」
俺が言い切る前に、飛竜の叫び声が街中に轟く。
朱音と共に発せられた方角へ駆け寄り、やつを叩き落としたビルの屋上を覗き込むように確認すると。
「――――やったみたいだな」
《経験値を取得。ワルイガ=ナナシのレベルが73⇒75に上昇しました》
《該当モンスターの討伐を確認。『ショートソードC+(無名)』の武器熟練度が上昇しました》
ビル風に砂塵が晴れていき、そこには事切れたワイバーンの姿とそれを見ている唯火の姿があった。
「みたいね。一気に5レベルも・・・・随分信用しているのね。唯火の事」
「ん?まぁ、相棒みたいなもんだからな」
「ふーん・・・・唯火ーーーーー!大丈夫ーーーー!?」
大声を張り上げ、朱音が唯火にコンタクトをとると、こちらを見上げ手を振り応える。
どこもケガなどはしていなさそうだ。
「すごいわね、あんたたち。ほんとにドラゴンを倒しちゃった」
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『『竜殺し』の投擲と朱音の『盲目』。その隙に俺がとっておきを叩きこんで、低めのビルにワイバーンを墜とす』
『――――そこで私は迎え撃てばいいんですね?』
『ああ。どでかい隙が出来てるはずだ、一気に間合いに引きずり込んで決めてくれ。それと、唯火だけが移動してると警戒される恐れがあるから、俺たちと同時にスタートだ。ポイントまで全速で向かってくれ』
『わかりました』
『え?ちょ、即答!?さっきはああ言ったけど、あんな巨体どうやって狙った位置に墜とすのよ?それに作戦開始から、あんたがワイバーンの隙を突く場面まで10数秒あるかのレベルでしょ?それまでにポイントに着けるかも・・・・』
『大丈夫です。信じてください』
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「あたしは、ほんの少し目くらまししただけ。いいパーティーね、あんたたち」
「ああ。でも二人の力じゃない。唯火も俺もそう思ってる」
朱音が俺なら『超加速』を制動できると信じたように。
唯火がワイバーンを俺が墜とすと信じたように。
俺たちも朱音の分析と作戦、その力を信じた。
「・・・・あんた、そうゆうとこは気が効くんだ」
手すりに頬杖をつき、からかうような表情でこちらに視線をくれる。
「そもそも朱音の付与が無ければ戦いにもならなかったかもしれないしな。もっと言うと、俺たち三人のチームの勝利だ」
「・・・・クっサ」
またも照れ隠しだろうか。
そう言いながら頬を染めて、いつものトゲが抜けきったように、無邪気にはにかむ彼女の顔を見て。
「普段からそうやって可愛らしく笑ってれば、もっととっつきやすいんだけどな」
「は!?ばっかじゃないの!よ、余計なお世話なんですけど!」
と。
思わずつい余計なことを口走ってしまうのだった。
「さて。下に戻って唯火と合流するか!弾き飛ばされた剣も回収したいしな」
「・・・・受け身取るので精いっぱいで、見えなかったけど。剣はどこに飛んでったの?」
「・・・・俺もワイバーンの隙を突くのに集中してたからわからない」
「「・・・・」」
「結構、大事な物なんだけど・・・・」
「さ、探しましょう。皆で。今日はもうモンスター出ないだろうし、ダンジョン攻略班もまだいるだろうから」
見つからなかったらどうしよう。




