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92話 VS飛竜 風の障壁

既に一般市民は逃げ去り、閑散とした街中で、俺たちとワイバーンのみが視線を交差させていた。




「朱音!まず、『風編み』ってのがどんなもんか見てみたい、牽制頼む!」




開戦早々、朱音に指示を飛ばすと。




「あたしを嚙ませに使うなんて、あとで覚えときなさいよ!」




口の減らない物言いで答えつつ引き金を引くと、乾いた発砲音が三発響いた。




「・・・当たってないぞ?」


「失礼ね!こんだけ的がでかければ外さないわよ!」




当たったところで竜の鱗に阻まれていただろうが。

ワイバーンの体にかすりもしなかった。




「『風編み』の効果と考えるべきだな。飛び道具は風圧かなんかで軌道が大きく曲げられる、か」


「なら、私が。『操ぎょ―――きゃ!?」




唯火が魔石を取り出し魔力を通わせた瞬間、ワイバーンは翼を振り上げて羽ばたきだす。




「今の豆鉄砲で怒らせたか」


「あんた本当に覚えてなさいよ?」


「空に!?させない!『操玉』!」




飛び上がったのとほぼ同時に、魔石は放たれる。

多方向にうねるような暴風の中ワイバン―ンへと向かっていき。




「っ!掠めた、だけ!?」




すんでのところで軌道が逸れ、首元の鱗を削ぎ取り掠りキズを付けるまでに終わった。

が。

それでも奴にとっては予想外だったのだろう。




「ギャァアアァッ!」


「えっ?わっ・・・わわっ!?」




鱗を削り取られたことに激高したかのような咆哮を上げると、風の流れが唯火に纏わりつくように集束し。




「―――っくぁ!」


「「唯火!」」




風を纏ったまま重力を無視したかのように水平へ吹っ飛ぶばされ、ビルの壁面へと叩きつけられた。




「大丈夫!?」


「けほっ!っ、大丈夫、です。ダメージは全然」




背後から聞こえる唯火の声色にホッと一息つく。

叩きつけられた壁面を見ると大きく崩れ、内装が露わになっている有様だった。

これだけの勢いで叩きつけられて無事だったのは、捕まっていた風が逆にクッションになったのか。




「こんなピンポイントに風を操ってくるのかよ・・・!」




背後が心配だが、俺まで敵に背を向けるわけにもいかないのでいち早く駆け付けた朱音に任せ、俺は走り出す。




(この高度なら、まだ届く!)




羽ばたきながらこちらの脅威度を計っているのだろうか。

宙をホバリングするワイバーンの近くに立っている街灯の柱を、『立体走行』で垂直に走り頂上へ着くと。



『立体走行』

『体術』

『洞観視』

『弱点直感』

『近距離剣術』



跳躍を支えた街灯はひしゃげ、弾丸の如く速力で宙を斬りながらワイバーンの元へと急接近する。




「ナナシさん!」

「あの技は!」


(くらえ!)




《『瞬動必斬(オキザリノタチ)・空――――》






「―――っく、そっ!」




高さを稼いだ必殺の一撃は奴に叩きこまれることはなく、その手前の空中で俺の体は止まっていた。

さっきの唯火と同じ、『風編み』につかまってしまったのだろう。


対象の表面積が大きければ風の影響も大きく受ける。

銃弾の軌道が逸らされた時点で、俺自身の接近を許してもらえないだろうことは予感していたが・・・・




「何してんのよ!」




ほんの数秒の拘束の間に、朱音が発砲し自身へと注意を逸らそうとする。




「――――え?」




だが。

カンカン、と。銃弾は強固な鱗に弾かれるだけでやはり全く意に介しておらず。

身体を翻し振り下ろされる、尾の一撃。




「っ野、郎!」




叩きつけられる寸前、なんとか間に剣を一文字にかざし受ける。

タダではやられまいと、衝突の瞬間、『竜殺し』の加護が鱗に刃を立てる手応えを感じると同時に。




「ふっ!」


「ギャァアアア!?」




薙ぎ払うように剣を振り、尾の先を両断。

だが、返すように振り回された本体の尾が再び襲いかかり。




「ぐっ・・・!」




咄嗟に左腕を上げ防御。

直撃は免れるも、そのまま勢いよくビル一階のテナントへと突っ込んだ。




「肩抜けるかと思った・・・」




コンビニ、だろう。

店舗内の崩れた商品棚に背を預けながら、手のひらを開閉し魔鉄のガントレットの具合を確かめる。

相変わらず頑丈だ、こいつに何度助けられたことか。




「『風編み』。思った以上に厄介なスキルだ、なっ!」




足に刺さったガラス片を引き抜きながら、


(ここのテナント主に悪いことしたな)


などと呑気なことを考えつつ一人ぼやく。




「ワルイガ!生きてんの!?生きてるならさっさと出てきてほしいんだけど!」




防御力が上がろうとこういうケガは防げないもんなんだな、と。

またもそのようなことを考えていると、外から焦燥を孕んだ朱音の声が聞こえてくる。


体勢を立て直しきれていない唯火を、後衛の朱音が守る形になっていればそれも当然だった。




「悪い!無事だ!唯火!体勢を立て直したら『操玉』で援護を頼む!当たれば効くのは今ので分かった!空を飛ぶあいつにはやっぱり飛ぶ道具が必要だ!」




すぐさま崩れた店舗から飛び出し、ワイバーンの視界に入るように剣を構える。




「―――いえ!今のままじゃ、決定打にはなりません。『操玉』は術者から離れれば離れる程、威力が減少していくんです!」




そう言うデメリットもあったのか。


さっきの俺の接近と尻尾を斬られたことでワイバーンはさらに高度を上げ上空へと舞っている。

さっきの間合いでもギリギリ逸らされた、この距離で威力の落ちた魔石の弾丸ではあの防御力を打ち抜けない、か。

ゴブリン相手と同じようにはいかないな。




「くっ!接近できれば剣撃を当てられるんだが・・・・」




頭上を旋回する竜の影を見上げる。

流石に空を飛んでるあの高度じゃジャンプしたって届きっこない。




(『立体走行』でビルの壁伝いに上ったとしても、あそこまでの高さ、垂直に一直線で走り続けるのはムリだ。ちんたら上ってたら空を自在に飛び回るヤツに狙い撃ちにされる)




それに例え接近できたとしてもまた『風編み』の対応力で弾き飛ばされるのが関の山。

すると、俺の逡巡をあざ笑うように、朱音が何でもないように言い放つ。




「あっちが飛ぶなら。こっちも飛べばいいのよ、ワルイガ」


「・・・なに?」




なにを言ってるんだ。

それが出来ないから攻めあぐねているんじゃないか。




「あたしがあんたを、空に送ってあげる」


「そ、そんなことできるの?」


「どういうことだ?朱音のスキルにそんなもの・・・・」

「忘れた?あの時の大ジャンプ。ステータス見たんでしょ?あたしは自身と他者に、特殊状態を付与する【付与魔術師(エンチャンター)】」




・・・・『素早さ上昇(バーニア)』か。




「いや確かに、あの時のパラメーターの上昇率は異常なものだったが・・・・」


「さっきのあたし自身に掛けた付与はそこまでのモノじゃなかった、って言いたいんでしょ?」




そう。

確かにすごいスキルだと思うが、あのくらいのバフでは上空を飛ぶワイバーンまでは恐らく届かない。




「問題ないわ。あんたに付与(エンチャント)するバーニアは・・・・その3倍」


「どういうことだ?」


「今はそこまで説明してる時間はないわ。けど、これにはリスクがある。ステータスの異常な上昇は肉体の破滅を招く。要するに急激な身体能力の向上に肉体が耐え切れず壊れてしまうの」


「そんな。危険すぎます!」


「普通なら、ね。けど、あんたは既に一度体感してる。そして、なぜだか動いて見せた。そして肉体が壊れた様子もない・・・・どうする?やるの?」




どうするも何も、やるしかないに決まってる。

一度の体感で、あの肉体が意識を置いて行く感覚は掴んでいるしな。




「けど、あの高さまで飛べたとしても『風編み』に捕まるかもしれないぞ?」


「やるってことでいいのね?それも策があるわ。さっきあんたがそのスキルに捕まった時、弱点に気付いた」


「ほんと!?朱音ちゃんすごい!」




ふふん。と朱音は得意げに胸を張りその作戦を俺たちに伝えた。



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