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90話 秘めた力

前話の。


『翌日、意外な人物から驚きの案が飛び出した。』


は変更いたしました。

「うぅ、頭がぼーっとします・・・・」


「大丈夫か?」




歓迎会から一夜明けて。

俺たちは響さんの応接室へと集まっていた。




「ま、枕が合わなかったのかしらね」


「うぅー、そんなこと今まで一度もなかったんですけど・・・・」




ちなみに、ギルドのメンバー達はビルのそれぞれの空き部屋に寝床をあてられており、俺たちも一晩それぞれ空き部屋を間借りすることになった。

何百人もいるわけではないので、数人ずつでシェアすれば部屋数も十分事足りるようだ。

このユニオンのアジトはナワバリ内の端に位置するから、モンスターが湧いた現場へと駆けつけるには少し向かないかもしれないが、すでにモンスターを倒した後の一夜だから特に問題はなかった。




「もう少し寝てた方が良いんじゃない?はい、お水」


「朱音ちゃん。ありがとう」




ウイスキーボンボンを食べただけで酔っぱらってしまった唯火は二日酔い的なものに悩まされているようだった。

そんな唯火に水を渡す朱音は、ほんとに意外と面倒見が良かった。




「んく・・・ふぅ。昨日の記憶が途中から消えてしまってるんですよね」


「まぁ・・・・疲れでも溜まってたんだろう」




酒の席での失敗を振り返るのは彼女にはまだ早い。

忘れていた方が幸せだろう。

朱音にも昨日の件は伏せるように伝えてある。




「お、皆早いね」


「聖也。お疲れさん」




唯火を介抱する朱音に感心していると扉から聖也が顔をのぞかせる。

昨日の酔い覚ましの後、まだまだ見張りは続けるようで彼を屋上に残して俺はその場を去った。

疲れた様子はないけどいつまで見張りを続けていたのだろうか。




「皆おはよう。遅れてすまないね」




聖也に続くように響さんも入室してくる。

なにやら大袋を引っ提げて。




「さて。皆にこうして集まってもらったのはほかでもない。今後の方針についてだ」




早々に本題へと入る響さん。

まずはこいつを見てほしい、と言って抱えていた大袋の中身をテーブルへとぶちまける。




「なに?これ。鎧の残骸?」


「これは・・・・」




テーブルに散らばる破片、俺にはそれが何だか一目でわかった。




「昨日出現した竜種、サラマンダーと呼ばれる個体の鱗、外殻だ。手に取ってもらって構わない」


「竜の、鱗?」




一枚一枚が手のひら大のサイズ感。

鱗というにはあまりに巨大なそれ。




「触れて分かる通り、その強度は並じゃない」




そう言って響さんは愛用の鋼鉄のトンファーを取り出し、迷いなく一片の外殻へと打ち込む。

室内には鋼同士が衝突したような打音が響きわたり、その強度を誇示している様だ。

彼の鋭い一撃でさえ、砂粒程度の破片を散らせるにとどまった。



「・・・・この通り、並の打撃ではせいぜい傷をつけるのが精いっぱいだ」


「斬撃や銃撃も効かないんでしょうね・・・・」


「じゃあ、一体どうやって倒すっていうのよ」




そうこぼした朱音の視線は俺へと向きその答えを求めてくる。

俺は無言で立ち上がり外殻を掴み宙へと投げ―――




「弱点の属性を突いてやればいい」




言いながら腰に差した剣の柄に手をかけ、抜き放ちざまに降り抜く。

カッと、乾いた音が響き重力のままに床に衝突すると、竜の外殻は真っ二つに分かれた。




「すご・・・弱点属性って、魔法を使ったの?」


「いや。俺に魔力は発現していない・・・この剣に『竜殺し』の属性が宿っているんだ」


「すごい剣だと思ってましたけど、そんな属性まで付与されていたんですか」


「俺も気づいたのは昨日だけどな」




《ショートソードC+(無名)【属性:竜殺し(小)】》




今更池さんの剣に『目利き』を掛け判明した効果だ。

(小)というのは多分、効果の序列としては弱いんだろうが、サラマンダーと俺のパラメーター差。

そして、竜種(やつら)の持つ『竜鱗の加護』の効果の結果があの図太い首を両断せしめたのだろう。




「現状、竜種に効果的にダメージを与えられるのはナナシ君を置いていない。彼の存在は竜種を相手取るには必要不可欠なのだ」




剣の事に関しては響さんにだけ昨日の晩に告げてあった。

その際に、天の声が言っていた武器の熟練度に関しても訪ねてみたが、どうやら彼も聞いたことがないらしい。




「ええ。これを見ると思い知らされますね」


「ダンジョン攻略にこいつの力は借りられないってことね。それに竜なんて出てきた以上、ワルイガ一人に任せるわけにもいかないし。ギルドからも討伐チームを割かないといけない」




そう、ここまではすでに周知の事実。

そして俺の役目が終わったらギルドを去っていくであろう俺の意思を尊重してくれている。




「本題はここからだ。ダンジョン警備に割く人材。竜種に縛られたナナシ君。二つの天秤の均衡は四つ目のダンジョンが発生してしまったら大きく崩れる。それは他ギルドも分かっていることだろう。むしろ、その時を狙っていると思った方が良い」


「情けない話だ。君一人にここまでおんぶにだっことはね」


「・・・・くっ」


「いや、元はと言えば俺がまいた種だから・・・・」




響さんは影が差した顔を。

聖也は申し訳なさそうにし、朱音はこの状況に悔しさを感じているのだろうか、爪に歯を立ていらだっていた。


そんな思い空気を打ち破るように、突然炸裂音が鳴り響く。




「唯火?」


「私にも、竜種の防御力、破れそうですね」


「うそ・・・・」


「これは、まいったな・・・・」




音の発生源を振り返ると彼女の足下にはバラバラになった外殻が散らばっていた。

とはいえ、グローブも装備していない素手でこんなマネができるとは思えない。




「『操玉』、か?」


「はい。魔石で打ち抜きました」




なるほど。

超硬度には超硬度。

そこに唯火の『操玉』が加われば竜の鱗とてただでは済まないってわけか。




「・・・・ナナシさん」


「ああ。そもそもの前提が崩れるが。もうこれしかないだろう」


「何か名案が浮かんだのかね?」


「そんな大したものじゃないですけど。用は人員の割り当てです。俺と唯火だけで二人で地上のモンスター湧きに対応します」


「「「・・・・」」」




俺の提案に三人が息を呑む。




「聖也。未活動ダンジョンそれぞれが出現した時の種族は?」


「? えっと。ゴブリンに、オーク。それと、ウルフだ」




ゴブリン。多数の地域に同じ種族が出たりもするのか。




「まだ戦ったことはないだろうが、竜種に比べてどうだった?」


「・・・そこまで苦労はしなかった。この鱗みたいな強靭な防御力は無かったし、多少の知略もこちらの連携が上回っていたからね。重傷者は一人も出はしなかった」




そうだろうな。

俺は『小鬼迷宮(ゴブリンダンジョン)』出現の時には一人で戦って死ぬ思いをしたから正直この状況を過大評価していた。

そして彼らは、地上へ意識を持っていかれすぎている。

攻略中にナワバリ内の仲間たちに何かあったらどうしよう?という心配ばかりが勝ちすぎている。

組織の強みが半面、弱みに転じている。

けどその甘さを俺は否定しない。


だからこそ――――




「竜種は俺たちが狩り尽くす。有効打を与えられて連携の取れている俺たちが地上に残った方が良い。皆はダンジョン攻略に向かってくれ。俺たちの経験上、『王』がいなければ地上に湧いた敵とそこまで雲泥の差があるわけじゃない」




モンスター討伐のチームを浮かせることで、ユニオンの総力をダンジョンの攻略に集中させてほしい。




「・・・・確かに。考えてみれば、私たちが竜種に立ち向かうよりダンジョンの攻略に向かった方がよほど勝算が高いかもしれんな」


「けれど、たった二人で竜種に対処するなんて。一番最初に出てきた奴でも、こんな防御力なのよ?」


「逆に人数が居すぎてもあいつらの広範囲攻撃と相性が悪い」


「・・・・かえって足を引っ張りかねない、か」


「大丈夫です。一日に一度の短期決戦なら自信があります!」




火力に反して種族上唯火が抱える燃費の悪さから言っても、こっちの方が力を充分に発揮できる環境だ。

ダンジョン内は常に気を張っていないといけないからな。

頭数でお互いを守りあう作戦が向いている。

それは彼らのほうが長けている分野だ。




「それに、人数がそろって連携もばっちり取れてるギルドのパーティーなら、一日と経たず攻略して地上に戻ってこれるだろ」




唯火の力も大きかったが、俺たちは『小鬼迷宮』を半日で攻略し帰還することができたくらいだ。




「いや、どうだろうな。ダンジョンへの挑戦人数が多い程、生き物のように構造は変化すると聞く。モンスターのレベルには影響しないらしいが」




そんなことがあるのか。

だが、モンスターの強さが変わらないというなら、やはり挑戦可能人数13人MAXで攻略した方が勝算は高いように思う。




「要は適材適所です。どうでしょう?」


「・・・・すまないな。結局、君たちが一番危険な役どころだろう」




それは否めなかった。

サラマンダーであのパラメーターの高さ。

攻撃が効くとはいえ、あいつらを統率する名持(ネームド)となるとその強さはどこまで届くのだろうか。

そんな奴が数日後に出現するのか、はたまた今日なのか。




「わかった。その案を採用しよう」


「あたしは地上に残るわよ」


「そう、だね。君は少し集団での作戦には不向きだからね」


「・・・・なんだ?お前、メンバーと折り合い悪いのか?」




昨日の歓迎会の感じではそんな雰囲気はなかったが。




「いきなり人を斬りつけるサイコパスにそんなこと言われたくないんだけど」


「? 斬りつけ・・・?」




なんでもないわよ。と、事情を知らない聖也をけむに巻き、そっぽを向く朱音。

というかいきなりじゃなく、お前が俺の敵意を稼いだ結果なんだけどな。




「言っておくけど次席。あたしも残るからには唯火達と戦うからね」


「わかってる。好きにしなさい」


「そっちにも戦力は多いに越したことはないんだが・・・・」




付き合いは短いが頑固なこいつの事だ。

もうテコでも意見を曲げないだろう。

いざという時に俺と唯火の弱みにならないといいが。




「あたしの『スキル』とギルドの連中は相性悪いのよ。冗談抜きにあたしがいると全滅しかねないわ」


「なんだそりゃ?」




パーティーメンバーに害をなすとでもいうんだろうか?




「ってか、あんた。あたしの事『足手まとい』だとか思ってんでしょ」


「いや、まぁ・・・」


「歯切れの悪さが物語ってんのよ!!」




俺に対して異常に喧嘩っ早い朱音の怒号に呼応するように、建物全体を揺るがすような咆哮があたりに響き渡る。




「なんだ!?」


「・・・っ!なんだも何もないでしょ!人外の咆哮・・・・ドラゴンが出たのよ!」


「ナナシさん!」


「早いな。随分と勤勉な種族らしい」




呼びかけてくる唯火に頷き返すと、立ち上がりドアへと向かう。




「行くのかね?」


「はい。お互い決まった役割を全うしましょう」




響さんもまた無言でうなずき、聖也を連れ立って行動を開始する。




「いいタイミングね。あたしの力、見せてあげる」


「・・・まぁ、危なくなったら隠れてろ」


「あ?」


「な、仲間割れしないでください!」




こうして、新たに朱音を加えた新生、竜種(ドラゴン)討伐パーティーの初陣となった。


たった数人でも登場人物が増えると会話劇がむつかしく面倒になってくる。


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