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89話 苦労人

「ふぅ・・・・」




俺も飲み過ぎたようで、軽い酔い覚ましにビルの屋上へと夜風に当たりに来ていた。

宴会場での喧騒が耳の中にこびりつき、静寂と夜闇に包まれたはずの場所にいるのにちっとも一人でいる感じがしない。

けどそれは決して嫌な感覚ではなかった。




「・・・・誰だ?」




少し気取って夜景でも眺めようかと屋上の手すりの方へ向かうと先客がいた。

普段の状態ならここに来た時点で気が付きそうなものだが、『竜殺し』恐るべし。

戦闘の前は酒を控えよう。




「その声は、聖也か」


「ナナシ?下で歓迎会じゃないのかい?」




それはこっちのセリフでもある。

姿が見えないと思ったらこんなところにいたのか。




「少し、飲み過ぎてな。夜風で酔い覚ましってとこだ。そっちは?」


「ははっ。みんな宴好きだからね。見ての通り、見張りさ」




見張り、ね。




「でも、モンスターは日に一度しか出てこないんだろ?」



「今のところは、ね。それにどちらかというと今はナワバリ内のダンジョンの警戒だ」


「・・・・なるほど」




ダンジョン狙いのタチの悪い連中(ギルド)なら、回数も昼も夜も関係ない。

むしろ夜の闇に乗じてくるのが自然ともいえる。




「いってくれれば俺も手伝ったのに」


「そこまでは頼めないよ。確かに君達は心強いけど、やっぱりこれはギルドの領分なんだ。巻き込むわけにはいかない」


「そんなもんか」




ああ。と短く答える彼にいくつか疑問を投げかける。




「けど見張りって言ったって、具体的にはナワバリ内に散らばるダンジョンをどう守ってるんだ?」




各ダンジョンにチームを振り分け監視はしているんだろうが、通信機器の類が使えない以上互いに連絡も取れないしリアルタイムに変わる状況に対応しきれるとは思えない。

ここにいる聖也の役割も不明だ。




「・・・・まぁ、君になら教えてもいいか」




そう言うと懐から何かを取り出し、放り投げてよこしてきた。




「これは・・・・無線機?」


「そう。特別製さ」




どういうことだ?

こういう類のものは限られた地域でした機能しないんじゃないのか?




「言っただろ特別製だって。こいつにはコウモリと似た生態のモンスターの魔石が構造に組み込まれている」


「魔石が?」


「そう。魔石は持ち主だった生命の核。命の凝縮体みたいなもの。要するに、持ち主だったモノの力そのものが魔石の中には内包されている。そして、これに入っている魔石の持ち主はコウモリ型。コウモリが超音波で巣窟の地形などを感じ取るのは有名な話だ。その応用ってことさ。それよりむずかしいことは僕にもわからない」


「超音波で会話ができるのか・・・・?」


「不思議とね。滅茶苦茶貴重品だから壊さないでね」


「そんなもの投げてよこすなよ・・・・」




確かに、国側の久我達も所持していなかったようなアイテムだ。

ちょっとやそっとじゃ手に入れられる代物じゃないんだろう


タネも明かしてもらってので手渡しで聖也に返す。




「こいつで各チームと連絡を取り合ってるのさ。何かあれば各地から僕の無線機に連絡が入る。ここらの他ギルドはこういう連絡手段を持っていないからね。このアドバンテージのおかげで現状は守られているようなものだ」




聖也のポジションは随分と責任重大だな。

俺が思っているより彼の存在はユニオンにとって重要なようだ。




「けど、ぶっちゃけ他のギルドがダンジョンに手を出してきたところでどうにかできる問題なのか?そんなにダンジョン攻略は楽なもんじゃないだろう」




こう言っては何だが、人手が不足しているというユニオンのメンバーだけで他ギルドのナワバリ侵攻を防いでいるんだ。

その程度の連中にダンジョン攻略ができるとも思えない。




「世界でもダンジョンを攻略したって事例はそんなにないんだろ?」


「だからこそ、じゃないか。無暗にダンジョンを起こしてそのまま放置すればモンスターたちが地上へ進出してくる。今度は何の制限も無くね」


「それもそうだったな」


「それに、ナナシのその情報は少し古いね。日が経つにつれ皆死線を超えてレベルも上がる。モンスターの生態も明らかになっていき、もはや世界改変直後の様な右も左もわからないような状態じゃないんだ」




それもそうだった。

俺のこの認識は、廃棄区画で『小鬼迷宮(ゴブリンダンジョン)』が発生した時に唯火から聞いたものだが、彼女の認識も久我―――探求勢(シーカー)の施設内という狭い世界で得たもの。

情報の齟齬があっても仕方がない。




「そしてそれは対人でも同じこと。後手に回ってしまった僕たちは、君達という強力な助っ人の力を借りて一刻も早く一つでもダンジョンを解放し、組織としての力をつけなければならない・・・・だったんだが」


竜種(ドラゴン)、か」




俺と唯火のダンジョン攻略経験者二人を助っ人に入れた当初の予定は、新たに湧いたモンスターを討伐をギルドメンバー達に任せ、上位種である名持(ネームド)が出現する期間内に既に出現しているダンジョンを攻略していくという単純なものだった。


これまで湧いてきたモンスターの傾向から、チームを率いる聖也や、実はかなりの実力者らしい朱音が現場を離れても問題ないだろうとの作戦だったらしいが・・・・




「まさか、こんな強力なモンスターが出てくるなんて予想外だったよ・・・・」




サラマンダーを倒したあの場ではああは言ったが、彼らだけで竜種(ドラゴン)と戦い続ければきっと間違いなく死人が出るだろう。

こんな世界だ、危険と隣り合わせなのは仕方のないことだが、より高いリスクを回避できるのならそうした方が良い。

要するに俺は、地上を離れてどのくらい時間がかかるかもわからないダンジョン攻略に出向かうわけにはいかないのだ。


自惚れかもしれないが、竜種と渡り合えるのは現状俺しかいないから。


そのことを彼らも分かっているのだろう。

下でやっている俺たちの歓迎会は、そんな押しつぶされそうな不安をぬぐいたいという気持ちが少なからずあるのかもしれない。




「ああ。それに、あいつらの巨体から繰り出される攻撃。建造物を軽々と破壊していた」


「・・・・今まで、湧いてきたモンスターは建物内には干渉してこないという前提。これがあったから最悪籠城の策も取れたが、どうやら竜種はそのルールが当てはまらないらしい」




おまけに過去に街の人たちへモンスター湧き絡みで避難を促したところ全くうまくいかなかったという。

それが一日二日でどうにかなるようなものではないだろう。

結局のところ俺たちは、ダンジョンの攻略を後回しにし竜種と戦い続け、名持(ネームド)を倒さなければならない。




「なにか策を考えないといけないんだけど、どうにもね・・・・」




今のままでは竜種の名持(ネームド)を倒したとしても、結局彼らはナワバリ内のダンジョンを守り切れなくなる。

俺と唯火がここに残り続ければ現状は維持できるだろうが・・・・


俺としてもいつまでも留まるつもりもない。

聖也もそれが分かっているからナワバリの維持に関しては何も提案してこないのだろう。

俺たちがいなくなった後もその様じゃ生き残っていけない、と。


薄情なようだが俺たちの道はハルミちゃんを通してたまたま今交わっているだけ。


この一件が終わればお互いにまた別々の道に戻っていく。




だから、それまでは自分の責務を全うしよう。

竜種(ドラゴン)との戦闘において、誰一人死なせない。


必ず俺が狩り尽くす。




「明日、皆で考えよう。きっと何かいい案が出るさ」


「・・・・ああ。そうだね」






そして俺の楽観的な言葉通り。


翌日、一つの方針が決まる。


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