84話 散策。未知なる敵
俺は朱音と繰り広げた追跡劇の時と同じように、建物の屋上から屋上へと次々に飛び移り、街中を移動していた。
別に誰かを追っているわけでも、追われているわけでもない。
この街に滞在し、朱音たちのギルド『ユニオン』に協力して街中に出たモンスターの討伐を手伝うにあたって、土地勘をつけておくためである。
いや、勘という曖昧なものでなく、要はスキル『走破製図』によるマッピングだ。
通った道を脳内に記憶するというこのスキルは、公園の時とは違い複雑に入り組んだ街中でモンスターが出現した時に駆け付けるにはうってつけだ。
それに敵の頭上を取れるのは大きい。
見通しもいいし、建物に邪魔されず一直線に進める。
こうして一帯の立地を記憶しておけば最短距離で現場にたどり着けることだろう。
本当ならここら辺の地理に明るいユニオンのメンバーたちに案内してもらいたいところだが。
(あの感じだと、まだ協力はムリそうだからな・・・・)
応接室での出来事を思い出す。
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「でもあれね。多分あんた他のメンバーからは受け入れられないわよ」
響さんと固く握手を交わしていると、朱音がそんなことを言い出す。
「そうなのか?」
「ええ。皆ウチの次席を慕って集まってきた人間ばかり。でもって基本的に脳筋で血の気が多い」
「正式ではないとはいえ、新入りには当たりが強いってことか?」
「あんたが次席を負かしたからよ」
そういうことか。
「皆理屈よりも直情型だからね。根は気の良い連中なんだけど」
聖也は苦笑しつつフォローするように言う。
「なに。そのわだかまりもナナシ君の活躍を見れば解けるというもの」
「そういうもんですかね・・・・まぁ、認めてもらわないと、ダンジョン攻略になった時にうまく連携も取れないですしそうなることを願ってますよ」
俺に唯火に朱音に聖也。
一度にダンジョンに入れる人数は13人。
まだあと空席が9人分もある、他のメンバーとも打ち解けて協力を得なくては。
「ナナシ君。すまないのだが、恐らく四人で挑んでもらうことになる」
「そんなに協力を得られるのが難しそうなんですか?」
「違うわよ。言ったでしょ、人手が足りないって。とどめの新しいダンジョンが出現したらもうキャパオーバー。その上あたしと聖也が抜ける。その間ダンジョンの入口をほかのギルド連中から守るのでもう手一杯よ」
「そうか。攻略中に性質の悪い連中が同じダンジョン内に侵入してきたらそれは厄介だな」
モンスターの脅威と同時に悪意ある人間とも戦わなくちゃいけなくなる。
正直ごめんこうむりたい。
「そゆこと。このダンジョン攻略はなるべく少数精鋭で行くしかないのよ・・・・それでも、二人で『王』が出現したダンジョンを攻略するなんてのはイカれてるけどね」
四人か。
この中では恐らく索敵に長けた俺。
二種の上級職業を持つ火力の高い唯火。
その全貌は明らかになってはいないが、相手に状態異常を引き起こさせる朱音のトリッキーさ。
ホテルで見せた高速移動と、部下を率いる素養を持つ聖也。
「・・・・心強いパーティーだ」
本来ダンジョン攻略はこのようにバランスの良いパーティーで挑むモノだろう。
不謹慎ではあるが、少し楽しみになってきた。
「まぁ、それを抜きにしても、皆にはナナシ君のことを認めてもらいたい」
「善処します」
「いい心がけね。じゃあ差し当たってまずは、あんたが突っ込んだオフィスにいきましょ。あの騒動のせいで、窓は割れるわ部屋はぐちゃぐちゃになるわ、備品の剣は置き捨てられるわでもうあんたの第一印象は次席を負かす前からマイナスなんだから」
「・・・・先は長そうだ」
原因の半分を担う朱音にそう促され俺はその場にいたメンバー達の所へと向かった。
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「あれは針の筵って感じだったな・・・・」
ハルミちゃんを保護していたというアドバンテージは、オフィスをめちゃくちゃにしたことと響さんを負かしたというマイナス評価が上回ったようで頭は下げたものの、結局彼らの態度は軟化することはなく終始白い目で見られた。
そんな俺の連れという事で、一緒に謝罪の場についてきた唯火への風当たりも強いものとなるかとも思ったが、彼女のコミュニケーション能力の業だろうか。
ギルドメンバー男女問わず(比率で言えば男が多い)早くも打ち解けた様子だった。
なにか特殊なスキルでも使っているんだろうか。
結局そんな状態なものだから、モンスターが出現した時彼らと出動してもろくな連携が取れないだろうと俺は判断し、いざというときの単身での機動力を確たるものとすべく、唯火とハルミちゃんを置いて一帯のマッピングを行っている次第だ。
決して、ユニオンのビルにいるメンバー達の視線にいたたまれない気持ちで外に出てきたわけではない。
ちなみに肝心のそのハルミちゃん、及びフユミちゃんの事情についてだが。
響さんにきくと、
『その仔細は、マスターの・・・・あの子の触れられたくないキズに触れてしまう話になってしまう。申し訳ないが私からは教えられない。起きたら本人に聞くと言い・・・・もちろん、くれぐれも慎重に』
とのことで、そう話す彼からは純粋にハルミちゃんを心配する気配が見て取れたのでそれを尊重し、山積みの疑問はひとまず置くことにした。
今は彼らが信用に足る人物だと分かったので十分だ。
情報もたくさんもらったし。
《熟練度が規定値を超えました》
《走破製図LV.9⇒LV.10》
「お。なんとなく久々に聞いたな」
製図の範囲が感覚的に数メートル広がった実感と共にひとり呟いていると。
「きゃああぁぁああぁ!!」
地上から唐突に悲鳴が上がり。
「化け物!化け物がでたぞー!!」
「でたか・・・!」
俺が原因で発生したモンスター。
(先ずその一体目は俺自身で倒してやる)
建物の壁面伝いに地上へと降り悲鳴の元へと駆けつけ。
「こいつは・・・!」
その姿を目に捕えた時。
『目利き』を使うまでもなくその正体にピンときた。
それほどまでにポピュラーで、圧倒的な存在感。
童話、神話、フィクションの中で語り継がれる気高き生物。
そのどれもが等しく、人間など些末な存在のように薙ぎ払う異形の怪物。
「竜・・・・!?」




