7話 友の裁きと決意
「よし、池さんに会おう」
昨晩ゴブリンと死闘を繰り広げた廃棄区画で一夜を明かした後、午前中丸々使ってスキルの検証を終えた俺は今、公園に戻ってきている。
ちなみに、昨日眠る時や今朝に至るまでまたモンスターが出現するかもという一抹の不安はあったが、結局そんな気配は一度もなかった。
(今まで聞いた話だと、モンスターってのは野生動物みたいにそこらを徘徊しているわけでもない。昨日のゴブリンはあの男が何らかの経路で自ら囲ったんだろう)
尚のこと質が悪い。
モンスターが沸くだけで街の一部区画が廃棄されるっていうんだ、それを意図的に呼び込んでいたりしていたとしたらとてつもなく悪意的。
「あの先生が言ってたことも当てが外れたな」
半年前の事故で俺が世話になった医者。
『こんな世界になった今でもそれなりに社会は回っています』
なんて言ってたけど、ド世紀末じゃないか。
まぁ、『ご自身の目で確かめてみてください』とも言っていたけど。
今は仲介人の池さんがそんな悪事に加担していないのを願うばかり。
そして今の俺には、スキル『洞察眼LV.2』と『読心術LV.1』がある。昨日ゴブリンの動きが手に取るように分かったのは多分そういう事だろう。
対人相手では試してないけど、きっとできるはずだ。言葉の裏、嘘の裏を見抜くことが。
(頼む。池さん、知らなかったといってくれ)
彼らの居住区から外れた木々が生い茂る緑地帯にひざまずく池さんを見つけ、物言わぬ岩に懺悔の言葉を垂れ流すその姿を見て、そう願わずにはいられなかった。
「そいつは、誰の墓だい?池さん」
意を決し声をかけると、ゆったりとした動作で合掌を解く。
「死人を仏さんなんて言うが、ワシはどうやら間違って本物の仏様に祈っちまったらしいのぉ。こんなに早く聞き届けてくれるとは」
「・・・何を祈ったんだ?」
「坊主が生きていたならどうか、その手でワシを殺してくれ、と」
信心だけは捨てるもんじゃねぇな、と冗談めかして立ち上がる池さん。
「知ってたんだな?あの男の手口」
「ああ」
わかっちまう。
「あいつは、てめぇのために人間をバケモンのエサにしとる」
言葉に嘘が無いのが、見えちまう。
「弱みを握られてるのか?」
「……そんなもんねぇよ」
……嘘だな。
「大方、あいつに人質でも取られてるんだろ……ここの仲間たちだな?」
「……」
肯定の沈黙。
「わかった。俺があいつと話をつける」
「!?」
背中越しに明らかな驚きの色が見え、ようやくこちらを振り返る。
「何言ってやがる坊主!?どう逃げ延びたか知らんが、せっかく永らえたんじゃ、みすみす死にに行くでない!」
「死ぬ気なんだろ池さん」
「! それがどうした!?ワシが犯してきた罪の償いに、命以外に払えるもんなんぞ……!」
「池さんの命は、池さん一人分の命でしかないんだよ」
俺の言葉に目を見開き二の句を告げないでいる池さんに続ける。
「今まで何人売ってきたか知らないけど、もう罪の重さを計る天秤は壊れてんだよ。どうしたって釣りあわない。そのうえ、池さん一人あいつに殺されたって、次は守ってきたここの仲間たちがエサになるだけだ」
力なく膝をつくと、普段歳のわりに腰が曲がってないので気づかなかったが、ひどく体が小さく見える。
「ワシは……どうしたらいいんじゃ……無意味な死しか価値を持たんワシは……っ」
「俺が、あんたに出来なかった方法で、みんなを助けるよ。それが友人として俺のできる最後のおせっかいだ、池さん」
その後の、自分の身の振り方は自分で決めなきゃだめだ。
そう言い残し俺はもう一度、廃棄区画に戻ることを決意した。