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76話 ギルドの迎え

一斉に向けられる銃口。

こちらは剣と防具で武装しているからある意味当然と言えば当然の対応かもしれない。


でもそれは警察などの法の番人たちが相手ならであって、見るからにカタギじゃないこいつらに銃を向けられるいわれはない。




(今までの戦いと言えば剣や魔法だったから、こういう状況を想定していなかった・・・)




銃は危険物。

銃弾に当たれば大怪我。


人間であれば誰でも染みついているこの危機感に思わず反射的に両手を上げる。




(さて、どういうつもりか・・・)




それでも心は冷めたままなのはやはりスキルの恩恵と、命がけの戦いで身に付いた度胸だろう。

唯火もハルミちゃんを庇い守りの体勢に入るが、怯むことなく表情を引き締めている。


我ながら不思議なもんだ。

目にもとまらぬ速さで射出される鉛の弾丸相手に、どうにかなるとでもいうのか。




「あー・・・勘違いじゃなければいいんだが、ギルドの迎え、だよな?」




振り向くことなく視線だけ背後で唯火が抱えるハルミちゃんに向けると、代表するように一人の男が銃口を下げ前へと出て、片腕を掲げると他の連中も銃を下ろした。




「あんたがそうか。アカネから聞いている・・・随分、腕が立つらしいな」




リーダー格っぽいけど随分若い。

『目利き』でステータスを暴いておきたいところだけど、万が一その挙動に気付かれて刺激するのもな。




「そうでもない。銃を前にビビる程度だ・・・チェックアウト、済ませたいんだけど?」




上げっぱなしの手の中に握られたルームキーをチャラチャラと鳴らす。

すると――――




「――――随分、手癖悪いな」




持っていたルームキーは手元から消え、頬を撫でる風と共に俺の横をすり抜けた男がそれを手中で弄んでいた。




「せっかくのゲストに手間はかけさせないさ。こちらで済ませておこう」


「・・・すまん」




明らかに常人に出せる速度じゃない。

高速移動ができるスキルだろうか?

相当な実力者のようだ。




「ふっ・・・気にする事は――――」


「あ、いや。あの・・・そうじゃなくて・・・」




短く甲高い炸裂音がロビーに響き、その直後に床を打つ鈍い打音が空気を揺らす。




「銃って、高いのか・・・?」


「―――!」




攻撃の意思は無いのはわかっていたが、こっちに向かってくるものだから思わずすれ違いざまに、驚異の象徴であるライフルを両断してしまった。


弁償を迫られても支払いはできるが、予定外の出費に資金繰りが・・・




「貴様っ!」

「いつ剣など抜いた!?」




他の連中が殺気立ち始めてしまい、再び銃口を向けられるが。




「・・・止せ。挑発したのはこちらだ」




男の一声で事なきを得た。




「なるほど。アカネがあれだけ言う事はある・・・そこの子も、こちらがあと半歩踏み入っていたら、やられていたな」


「・・・そんなことしません」


(いや、ハルミちゃんを守るためならやったな・・・)




唯火の最警戒する間合いを見切ったのか。

ますます出来る男のようだ。

物腰もそこまで高圧的でなく、一方的にこちらの意思を蔑ろにするような印象は受けない。




(ま、アカネ(あいつ)がうまく根回ししてくれたってことか)




俺の中で、アカネと目の前の男の評価が急上昇したところで。




「すまない。こちらも外部の者を招き入れる以上、品定めはしないといけなくてね」


「お眼鏡には適った、かな?」


「ああ。今、僕が生きている事実が、君たちは悪党でないという証拠だ」




そう言いその場で頭を下げてくる男。




「マスターを保護してくれたこと。感謝する」


「・・・あんた、名前は?」


「これは申し遅れた。小牧(こまき) 聖也(せいや)という」


「俺は―――ワルイガ=ナナシ。小牧さん。あなたは、アカネと違って話せそうだ」




今だ名乗るのに抵抗のある自己紹介を済ませると、彼への印象を忌憚なく口にする。


フユミちゃんとの会話を聞く限り、ハルミちゃんを攫ったのはアカネの暴走みたいなものだったからな。

ギルドの全員が、あいつみたいに好戦的かつ独断で突っ走るタイプだったら、今のやり取りの結末も違ったものになっていただろう。




「随分と変わった名前をしている。あと、僕の事は聖也と呼んでくれて構わない・・・その様子だと詳しくは聞いていないが、多分アカネが余計なちょっかいを掛けたんだろうね。彼女は優秀なメンバーなんだが、性格に難ありでね。能力の高さが仇になっているというか」


「俺もナナシで構わない。苦労してそうだな」


「初対面の人に心配されてしまうとは、アカネもとうとう筋金入りだな」




聖也が連れの者達を振り返り冗談交じりにそう言うと、殺気立った雰囲気は鳴りを潜め、小さな笑いが起き緊張が緩和される。




「悪い人たちではなさそうですね」


「・・・ああ」




彼らの本拠地もこれぐらい温和な対応なら助かるが。




「じゃあ、ナナシ・・・とそちらの彼女は?」


(かがり) 唯火(ゆいか)、です」


「篝さん。車を回してある。ナナシと同じ車両に乗ってくれ、マスターはそのまま任せても大丈夫かな?」


「あ、はい。わかりました」




こちらの意思を尊重してくれるか。

ギルドの主宰の身柄は速く確保したいだろうに、さっきのやり取りだけで随分と信頼されたようだ。




「ありがたい気回しだが、いいのか?」


「ああ。人を見る目はあるつもりだし、君達のような強者にはぜひとも取り入りたいからね」


「あんたも食えないな」




望外に、これはいい出会いだったのかもしれない。




(まぁ、まだ油断は禁物だが)




チェックアウトを済ませ外へと出ると、軽自動車4台が縦列駐車していた。




「意外だな、もっと仰々しい車両を想像してた」


「僕たちの職業柄現場主義だからね。機動性重視なんだ」


「なるほど」




モンスター討伐も仕事の一環と言っていたからその絡みか。


・・・ということは、車で駆け付けられる範囲でモンスター討伐を日常的に行っているってことか?

だとしたらその一帯は――――




「どうしました?ナナシさん」


「ん?ああ」




深まりそうだった思考は唯火の声により霧散し。


車が運ぶ先で、俺たちは知ることになる。




「行こう」


「どんなところか。不安半分、期待半分ですね」




この世界の実情、異常性の――――




「鬼が出るか蛇が出るか、だな」






その、片鱗を。


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