71.5話 誘拐犯の誤算
「あたしの勝ちね」
あの男に読み勝ち自爆を誘った。
この隙に逃げさせてもらう。
「強さだけで生き残っていける程、この世界は甘くないのよ」
まぁでも、それにしても面白い男を見つけた。
あいつは自らを『人間』、と言っていた。
確かに身体的特徴は人間のそれだ。
ハーフエルフなどは種族特徴の一つとして、種族変異時に魔力が急速発現する際、頭髪の色素へ影響を及ぼして、以前の毛色と変異した毛色の二色が頭髪に現れるケースが時々ある。
あたしが抱えるこの子もそうだ。
そして恐らくホテル前で見かけたあの男の連れの女の子もハーフエルフなのだろう。
その特徴を有していた。
そして、一見ではわからないがハーフエルフの際たる特徴。
通常、基本的に自力で発現する『職業』は一つと限られている。
だが、ハーフエルフは異なる系統の職業を二種、種族変異時に獲得することができるという。
(あの男は、少なくとも3系統以上の異なる職業のスキルを使っていた)
チンピラ相手に見せた『体術』。
次に、ホテル前でのこちらに気付く素振りと、部屋で対峙した時の立ち回り方は恐らく『索敵』持ち。
そして、出遅れてなおあたしに追いついてきた『走行』系のスキル。
(それに真偽はわからないけど、『目利き』の存在もほのめかしていた)
『目利き』を除けば、
【暗殺者】等の職業ならこの三つのスキルを有することはできるが、【暗殺者】にはこちらがいかに『隠密』を掛けようと、それらを無力化するスキルがある。
あいつがもしそうだったなら、尾行も潜伏も看破され今の状況になる前にアタシは殺されているはず。
(となると、あいつも二つの職業を獲得したハーフエルフである可能性が高い)
けど、どうにもその説がしっくりこない。
「読めない奴ね・・・」
本当に面白い。
いずれこっちに引き込めないか。
そんなことを考えながら、去り際。
男が突っ込み、破壊されたビルの窓を一瞥する。
日の出とともに朝日がビル街を覆い、ビルに等間隔に並ぶ窓は鏡面の様に日を反射する。
その光景に、一瞬。
まさに瞬きをした一瞬。
身をこわばらせるほどの殺気が全身を包む。
「―――え?」
眼前の宙には。
そこにいるはずのないあの男が、冷たい殺意をその双眸と、握られた刀身に通わせ。
必殺の間合いへと飛び込んでいた。
あたしは後悔した。
正攻法ではかなわないと悟った時点で。
男の自爆を誘った瞬間に、死力を尽くして逃亡を図るべきだったんだ。
走馬灯のように、瞬時に己の過ちを突きつけられるほどの凶兆。
(――――――死・・・)
あたしはそれを覚悟した。




