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71話 静寂。暗闇。追跡

「いやー、さっぱりするな流石に」




唯火とハルミちゃんが風呂から上がった後、飲み物片手にしばらく談笑し。


ハルミちゃんが眠気に目をこすり始めたところでお開き。

俺も久々のシャワーを済ませ、上機嫌に部屋に戻ると既にベッドで眠りにつくハルミちゃんと。




「あ。ナナシふぁん・・・寝てません、寝てませんよ」


「いや、寝なって」




ソファに体を沈めうつらうつらと舟をこぐ彼女の様子に思わず苦笑してしまう。




「ん・・・色々、お話とかしたくて」


「話なんて明日でもできるだろ?今日はもう休んだ方が良い。一晩眠れば体力もMPも戻る。な?」




チンピラ連中から得たハルミちゃんに関する情報はその時話せばいいだろう。




「うぅ~」




やはり余程眠たいのか、普段のしっかりした印象は薄れ、のたのたといった感じでベットに向かっていく。




「あ、でも私がベッド使っちゃったら」


「ん?俺はソファで構わないぞ」




ダブルサイズのベッドにはハルミちゃんと唯火二人でもう手狭だ。

そもそも彼女たちと床を共にするなんて論外だしな。




「そんな、私が―――」

「いいから寝なさい」




俺は有無を言わさずソファにどっかりと横になる。




「すみません・・・おやすみなさい」


「ん。おやすみ」






::::::::






《―――》




「ん・・・・五時、か」




警戒の糸が切れないよう、唯火の寝息が聞こえると、俺は体を起こし座りながら寝た。

休みながらも『五感強化』で定期的に周囲を警戒。

深夜でもやはり複数の人間が同じ建物にいる以上、完全な静寂はなく。

ホテルを軋ませる足音、物音。

ずっとそんなものに気を張り巡らせていた。


それでも気が滅入ったりしなかったのは、『精神耐性・大』の恩恵なのだろう。


そして『索敵』はまどろみの中でも自動で感知してくれるから、その気になれば一晩中敵襲に備えることができると立証できた。




「これなら、ダンジョンでも眠れそうだな」




浅い眠りだったが昨日一日で失われた体力は十分に回復している。

ヴェムナスにつけられた傷もすっかり完治だ。




「~~~~っ、くぅー」




立ち上がり体を伸ばし背骨をバキバキと鳴らす。


そしてなんとなしに『五感強化』で耳を澄ませる―――




「・・・静かだな」




まだギリギリ日も差さないような冷たい早朝。

そんなすべての動きが緩慢な時間帯ゆえの静寂―――




「いや、静かすぎる」




起きている人間が一人くらいいてもおかしくはないだろう?

それを抜きにしても、ベッドが軋む音や様々な環境音が一切しない。


なにか―――




「そういえば、起きる直前声を聞いたな」




《『ミュート』》




(確かそう聞こえ―――)




ふと、辺りが暗闇に包まれる。


これは、部屋の照明が消された?

いや、元から消えていたし真夜中でもないのになぜこんなに暗い?




「っ!誰だ?」




ようやく物音が耳に届く。

それはこの部屋の扉が開かれる音だった。




「―――闇に乗じるなんて力のない三流のやること。不意を突くなら、夜を乗り越え朝日が見え、精神が弛緩したその時」




女の、声?




「何だお前は?俺に何の用だ?」


「用があるのはあんたじゃない、そのハーフエルフの子供よ」




多分ハルミちゃんの事だ。

なぜハーフエルフだと知っている?




(いや、いずれにせよ敵だ。理由なんて今求めるな)




この暗闇では相手の姿をとらえられない。

だがこのタイミングで部屋に入ってきたってことはこの暗闇はこの女の仕業ってことになる。

ならあっちは閉ざされた視界でこちらの位置を知る方法を用意していると考えるのが妥当だ。




(でもこっちだって、視覚を封じられた戦いは初めてじゃないんだよ・・・!)



耳さえ生きていれば目は見えなくても、二人を守りながら戦える。




「随分と考え込んでるわね。もし勘違いしているなら教えてあげる」


「・・・何?」


「暗くなったんじゃなくて。あんたの目が()()()()()()()()


「何を―――」


「んんっ・・・ナナシさん、どうしたんですか?あれ・・・まだ真っ暗」




騒ぎに目を覚ました唯火に一瞬気を取られると。






「『忍び足(スニーク)』」


「・・・っ!気配が消え・・・!?」




正確には女が発する絹擦れや呼吸などの音が一切消えた。

そういえば、扉を開けるまで敵意らしきものは一切感じられなかった。

明らかに『隠密』系のスキルを所有している。


そしてもし、今唱えた何らかのスキルである『スニーク』が足音さえも消してしまうものだとしたら―――






『用があるのはあんたじゃない、そのハーフエルフの子供よ』






「唯火!ハルミちゃんを―――」


「きゃっ!?」


「唯火!?」




彼女の短い悲鳴と、床に何かが落ちる音。

そして部屋の空気圧が変動した感覚を鼓膜が捉え、外の風が部屋に充満する。




「窓から逃げる気か!」


「ナ、ナナシさん!いったい何が起こって・・・ハルミちゃん、ハルミちゃんは!?」




どうやら唯火も目が見えていないようだが、無事なようだ。


だがハルミちゃんの寝息も気配も一切消えてしまった。

そこから行き着く答えは―――




「唯火!俺は窓から女を追う!ここで待ってろ!」


「え?追うって、ナナシさん!?ここ―――」




目は見えないが空気の流れと音で窓の場所はわかる。

放たれた窓枠に足をかけ、俺は宙へと跳躍した。




「ここ、7階ですよ!!?」


「・・・っ!」

(そうだ!あほか俺は!しかも今は目が・・・!)




数秒後の地面に叩きつけられる未来に背筋が凍るが、瞬きをした次の瞬間。




「! 目が戻った!」




すっかり明るくなっている街並みが目に映る。

そして今置かれた状況を急速にかくにんすると。


ホテルの部屋から飛び出して二つ隣のビルの屋上に衝突しようとしているところだった。




「あっぶな・・・!」




受け身を取り何とか着地する。

下に落ちていたら危なかった。




「あの女は!?」




視界は戻り、朝日が顔をのぞかせようとする淡い明るさに照らされた、点々と屋上が続く景色にその姿を探す。

すると、外套をはためかせ遠ざかる、見るからに怪しい後ろ姿が見えた。




「見つけた!」


「ナナシさーーーーん!!」




唯火も視界が戻ったのだろう。

窓から身を乗り出しこちらに呼び掛けてくる。




「ハルミちゃんがいません!!」


「連れ去られた!今から追う!」




短く応え、身軽に屋上を飛び移る女を追い駆け出す。




「結構速いな・・・!でも―――」




着々と距離は縮まっている。


俺はスキルにおびき寄せられるモンスターの事など捨て置いた。

どのみち、あの女がポンポン使っているからもう手遅れだ。




(捉えた!)




相当な速度で直線距離を走っているから、恐らく3駅くらい遠くまで来てしまったが、遂に。

一足飛びで殴り掛かれる距離まで詰める。


が、こちらに気付いたのか振り返り。




「うそ!?もう『盲目(ブラインド)』が解けたの!?てか速・・・っ!?」


「ちっ!気づかれたか・・・!」


「くっ・・・!なるほど、レベル差ってわけね―――」




大分都市部に来たようで、俺たちがチェイスを繰り広げる目線よりも相当高いビルの前に位置する屋上で、ビルを背にして女は足を止める。




「・・・観念したか?」


「はぁっ・・・はっ・・・あんた、ほんとに人間・・・?」


「人間だよ。その子だって、種族が違くたって半年前までは人間だったんだ・・・もう、構わないでやってくれ」




息を乱す女の腕には、すやすやと眠るハルミちゃんが抱かれていた。




「ふぅん・・・ま、少なくとも悪党じゃないみたいね」


「人攫いに、そんな値踏みされたくないね」


「お互いに誤解はあるみたいね。ま、解くつもりもないしそれじゃ面白くない」


「訳の分からないことを・・・」




こうして向き合うと結構小柄だな、唯火より少し小さいくらいか。


出方を窺いつつ『目利き』を発動すると。




《対象者に無効化されました》




「『目利き』が・・・効かない?」




なんだ?

こんな事初めてだぞ?




「『目利き』?あんたもしかして【鑑定士】?」




しまった。

動揺して思わず口に出ていたか。




「・・・ハッタリ?その戦闘力で【鑑定士】なんてありえないし・・・」




フード越しに訝し気な眼差しをぶつけてくる。




「まぁいいわ。そろそろ終わりにしましょう。逃げさせてもらうわよ?」


「逃がすと思うか?逃げるならその子を置いて勝手にいけ・・・もう、『状態異常』系のスキルは喰らわないぞ」


「・・・へぇ?」




ホテルでの音を消したのも、視界を封じたのも、足音を消したのも。

俺に対する何かしらの『状態異常』をこの女が促したに違いない。

相手に『状態異常』を与える、それが多分この女の『職業(ちから)』だ。




「いい線いってる。けど、浅いわね。それじゃ私は捕まえられない」


「試してみるか?」




重心を落とし、勝負の一瞬に備える。




(もしまた、音を消すスキルや、目を見えなくするスキルを喰らったとしても。どっちかひとつなら問題なく女を抑えられる)




実体が見えない攻撃な以上、必中だと仮定して。

それでもあいつが俺を再び無効化するため二つ目のスキルを放つ前に、動きを抑えられる自信がある。




「―――確かに。正面切ってじゃ、あんたから逃げるのはムリそう・・・でも」


「ふっ!」




『洞観視』が女の攻撃態勢を見抜き、俺は地を蹴った。


チンピラたちを沈めた時とは別物の、本域の疾走。






「『超加速(バーニア)』」




女が唱えたものはさっきとは異なるもので―――




「――――――なっ!?」




気づけば俺は宙を舞っていた。




「その身体能力が仇になったわね」




攻撃?受けたか?

投げ?掴まれたか?




(いや、俺は何もされていない)




勢いよく宙を飛ぶその刹那の時間、自分の居た場所。

女の数歩手前の床に目をやると、そこは砕かれ煙を上げていた。




(俺が、()()()()()()()()・・・!)




最高速で宙に投げ出された勢いのままに。




「きっと、また会うことになるわ」




女の背後にあったビルへと突っ込んだ。


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― 新着の感想 ―
2年前に既に語られてるけど、主人公の優先順位が常に「仲間の命や安全」より「自分が納得するまで考えてから行動」なのね。 その割に自身のスキルやジョブについての検証や確認は先送りするから、悔しがりながら舐…
[気になる点] 何で洞察力良くなる奴とか心読める奴とかつかわんの? そも剣聖の組み合わせ使ってればすんでたやろ 作者の都合で保護した幼子をナメプで連れ浚われたゴミやろうになってんじゃん
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