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70話 束の間の休息

「・・・・ふう」




必要な日用品を三人で買いだしてきて、俺たちはホテルの部屋へと戻ってきた。


唯火は部屋に戻るなり。




『さっ!ハルミちゃん、一緒にお風呂に入りましょうね』


『おにいちゃんはー?』


『お、おにいちゃんは後で入るから』


『むー』




といって風のように浴室へと消えていった。




(ダンジョンでの戦いの汚れもあったしな)




公園で寝泊まりしていた時も濡れタオルで体を拭くくらいしかできなかっただろうし。

それに早く身を清め、寝たいんだな。

唯火がヴェムナスに負わされた傷は決して軽傷ではない、一刻も早く睡眠をとって回復を図りたいのもあるだろう。




「・・・うまい」




一人部屋に残された俺は買い出しついでに買っておいた、少し高い酒をちびちびと口に含んでいた。

警戒を完全に解くわけにもいかないから泥酔するほど飲むつもりはない。

未成年の彼女たちの手前、大人としてそんな姿を見せるわけにもいかないしな。


家を借りていた池さんには悪いが、格安といえどこの部屋とあの掘っ立て小屋とでは居心地は比べるべくもない。


久しぶりに訪れたきちんとした建屋での穏やかな時間。


ゴレイド。

ヴェムナス。

久我。


暴力と悪意と殺意をもって向かってきたモンスターと人間たち。


決して一人だけの力だったわけではないが。

そんな脅威をことごとく払ってきた自分へのちょっとしたご褒美、ってやつだ。 

元々酒は好きな方だしな。




「テレビは、点かないか」




通信機器の類に分類されるんだろうか。

置いてある電話機もフロントに繋がらないただの置物と化しているし。

ここら一帯もそれ系の機器が機能しないようだ。




(電気も水道もガスも生きているのに、なんだか不思議だな)




各ライフラインを供給する施設や企業としてもこの状況は色々弊害はあるんだろうが、この状況を見るにどうにかうまくやっているようだ。


見ず知らずの働く誰かには頭が上がらない。


そんな人たちの努力の甲斐あってか、街中はさほど混乱しておらず、表面上半年前とそんなに変わった様子はなかった。




「まぁ、半年もすれば慣れもするか」




俺は目を覚ましてから一月も経っていないが、他の人たちはずっとこの環境で暮らしていたんだ。

それぞれが得たものと失ったものを享受し、順応していっても不思議じゃない。




(けど、病院を出た時も感じたが。明らかに殺気立った人間が町をうろついている)




買い物に行った時も、ちょいちょい一般人に出せるようなものではない凄みを放っている人がチラホラ居たし。

興味本位でそういった雰囲気を持つ相手に『目利き』を使用すると、レベルが20~40を超える中々の強さを持つ人がいた。


久我が率いていたプロの部隊のような連中を凌ぐ力を持つ人間が、街中にはゴロゴロいるようだ。


俺は貶められ自ら首を突っ込み戦いに身を投じたわけだが。

ああいった人たちはどういう経緯でレベルをあそこまで上げ、現状なにを生業としているのだろうか・・・


アホみたいな業種の数を転々としていたからどうしても、そういうところが気になってしまう。




「案外、郷に入っては郷に従え。ゲームみたいなこの世界でゲームにあるような団体を結成してたりしてな」




ギルド。

とか。

冒険者、みたいな。


こんな物騒な世界だ。

スキルを使用する荒事を生業とする連中がいてもおかしくはない。


俺たちに突っかかってきたあの五人のチンピラだってある種、そういう類のものかもしれない。




「ま。ゲームで言うなら『盗賊』って感じだったけど」




グラスの中の氷が鳴るのを聞きながら、今日見聞きした街中で得た情報を整理していると。




「お風呂、先にいただきました」


「いただきましたー」


「ん。お疲れさん」




湿った髪に、血色のいい肌。

それらを買い出しの時に買った二人お揃いのモコモコと肌触りのよさそうな寝間着で身を包んでいる。




「二人とも風呂上りに何か飲むか?・・・あ、ジュースだぞ?」


「牛乳のむ!」


「通だな」


「うしさんのもこもこ着てるから」


「だから瓶牛乳なんて買ったのか。唯火は?」


「あ、じゃあ。ウーロン茶いただきます」


「はいよ。と言ってもペットボトルのままで味気ないが」




備え付けの冷蔵庫から用意していたご要望の飲み物を取り出し二人に手渡す。

もちろんハルミちゃんの瓶牛乳は開けてから。


・・・どうやら、俺も飲み相手を欲しているらしい。

ノンアルだけど。




「――じゃあ、あれだな。乾杯でもするか?」


「・・・?何に、ですかね?」


「かんぱいー?」




ほろ酔いの今なら多少クサイこと言ってもいいだろ。




「生きてることに。とか」


「・・・ふふっ。じゃあ、それで」


「?」




夜は楽しげに更けていく――――






:::::::::::






「・・・どうやらこのホテル。特にウチとつながっているわけでもないみたいね」




だとしたら潜入するにしてもルートはかなり制限される。




「ま。その筋の傘下だったとしたらだけど」




見たところ、このホテルはどこにも属していない。

このご時世に随分と剛毅なことだ。


ただの安宿など、フリーパスも同然。




「寄る辺もなく、どこまで生き残っていけるというの・・・?」




そんなの無理に決まっている。

個を、自分自身を尊重して生きるなんて今のこの世界では、至難の業。




「―――あんたはどっち側なのかしらね?」




その力の源泉がどこにあるのか。






「仕事ついでに、確かめてあげる――――」




もし、()()()の目に適ったなら。


壊れるかどうか。






「試してあげる・・・・・」


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