6.5話 老人の懺悔
あの男に名無しの坊主を預けてから一夜明けた。
後悔と懺悔がワシの中で渦巻いて、寝起きと老いでぼやけた脳みそを覚醒させる。
あの坊主は、変わりもんじゃった。
最初に会ったのは炊き出しのボランティアにあいつが参加していた時だ。
仲間たちに配膳するスタッフの中、一人だけ異常にワシらホームレスを観察しとる若者がおった。
そして、豚汁を配り終えると撤収作業もそこそこにその若者はワシの前に現れこう言った。
「俺感動しました。あなたたちの生き方こそ本物の人間だ!」
イカれてるんだとワシは思った。
それか、同情心からの行いではないと思わせ何か、こちらに取り入ろうとしているのだろうなどと思っていた。
そして、その若者はワシらが根城にするこの公園を定期的に訪れるようになった。
「俺この前、ここに炊き出しに来た者で……え?覚えてない、あ、別に大丈夫っす」
何の目的か知らんが何度も。
「どうもです。仙人。話、聞かせてください。え?だって、見た目仙人っぽいので……はぁ、でもあなたの名前も知らないので」
何度も。
「池さーん!みんなを集めてくれ。酒持ってきたからさ」
他の誰も呼ばない愛称でワシを呼び、何度もそいつはワシを訪ねた。
尊敬してるんだと、あんた達みたいな生き方がしてみたいんだと。
こんな社会の一部になり損ねた半端者を、本気で慕っているんだと。
この坊主の本心は、久しく感じることのなかったワシの胸の中におる温もりが、本物だと証明していた。
「坊主……」
あやつの好きだった。
いや、ワシに合わせてただけかもしれんが、おなじみのワンカップをなるべくいい具合の岩で見繕った墓石の前に置く。
「……すまねぇ」
ワシはもう後戻りできん。
これからも、あの男に若者たちを引き合わせにゃならん。
「この老いぼれには、立ち向かう力なんぞありはせん」
身を削ることもできん弱者は、強者に供物をささげることでしか何かを守ることはできん。
「許せとは言わん。恨んでくれ。呪ってくれ。もし、生きていたのなら―――」
どうか。
「ワシを、殺してくれ」
「そいつは、誰の墓だい?池さん……」