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66話 迷い、そして暗躍

「一度公園に戻る、ですか?」




久我たちの脅威を完全に振り切り、多少速度を抑え、唯火とハルミちゃんを抱えながら森を疾走していた。




「ああ。最初に戦った久我の仲間と、その後続の連中。戦闘不能にした後、公園の皆に捕えておいてくれって頼んだままなんだ」


「それは・・・心配、ですね」




唯火の救出を優先した結果、というのを彼女も察したのか、声色に影が差す。




「まぁ、あの様子だと半日くらいは眠ってそうだったから、今戻れば大丈夫さ」




戻って―――今度こそ、決断しなけらばならないのだろう。

敵の脅威を断ち切る手段を。


それはほかの誰でもなく、俺自身がやらねばならない。




「・・・唯火は、人を殺めたことはあるか?」




彼女は俺よりも長くこの変貌した世界で半年間戦ってきた、時にはモンスターだけでなく人間とも戦ってきたかもしれない。




「いえ・・・無い、ですね」


「そうか」




幸い、と言うべきだろう。




「どうしたのおにいちゃん?」




声の低さを不審に思ったのかハルミちゃんが問いかけてくる。




(できればこの子を、そんな血なまぐさい現場に連れて行きたくはないが・・・)




置いていくわけにもいかない。

それは唯火も同様で、完全に安全が確認できない今彼女たちも守らなくてはいけない。




「いや、何でもないんだ―――少し急ごう」




脳裏にかかる暗雲を振り払うように公園へ向かう足を速めた。






::::::::






「皆!戻ったぞ!」




公園に着くと、いつも食事をしている広場でみんなが集まっていた。




「兄さん!訳も話さず突然飛び出して言っちまうから心配したよ!」


「ごめん、吉田さん。あの時は一刻を争う状態だったから・・・」




俺の存在にいち早く気づいた吉田さんが駆け寄ってきてくれる。

ひとまず無事な皆を見て一安心すると。




「ん?お嬢ちゃんじゃないか?」


「あ、どうもです」




俺が背に負った女性が唯火だと気づき。




「お嬢ちゃん、どこかケガしたのかい?なんだいなんだい?随分と色気のない抱え方して。お姫様抱っこでもしてもらうチャンスだってのに」


「な、なに言ってるんですか!」




人前で抱えられた状態が恥ずかしくなったのか身をよじらせ降りる唯火。




「いや、二人を抱えなきゃならなかったから・・・」


「まぁ、兄さんにとっちゃ負ぶった方が役得ってもんか」


「「・・・」」




緊迫していた状態が続いていたからお互い意識しないようにしていたが。


その・・・唯火は随分、発育が良いようだった。




「ナナシさん、変なこと考えてません・・・?」


「・・・そんなことはない」

(するどい、『洞察眼』並みにするどい)




妙な空気を作り出した張本人はなおも言葉を続け。




「・・・で、お姫様抱っこしてるそっちのお嬢ちゃんは?もう嬢ちゃんとこんな大きい子共こさえたわけじゃないだろ?」


「吉田さんっ!?」




耳まで真っ赤にして怒鳴り散らす唯火。

ここまでの一連、ひどいセクハラを見た。




「はぁ・・・吉田さん、唯火をからかうのはその辺にしてくれ。この子はちょっと、訳アリでな」


「・・・なぁるほどねぇ」




細かい事情を話す必要もないだろう。

詮索しないでほしいという意味合いをくみ取ってくれた。




「それより、ここに来た連中はどうしたんだ?」




見たところこの広場には見当たらない。

どこかに監禁でもしているのか?




「ああ、それなんだがな・・・兄さんが行っちまったあと、黒装束を着た妙なやつらが、気を失ったままの連中を何にも言わず連れて行っちまったんだよ」


「なんだって・・・?」


「嘘じゃない。兄さんが言っていた、森の方も誰かいるか探してみたが誰もいなかった」




黒装束・・・




「・・・ナナシさん」


「ああ・・・目的はわからないが、連れて行った奴らが黒装束って言うなら間違いないだろ」




山さんだ。


久我の包囲を突破し森へ入る直前、木の陰に潜んでいた老人。

あれは山さんだった。




『やるねぇ。兄さん』




(あの様子。どうにも久我と協力関係にあるような感じじゃなかった)




もし久我側の人間だったなら、この公園の皆に危害を加えず連中だけを回収していくのは不自然だ。


味方というわけでもないだろうが。




「有無を言わさずといった感じでな・・・あと、これを兄さんに渡しておけって」


「俺に・・・?」




折られた紙きれを吉田さんから受け取り、ハルミちゃんを下ろす。




「おてがみ?」


「―――ああ。そうみたいだ」




内容は簡潔だった。




『今回、あんたが交戦し殺し損ねた連中は全てこちらで始末させてもらった。これを読んだら即刻、この廃棄区画から退去せよ』




「どうも、ずっと監視されていたみたいだな」


「・・・」




唯火にも手紙を渡し読み終えると、得体の知れない気味悪さを感じているようで沈黙する。




「何が書いてあったんだい?」


「いや・・・大したことじゃない」




この手紙の内容が本当なら、公園で戦った連中から研究所。

恐らく久我たちも、山さんが率いる勢力が消したのだろう。




「―――吉田さん。急だけど、俺たちはもう行くよ。連中はもう心配いらない」




ここは、手紙の内容のいう通りにこの廃棄区画からさっさと出ていこう。


結果として助けられたような形になっているが、山さん側にも命を狙われたんだ。

ここに留まるのは危険な気がする。




(『索敵』に引っ掛かる敵意は見当たらないが、山さんは気配を絶つ装備を持っている)




今も監視されていると思った方が良いだろう。




「そ、それはまた急だなぁ。いや今朝もここを出ようとしたんだろうけど・・・あてはあるのかい?」


「実はこの子、迷子でさ。早く家に帰してやりたいんだ」




嘘はついていない。

これもハルミちゃんのために早急に対処しなきゃならない事だ。




「唯火。少し休ませてあげたいところだけど、池さんの家に置きっぱなしの唯火の装備を回収したらすぐ出発しよう」


「大丈夫です。急ぐのは私も同感です」




妙な後味の悪さだが、唯火にとっての一番のしがらみ。

久我が放つ追手の心配はもうしなくてもいいはず。


彼女も思うところはあるだろうが、少しだけ晴れやかな雰囲気を感じる。




「吉田さん、皆。本当に世話になった。装備、大事にするよ」


「お世話になりました。またいつか、寄らせてください」


「ばいばい」


「ぉ、おう・・・忙しないが、達者でな。またいつでも寄ってくれ」






慌ただしく。

山さんと、その勢力という謎を残し。


俺たち今度こそ公園を後にした。


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