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64話 聞き届ける声

《選択を承認。職業(ジョブ)精神掌握者(メンタリスト)】は、上級(ハイクラス)職業(ジョブ)精神観測者(メンタルアブソーバー)】へとクラスアップしました》


《『読心術』LV.10(MAX)は『聴心(インサイト)』LV.2 へと進化》

《『洞察眼』LV.10(MAX)は『洞観視(どうかんし)』LV.3 へと進化》

《『精神耐性』LV.10(MAX)は『精神耐性・大』LV.3 へと進化》

《『心慮演算(しんりょえんざん)』LV.3 獲得》





その瞬間。

俺の脳内に、クラスアップとスキル獲得を告げる天の声とは別の。

氾濫する濁流のような勢いでうねりを上げる多数の声が響き渡る。




「・・・っ!」


「む?」


(これは・・・この声は・・・)




耳で聴いている感覚じゃない。




(ダンジョンに入る時、『術式』へコンタクトを取った時と似た感覚)




だが今脳内に響き渡る声の情報量は、『万物対話(トーカー)』のそれと違い目まぐるしく変化し―――




(そう、この声は()()()。生を持ち常に思考を変動させる存在の・・・)




「ぐっ!」


「ナナシさん!?」


(これは・・・周囲一帯にいる人間の思考が、俺の中に流れ込んできて・・・いや。俺が聴き取っているんだ)




今、俺の頭にひと際デカい声が覆いつくし確信した。




(この存在感の強いのが、唯火の『思念』、か)




悶える俺を案じる唯火の声が、空気を揺らす声だけでなく脳内にも響いてくる。


突然自身の中に並列発生した第三者の、しかも多数の思念に体が拒否反応を起こし、それは強烈な頭痛となり俺を襲う。




「・・・何だ?」




急変した俺の様子に、眼鏡の男は怪訝そうな表情を浮かべた。




「おにいちゃん?」




ハルミちゃんもまた、俺の身を案じる優しい声を頭に響かせる。

いまだ頭痛が引くことはないが、二人の温かい『声』を噛みしめるように目を閉じ。




「―――大丈夫だ」




収まらぬ心理の暴風の中、二人の存在を灯台にして、目を開き相対する。




「唯火。あの男の名は?」


「え・・・『久我(くが) 宗明(そうめい)』、です」




「・・・嫌な目だな」




久我はそう言い、目を細め警戒の色を濃くする。




なぜ、ここまでスキルの力が乱れているのかはわからない。

今まで『職業(ジョブ)』を獲得しても、扱い方を知っていたかのように体に馴染み、すぐ扱えていた。


けど、今の状態はスキルの暴走状態と言ってもいい程制御が効かない。




だが




(今はそれで構わない。時間をかけて乗り馴らす猶予なんて今はないんだ・・・)




掬い取れ。




(思考の濁流。心理の大海。そこに浮かぶ、あの男―――久我の弱み)




それはもう俺の耳に届いているはずだ。

あとはちょっとしたきっかけさえ、それさえあれば―――




形なき手掛かりを確たるものとすべく、視界を巡らせ。






「―――魔法職の包囲に穴があるな?」


「・・・何?」




得た力は目に映る景色をも一変させていた。


数秒前に抱かなかった気付き、違和感。

『洞察眼』のように積み上げていくものではなく、ほぼ直感的にそこへと視線は吸い込まれ。


考察の意識は集中し答えへと行きつく。






「久我。俺たちが今背にしている、()()()()()()()から意図的に攻撃の射線を切っているのはなぜだ?」


「!」




俺の言葉に、ようやく人間味のある動揺の色を見せる。

だがそれは隙というにはあまりに短くか細い。




「・・・当然だ。その扉を破壊してしまったら、ダンジョン内のグールどもは地上へと進行してくる。それを防ぐための()()だ」




精神観測者(メンタルアブソーバー)】のスキルが告げる。

今の一文が、こいつの急所。

この戦いにおける致命傷だと。




「俺たちが今ここにいるということは、『王』は倒されたということ」


「・・・」


「その用済みの身柄を抑えるためのお前たちだろ?今更、この扉の内側からモンスターがノックすることなんてないんだ」




遡る記憶。

聴き取ったヤツの思念。

状況から結びつく答え。





「魔法の攻撃から射線を切っているのは・・・お前が()()()いるのは―――」


「・・・黙れ」




俺の胸中にもたれかかるのは良心の呵責。




「この扉じゃない」




()()()()()()を、手段として用いることになる巡り合わせを密かに恨む。






「―――扉に施された、()()()()()()






「黙れぇ!!」




何かしらの攻撃指令を行ったのか。

左舷を包囲する陣形から威嚇レベルではない殺傷力のある火球が俺を狙い放たれ。




「・・・っ!」




息をのむハルミちゃんの気配を感じながら、それをガントレット(左腕)で薙ぎ散らす。




「大丈夫だよ。ハルミちゃん」




火の粉が舞い散る中、幼い彼女を安心させるように何でもないような口調を心掛けそう告げると。




「―――乱れてるな。心が」




向き直り、再び対峙する。




「貴様ぁ・・・!」




俺が発した一連の言動がよほど気に入らなかったのか、先ほどまでの探り合いの時とは打って変わって、憎悪を露にする。




「不愉快だ・・・その知ったような口・・・どこの馬の骨とも知れない貴様が、なぜその術式の事を知っている?」


「・・・彼女に聞いた」


「彼女?その女のことか?そのハーフエルフに聞いたのか!?」




この場において。

多数の人間の思念渦巻く俺の脳内においても、久我のそれは膨れ上がりその存在感を増していく。


最早、耳を澄ませずとも。

濁流をかき分けなくとも。




「―――違う。俺が聴いたのは・・・」




この男の心理は、把握した。




「術式の術者。エルフの女性、『レジーナ』に、だ」


「!!?」


「レジー、ナ・・・」




俺が口にした名に関わりのあった唯火も驚きの様子を見せる。

互いに姿を見たことも無かったんだ、名前も知らなかったのだろう




「な・・・ぜ、貴様が、その名を・・・?」




そして最も動揺を見せたのは、無論この男。


その洞察に特化した才覚で、俺の言葉に偽りも裏もないことを見抜いているのだろう。


名前の一つで今まで決して見せることのなかった、大きな『隙』。


でも、俺はまだその隙を突くことはしなかった。




「約束したんだ」


「・・・は?」




ダンジョンに入った唯火を助けてくれと頼まれた時、一緒に。






《ア―人―――タエ――》




「『あの人に伝えてほしい―――』」




久我は茫然と口を開け俺の言葉を待つ。

そこには俺の発言を疑う懐疑的な心理はなく、ただただ傾聴する姿があった。




「『私を、『人間』として死なせてくれてありがとう』」


「―――ぁ」




堪え切れなくなったように久我は地に膝をつく。




「俺にはわかる。この言葉はあんた宛だ。言葉の本当の意味までは分からない。けど、今あんたが抱いている感情と、心理のかけらから想像する過去をみるに・・・言葉通り、感謝していたんじゃないか?」




俺がこれ以上、この男と。

エルフの女性、レジーナの間に何があって。

術式の前後、久我の心にどんな変化があったのか。


恐らく知ることはないだろう。

詮索する気も無い。


この男の過去に何があったところで、唯火やハルミちゃんにしてきた仕打ちを、俺は許さない。




「・・・」




俺の放った言葉と、目の前の光景を見た唯火の複雑な心境が漂ってくる。


が、それも一瞬の事。

再び、彼女に生かされ背負った義務を自覚した時のような強い光を瞳に宿すと、俺と視線が交差しどちらともなく頷きあう。




「―――確かに、伝えたからな」




背後のダンジョンの扉と、跪く久我。

双方にそう言い放つと。






『―――ありがとう』






確かに彼女の声が頭に響いた。






(―――ハルミちゃん!)



「・・・っ!キラリ!」




彼女は小さい両の手のひらを突き出し、使役する光の精霊、キラリへと命じる。




「『小天体(ぷちすたー)』!!」




隊を指揮する者が膝を折り、広がった動揺は陣形全体の隙となる。

俺の作戦開始の合図を受け取ったハルミちゃんは、【精霊使い(せいれいつかい)】として『キラリ』の所有スキル。


小天体(プチスター)』を発動させる。




「「「「!?」」」」




その効果はキラリを中心とし、眼球を焼き切られるかのような眩い閃光が放たれる。

それは、あの閃光を放つアイテムよりも眩いものだった。




「行くぞ!唯火!ハルミちゃん!」


「はい!・・・きゃっ!?へ、変なところ触らないでください!」

「うんっ!」




そう。

作戦とは、目をくらませてその間に逃げるという単純なもの。


備えていた俺たちは目を潰す閃光から視界を守り。




「しっかりつかまってろ!」




二人を抱え駆け出す。




(頭に響く思念の声が止んだ・・・?)




扉から離れた瞬間、スキルが途切れたように脳内は静けさを取り戻した。




(今は好都合だ!これで離脱に専念できる!)




『五感強化』で聴覚を引き上げ、視界を閉じながらも周囲を把握。

頭に響く声がうるさいままだったら妨げになっていたかもしれない。




「ふっ!」




突然の閃光に目を潰され、魔法を放つこともできずにいる陣形の頭上を、二人をかかえ跳躍し突破。




「―――抜けた!」


「ナナシさんっ!」


「すごーい!はやーい!」




背後を振り返ると、光は収まっていき、キラリはハルミちゃんの手元へ収まるように戻ってきた。

敵たちは指揮者を失った状態での奇襲に一切対応できていないようで、今だ誰一人こちらに気づいていない。




「このまま飛ばすぞ!」




周囲に広がる森の木々に紛れ突き放す経路を選択。


そして森へと入る瞬間―――






「やるねぇ。兄さん」


「―――!」






身を隠すように木の陰に寄りかかる老人と、一瞬だけ視線は交差するが。


俺は足を止めず、速度もそのままに、湧き上がった疑念は遥か後方へと置き去りにする。






こうして、無事唯火の救出劇は幕を閉じた。


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