63話 同族嫌悪
名:?
レベル:48
種族:人間
性別:男
職業:
【精神掌握者】
武器:なし
防具:なし
攻撃力:342
防御力:280
素早さ:264
知力:680
精神力:806
器用:95
運:98
状態:ふつう
称号:小隊長
所有スキル:
《洞察眼LV.10(MAX)》
《読心術LV.10》
《精神耐性LV.8》
こうして自分と同種の『職業』持ちの人間と対峙するのは初めてだな。
(『洞察眼』。掛けられる側はこんな気持ち悪い感覚なのか)
同じ力を持つ俺だから敏感に感じているだけかもしれないが。
(作戦を発動するには、指揮者を揺さぶるなりなんなりするのが一番隙ができると思っていたけど・・・どうも一筋縄じゃ行かなさそうだ)
「ダンジョンから出てきたということは、『王』の討伐を成してきたのだろうが・・・私の部隊の者が一人もいないようだな」
光を反射する眼鏡の鏡面の隙間から覗く冷たい視線。
それは今、俺一人へと注がれていた。
「お前は、なんだ?」
「言ったろ、通りすがりだって」
「なぜここにいる?」
「同じ趣旨の質問を繰り返すんだな?」
「知られたくない、か・・・随分と守るものが多いようだな?」
「何の話をしている?」
「公園付近でお前と奴ら、そして私の部隊が交戦した時はその剣も、左腕のガントレットも装備していなかった」
「それがどうした?」
―――この男
「その後研究所を落としこのダンジョンに来るに至るまでの時間から逆算するに、装備を整える拠点は公園のすぐ近くか、あの公園か・・・あそこにはホームレスの連中がいたな?」
探り合いに関して、俺よりも高みにいる。
俺ができるのは精々仕草の端端から次の行動を予測することと、その瞬間抱いている感情をおぼろげに読み取ること。
「なるほど。ホームレス連中との関与を隠し、彼らを守ろうとしているのか。だが、お前がここで悠長にダンジョン攻略をしている間に、お前が倒した部隊の後続、魔力要員部隊が向かっている。警告に従わないものは殺してでも排除しろと、命じてある」
「だから何の話だ?俺には関係ないな」
「―――そうか。後続の部隊もお前が倒したか」
「・・・」
だがこの男は、一見薄い内容の短絡的な質疑で。
そこから生じる俺の微細な緊張と緩み。
その小さいBETで浮かび上がった引っ掛かりを、確信のものと捉え次々に掘り返してくる。
皮肉にも同じ『洞察眼』でそれがハッタリでないとわかってしまう。
「ホームレス連中。そして公園でのそのハーフエルフの様子から察するに、その女とも浅からぬ親交があるようだ・・・そこがお前の弱点か」
(専門家だ)
俺とは―――
器用貧乏の俺とはある意味対極の、特化した人間。
(戦闘力だけなら圧倒的に俺が優位、それはステータスが物語っている)
事実。
今、この男が足を踏み入れているのは完全に俺の攻撃範囲。
その気になれば一足で間違いなくヤツに刃を届かせられる。
(けど、それを織り込み済みでここまで踏み込んできている)
俺の挙動、微細な仕草から間合いを見切り。
そして俺がもし行動を起こしてしまったら、待ってましたと言わんばかりに唯火とハルミちゃんへ何らかの攻撃を仕掛ける準備を整えているだろう。
(多分彼女たちを殺すことはしないだろうけど、それでも痛めつけるのに何の躊躇もないに違いない。さっきの俺の『弱点』とした部分を狡猾に突いてきてるな)
人が嫌がることをよくわかっている。
(俺がどんなリターンのためにどれだけのリスクを払うか。それも看破されている)
俺がここまで考えていることは全部想像でしかない。
そう宣言されたわけでもなく、この男の挙動を観察してもそれらしい仕草は読み取れない。
いや、読ませてくれない。
だが、その潜在するリスクに気づいてしまった今。
強行策に出て、結果的に三人とも生きてここを切り抜けられる可能性があったとしても。
彼女たちが深手を負う可能性や最悪の事態も隣り合わせの選択を取ることは、俺にはもうできない。
物理的に干渉しないままに、今俺はその行動を完封されたのだ。
(職業とスキルだけじゃない、この男自身の才能、経験。それらすべてが読み合いに特化しているんだ)
武器を持たず、防具も身につけず、こんな戦い方があるのか。
もとより危険な強行策に出るつもりはなかったが、まさかここまで選択肢を狭まれるとは。
・・・このままじゃ隙を作り出すことなんて、到底できない。
「ふむ・・・ただの戦闘力の高い男かと思っていたが、どうもお前は何か違うな・・・?」
「・・・それはどうも」
これまでの死闘は、剣と剣、拳と拳。
物理的な戦いにおいて自身を上回る敵に対し、持てる力を掛け合わせて何とか切り抜けてきた。
(だが、行動を封じられ、主導権が完全にあちらにある今、同じタイプの相手に近しい力を掛け合わせたところで・・・)
ヤツを上回り、隙を見出すことは不可能だ。
「―――おもしろい。お前のその力も国の礎となりえるかもしれん・・・その様子、己が置かれた状況はよく理解しているな?」
「どうだろう?」
「ふん、やめておけ。私は敵を見くびらない。故に視力と聴力を奪ったお前に精鋭の部隊をダメ押しでけしかけた。しかしそれすらも払いのけ、後続の部隊、そして研究所内の人間を誰一人殺さずたった一人で落としたその異常性・・・そんな危険人物に、隙など見せるわけがないだろう?」
「・・・お堅い見た目の割りによくしゃべるな」
どうやらこっちが無策ではないのもバレているらしい。
その内容まではさすがに割れていないと思うが。
「時に、そのハーフエルフの少女。随分と落ち着きがないようだが?」
「お前らみたいな人を人とも思わない連中に囲まれたら、落ち着いてなんかいられないだろ」
・・・いや、時間の問題か。
作戦の胆を担うハルミちゃん。
幼く、探り合いに何の耐性の無い彼女に『洞察眼』を掛けられたら、いずれこっちの種も気づかれてしまうかもしれない。
「『人』?私は人間だ。そいつらは何だ?『ハーフエルフ』だろう?種が違うのだぞ?そんな存在が国の技術を躍進させる可能性を秘めているのだぞ?利用しない選択肢はないだろう?」
「別にお前の思想なんか聞いていない。その不愉快な口を少し閉じてろ・・・!」
思わず感情が波立つ。
溢れる殺気が剣を握れと誘惑するが、なんとか理性でそれを押しとどめる。
「・・・」
俺の怒気にあてられたように、眼鏡の男以外の敵たちは一瞬たじろぎ警戒を強める。
今、唯火のように相手を委縮させる『威圧』系統のスキルがあれば形勢は変わったかもしれない。
「ふっ・・・斬りたいか?私を。恐ろしい力だ、お前一人なら、私を含めここの者全員皆殺しに出来るだろうに・・・身の振り方はわかるな?投降しろ」
国益のためにその力を役立てろ。
そう言い、投降を促す。
「ナナシさん・・・」
俺を信じてくれているのだろう。
唯火の強い光を宿した眼差しと目が合い、俺の留飲を下げてくれた。
俺は―――
「無理、だな」
「・・・」
掛け合わせの力じゃ、ここは凌げない。
ただ一点、上回らねば。
単純に高みへと立たなければ。
「今のままじゃ・・・・・ダメだ」
《職業、『精神掌握者』のクラスアップ先を選択しますか?》
俺は、その先の俺に―――
「選択する」
命運を預ける。




