59話 VSレッサー・ヴァンパイア 噛み合うピース
《ミスリルガントレット(魔改・スロット:● 充魔;■□□):魔法防御に優れ、対象の属性魔法を吸収する。また、一定量を満たすと充填した魔力を放出する属性攻撃。『放魔』が使用可能》
「魔力を吸収し、解き放つガントレット・・・」
作戦を伝えると唯火は口元に手をやり。
すごい防具・・・と。
俺としても全く同感だった。
前々から腕がいいとは思っていたが、あの公園の職人たちは思った以上に優秀だ。
「ハルミちゃんの『精霊』が持つ光属性の魔力をこのガントレットに『充魔』させてほしい」
「???」
「なるほど、それなら危険な目にあう事も無いですね」
「ああ。だが別のリスクはある・・・」
なんですか?と唯火は促すと。
「多分、ガントレットの容量が満たされるまで少し時間がかかるかもしれない」
公園での『炎』。
例の施設での『雷』。
どれも人を殺めるには申し分ない出力だったが、それをガントレットで受けても、ステータス上ガントレットの充填率は3マス中1マスまでしか溜まっていない。
ハルミちゃんの使役するこの小さな精霊の力がどれほどのものかはわからないが、恐らく数分はかかるだろう。
「けどまぁ、既にヴェムナスがハルミちゃんの『光の精霊』を見たことがあるというなら、勝算は十分にある」
「?」
『充魔』中はガントレットが光を帯びる。
それは施設で『雷』を受けた後に確認済みだ。
だからあからさまに何かしようとしているというのが、奴にも筒抜けになってしまう。
その旨も唯火に説明し。
「けどあいつが俺たちの策に行き着くのは小さい『光の精霊』を利用するというところまでだ。このガントレットの特性は完全に想定外。逆に、その勘の良さからくるヤツの予測を答え合わせしてやった瞬間、そこに『放魔』とやらを叩きこむ」
つまり、『光の精霊』を射出し手札を全て切ったと奴に思わせたその一瞬。
「・・・おにいちゃん」
「ん?」
「この子は帰ってくる・・・?」
俺の『利用』という言葉に不安を抱いたのか、そう問いかけてくる。
配慮が足らなかったな、ハルミちゃんは危険似合わなくても精霊は何かしらのリスクを負うかもしれない。
彼女の心配げな顔を見るに、精霊とはただの主従関係ではないのだろう。
だからこそ俺は正直に話すことにした。
「そうだな・・・もしかしたら『その子』も危ない目に合うかもしれない。だから、ハルミちゃんがいやだって言うなら、他の方法を考えるさ」
「・・・」
すると、小さな手に収まっていた光はふわふわと浮遊し丸を描いたり時折ギザギザに動く仕草を見せると。
「しんぱいだけど、この子が『できる』。って言ってるから」
「―――そうか」
精霊は必ず無事に帰すよ、ハルミちゃん。
::::::::
「『放魔』・・・『崩!拳!』!!」
充填された魔力と拳を放つ。
『光の精霊』が作り出してくれた一瞬の隙のおかげで、鳩尾に二度目の『崩拳』が突き刺さり。
吸血鬼の体に沈み込む中、魔鉄のガントレットを包む輝きは拳へと収束していく。
「あ・・・あが・・・ぁ」
既に光の属性を拳が纏っているのだろう。
拳がめり込んでいく刹那に吸血鬼の苦しげな声とその肌を焼くような音を聞きながら。
「―――だぁああっ!」
拳を完全に振り切ると―――
「があぁぁぁぁああぁあぁ!!?」
光の弾丸。
いや、有体に言ってしまえば光線。
身の丈半ばほどある魔力の塊がヴェムナスの体ごと一直線に放出される。
「――――――」
既にヤツの苦痛の叫びは鳴りを潜め、眩い光源はあっという間に階層の端へと行き着き。
階層を揺らすほどの爆音と衝撃、砂塵を巻き上げ壁面を大きくえぐり破壊する。
「――――くっ!」
「きゃっ!?」
「っ?」
その衝撃が生んだ風圧は遠く離れた俺や、唯火達の元まで届き体を打つ。
舞い上がる砂ぼこりに隠された爆心地点。
『五感強化』で視覚を強化し目を凝らすと。
「!!」
二本の足で立つ足が見え。
「あれを食らって、まだ・・・!」
油断なく剣を構え砂ぼこりが晴れるのを待つと。
確かに地に立つ、ヤツの下半身のみがそこにいた。
「・・・」
「ナナシさん・・・」
最悪を想像し、思わず固唾をのむと。
糸が切れたように下半身は膝をつき崩れていく。
《屍人迷宮の主。変異種『下等吸血鬼』の討伐を確認。ダンジョンを制圧しました。転移陣が出現します》
《経験値を取得。ワルイガ=ナナシのレベルが61⇒69に上昇しました》
・・・・・
「終わった・・・のか?」
一瞬肝を冷やしたがこの恒例の天の声が鳴り響いたのだから、そう言う事だろう。
ゴブリンキングを倒した時に比べ、声の内容は薄かったが。
(まぁ、なんとなく心当たりはあるけど)
「ナナシさん!」
唯火の声に振り返ると、いまだ心配げな様子の彼女たち。
(天の声は聞こえているだろうが、俺が来る前はかなり追い込まれた状況みたいだったからな・・・ん?)
ヴェムナスが最後に残した骨の牢獄が崩れ去り、光の精霊の姿が露わになる。
「お疲れさん。今回の功労賞はお前さんだな」
何とはなしに、健闘を称えるように拳を掲げると。
「お?」
『お前もな』、と言いたげな風に拳へと触れてくる。
「ありがとな、相棒。お前からハルミちゃん達に勝利を伝えてやってくれ」
そう言うと精霊は二人の元へ飛んでいき。
「―――ナナシさん!」
「おにいちゃーん!」
さっきとは真逆と言った声色で俺の名を呼びかける彼女たちの元へ俺も戻るのだった。
一身上の都合により更新頻度が下がるかもしれません。




