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50話 屍人の巣窟

視点が入れ替わる回が続いていますがお付き合いください

~『屍人(グール)迷宮(ダンジョン) 8階層』~




「ぁ゛ああ゛あぁあ」



「ぉ、おねぇちゃん!」


「下がって!」




魔添(まてん)・剛力』を発動。


同族の少女の背後から現れたグール上位種。

マッドグールを蹴り飛ばし粉砕する。




「・・・ふん」




視界の端で同行者である隊員がつまらなそうに息を吐くのを聞く。




ダンジョンに潜ってから一時間足らずで、8階層まで来ていた。

精鋭を揃えたというだけあって、特に私が手を出さずとも彼らが勝手に連携してモンスターを排除していく。


けど―――




(今のモンスター・・・わざとこの子の死角から襲い掛かってくるように討ち漏らしてた・・・)




私が妙な気を起こさないようにか、時々今のように作為的なモンスターの襲撃がこの子を襲う。




(そんなことしなくても、この子―――ハルミちゃんの前でそんなリスク犯せるわけない)




それを知ってか知らずか、どっちにしろ久我の命令なのだろう。

執拗に同じ手で仕掛けてくる。




(こんな小さい子相手によくもこんな・・・っ!)




あまりの理不尽に拳を震わせていると。




「おねぇちゃん、大丈夫?ハルのせいでケガしちゃったの・・・?」




心配そうな顔で私の手を引く彼女の姿があった。


一息吐き、心を静めると。




「ううん。ケガなんてしてないよ?それにハルミちゃんが声を上げて教えてくれたから、私も助かっちゃった」




ありがとね。

そう言いながら彼女に目線を合わせ、頭を撫でる。

するとくすぐったそうに目を細めほほ笑むと。



「そっかー。でもおねえちゃんもカッコよかったよ」


「ふふっ。ありがとう」




こんな状況でも自然と笑みがこぼれてくる。

子供の笑顔というのは不思議なものだ。






ダンジョンに入る直前、彼女は久我が連れてきてすぐに私の元へ駆け寄ってきた。


幼心にも私が『同族』で、自身の置かれている状況を理解したのだろう。

私の服を握る小さな手が震えていた。


私は道中、自分の事も忘れて彼女を安心させることに努めた。


私の名前を教えて、ハルミちゃんも名前を教えてくれて。


彼女の髪が私と同じように、かつての名残を残し頭頂から毛先にかけて、山吹色から茶髪へとグラデーションがかっているのに気づき。




「お揃いだね」




と私が言うと、はじめて笑顔を見せてくれた。


それから、お母さんが大好きなこと、つい先日外出の時にはぐれて迷子になったこと。

気づけばここに連れてこられたこと。


色んなことを話し終えると、私の胸の中でハルミちゃんは泣き出してしまい、私もそれを抱きとめた。


冷酷にも先を急かす久我の隊員達は、『魔添・威圧』で黙らせ泣き止み落ち着くのを待ちゆっくりとその小さな一歩を踏み出す。


それ以降私のことを『おねえちゃん』と言って慕ってくれている。




そして今、8階層から9階層への階段を降りようとしているところだ。




他の隊員がこちらには目もくれず次の階層へと降りていく中。




「・・・いこっか?ハルミちゃん」




この子は、私が必ず守る。


その使命感だけが、戦いへと駆り立てていた。


いや・・・縋っているだけかもしれない。


置き換えているだけかもしれない。


この子の存在が今、私をこの世界につなぎとめているような錯覚さえ感じる。




「ねぇ、おねえちゃん」


「んー?どうしたの?」




妹がいるとこんな感じなのだろうか、思わず話しかけるたびに目線を合わせてかがんでしまう。




「どうしたらおねえちゃんみたいに強くなれるかな?」


「えぇ~?」




返答に困る質問だ。

おそらくこの子の言う強さというのは、目の当たりにした私の戦闘力だろう。


今の力は流れるままに得てきたもの、正直望んで手に入れたものでもない。




「そうだなー・・・」


「おねえちゃんより強い人っているのー?」




好奇心と、気恥ずかしいけど憧れのようなものが止まらないようだ。




「んー・・・私は見たことないかな?」




自分の狭い世界の事実と、少しの見栄でそう答える。


このダンジョンで以前戦った『王』は万全なら勝てたと思うし。

小鬼迷宮(ゴブリンダンジョン)』にいたゴレイドとかいう『王』は私より強かっただろうけど、そもそもモンスターは『人』じゃないし嘘ではないはず。




「・・・ぁ」


「おねえちゃん?」




居た・・・そのゴレイドを倒した一人の青年。




「やっぱり、いたかな。私より強い人」




そう伝えると、ハルミちゃんは目を輝かせる。




「ほんと?すごい!おねえちゃんより強いの?」


「うん。すっごく強い」






二度も私を守ってくれたあの背中を思い出しながら、本心でそう答える。






「じゃあじゃあ!すっごくかっこいい!?」




無邪気な問いに、頬が少し熱くなるのを感じながら。






「うん。すっっっごくかっこいいよ」


「そっかー!」






瞳の輝きが増し、さらに質問攻めが来るかと思ったその時―――











「がぁぁぁぁあああ!!?」






下層にへつながる階段の闇から、耳を裂くような叫び声が上がった。



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