49話 施設
(随分走るな・・・)
唯火を攫った連中の兵隊を追って公園を出てから大体20分近く経過する。
追跡相手が魔法使い職と言えど、ステータスが発現する前の通常の人間よりずっと速い。
(結構な距離走っていると思うが・・・ん?)
長らく森の中を同じ景色を見ながら進んできたが、ようやく人工的な建造物が見えてきた。
(森の中に唐突に・・・いかにも悪いことやってますって感じだな)
今の世界の道徳観がどうなっているのか知らないが、種族が違うとはいえ人間皆が皆『異種族』を利用しようと思っている奴らばかりじゃないはずだ。
そんな人たちの目に付かないようにこんな場所で人の目を忍んでいるのだろう。
施設というから街中という線も想定していたが、まぁ人目に付かないならこちらとしても都合がいい。
(頃合いか・・・)
追跡の相手は明らかに白い病棟のような建造物の正門を目指して走っている。
ここが目的の場所、唯火が居る所と思っていいだろう。
舗装されだした一本道に出たので速度を上げ回り込み、茂みに身を潜め目の前を通る瞬間―――
「・・・っ!?」
一直線に飛び込み、口を塞ぎつつ向かい側の茂みへと引きずり込むと意識を断ち切る。
はたから見れば落とし穴にでも落ちたか神隠しにあったようにしか見えないはずだ。
「案内どうも」
しばらく茂みの中で寝ててくれ。
「さて、どうやって中に入るか・・・」
今のところ俺という存在は気取られていないはず。
多分、ダンジョンで唯火が言っていた、
『世界中で通信機器が使用できる地域が限定されているんです』
それがここら辺にも該当してるはずだ。
そうでなければ俺が交戦した先遣隊とやらは戦いながらでも、この施設と連絡を取るなりなんなりできた。
そしてその情報は魔法使い職の奴らにも届いていたはず。
奴らが俺の存在を一切知らなかった以上、この施設の連中もそうに違いない。
「派手な行動は控え、気配を消して交戦を避けつつ唯火をかっさらう」
今の条件ならきっとできる。
ざっくりと作戦を決めると、建物の外周を囲む3メートル位の高さはありそうな外壁沿いに人目に付かなさそうな場所を見繕い。
「ほっ」
壁を垂直に蹴りつつ頂上へと手をかけ、覗き込むように中の様子を窺う。
「・・・よし。誰もいないな」
人気が無いのを確認すると、体を持ち上げ塀のてっぺんに乗り出す。
すると―――
「あ」
自分から出た間の抜けた声と共に、建物中から防災ベルのようなアラートが鳴りだした。
「・・・センサーか」
この数週間、文明から遠ざかってた感じだからこの手のハイテク忘れてた。
「こうなったら仕方ない・・・」
吉田さんお手製魔法の外套から魔石を取り外し、マフラーサイズに戻すと、それで顔を覆うように巻き付ける。
「一応顔は隠しとかないとな、今更だけど」
苦し紛れの変装をして塀から飛び降り敷地内へと侵入する。
「・・・随分と仕事が早いな」
アラートを聞きつけてきたのだろう。
既にかなりの人数が俺が下りた先を包囲しつつあった。
「中からもまだ相当な数の敵意を感じる・・・さすがに骨が折れそうだ」
戦力の分析のために片っ端から『目利き』をかけると。
LV.12/LV.15/LV.22/LV.18/LV.24/LV.23/LV.17・・・・・
「いや、案外いけそうか」
「侵入者だ!容赦なく殺せ!」
(公園に来た連中といい随分と殺気立っているな、一体どういう組織なんだこいつら?)
が、そう言いつつ包囲網を徐々に広げ距離を取り始め。
「? どういう―――」
「「「落ちろ!サンダーブリッツ!」」」
瞬間、公園で戦った時に見たのと同じような、けどそれよりも圧のある一筋の雷光が俺の頭上から落ちてくる。
俺はその奇襲に―――
「「「・・・なにっ!?」」」
左腕を掲げ、魔鉄の掌で受け止めた。
ぶつかり、行き場を失う降り注ぐ雷光は放射状に拡散し、流れ弾のように周囲へ突き刺さる。
稲光が周囲を照らし、雷撃が放出され切った頃には、周囲を取り囲んでいた兵隊は殆どが身を焦がして倒れていた。
「いきなりカミナリを落とすなんて、ご挨拶だな」
というか、魔法使える人間ってこんなに多いのか?
公園の奴らの時も思ったけど、唯火に聞いた話ぶりだと魔力が発現する者はそれなりに珍しそうな印象を受けたが・・・
それにしても―――
「さすが、職人の魂の力作」
炎をはじいた時と違い今度は電気だったからガントレット越しに感電してしまうかとも思ったが。
(それが魔法による雷なら関係ないみたいだな)
左腕にまとう稲妻を切り払うように拳を握り込むと心なしか、魔鉄のガントレット全体が仄かに光を帯びて見えた。
(なんだ?やっぱり、さっきの雷で帯電でもしてるのか?)
今のところ体がしびれるようなことはないけど、なんかちょっと怖いな。
「なな、なんなんだ、あいつは・・・化け物・・・人型のモンスターか?」
「あ、ありえない。今の魔法はダンジョン攻略に向かった魔力要員同等の隊員達の攻撃だぞ!?あの出力を片腕で・・・!」
僅かに残った連中が俺をモンスターなどと言い出す。
心外だ。
それにすごいのは俺じゃなくて吉田さん達が作ったこのガントレットだ。
「くっ!ひ、ひるむな!魔法は跳ね返される!近接戦闘で一斉に仕掛けろ!」
「他にレベル30以上の隊員は居ないのか!?」
「ダメだ!未捜索のダンジョン攻略の先遣隊、後続の魔力要員。そして、久我隊長率いる『ハーフエルフ』によるダンジョン攻略!精鋭たちは皆出払っている!」
「何?」
今確かに言った。
『ハーフエルフによるダンジョン攻略』と。
「まさかここに唯火はいないのか?」
なら、急がないとな。
幸いここには訳知り顔の奴がいっぱいいる。
「囲め!数で押し切れ!!」
建物から感じていた敵意がぞろぞろと出てくる。
それでもさっきのでほとんど削れたから大分楽はできそうだ。
「魔法は封じて接近戦で来るか。けどあいにく―――」
こっちの方が得意なんだ。
剣を抜き放つと、多勢ひしめく大乱戦に俺は身を投じた。




