43話 潜む者
(今まで物陰に潜んで死角から襲ってくる敵とは何度も戦ったが……)
まぁゴブリンだけど。
ゴレイドが言っていたように種としての強みである数を活かした連携は幾度となく潰してきた。
(けど、隠れられての狙撃を相手にするのは初めてだな)
普通に状況だけ見れば、相手の姿も確認できておらず、常に的にされているこちらが圧倒的に不利。
そんないつ射殺されてもおかしくない状況が長引けば、精神的にも肉体的にも削り取られじり貧になる事だろう。
(普通に見れば、な)
『索敵』という一手があればなんてことはない。
既に狙撃手の敵意を感知して居場所も人数も分かっている。
(六人……結構多いな)
こんな隔離されたような『廃棄区画』の公園になんの用だろう。
公園しか居場所のないホームレスの彼らぐらいしかもうここらに人はいないかと思っていたけど。
(なんにせよ、身を潜めて挨拶も無しにこっちを射殺そうとするやつらだ……ロクなもんじゃない)
それこそあの魔物使いのような悪党だろう。
こっちも問答無用でやらせてもらうさ。
もう5本、ベンチから木片をちぎり即席木刀を小脇に抱えると。
「唯火。敵は六人だ。俺の正面に扇状に三人。唯火の正面の茂みに一人と少し離れた右舷に二人。多分弓矢を使うのは俺の方の三人と唯火の正面の一人だ」
「……すごいですね。そこまでわかってしまうなんて」
『洞察眼』は何気に動体視力も向上するからな。
矢の飛んできた位置でこのくらいなら十分わかる。
それと―――
「唯火。多分、矢は気にしなくて大丈夫だ。一応俺が警戒しておくけど、そっちのやつらに専念してくれ」
「……? わかりました」
背中から温もりと気配が消えると、俺も歩を進める。
といっても、正直『走行』スキルなんて使うと激痛が来るので本当に歩くだけ。
すると一瞬向けられる敵意が膨れるのを感じ正面の左右から矢が飛んでくる。
(やっぱりか……)
こいつらある条件を満たしていないと矢を放ってこない。
その条件を今は満たしている、恐らく次々と矢を番って放ってくるだろう。
遠距離から一方的に攻撃されるのは消耗を強いられそうだ。
「避けるしかなければ、だけど」
『直感反応』と『近距離剣術』の剣速で二対の矢を叩き落とす。
このくらいなら、変に力まないでも実行可能だ。
その動作を口火に、焦るような勢いで矢は三方向から次々と放たれ。
(何本持ってるんだよ……)
俺もまた次々と叩き落とす。
途中三本の即席木刀が折れた。
弾きつつゆっくり距離を詰め―――
「見つけた」
「!?」
超至近距離で眉間を射貫こうと矢を放つも、姿をとらえ『洞察眼』の本領を発揮した今。
何の気なしに首を傾け、肩をそらし、三発ほど避けながら距離をゼロにすると。
「っかは!?」
木刀で首筋をなで斬りにし意識を刈り取る。
身体がいたくなるから全然腰の入ってない腕の振りだけの攻撃だけどそれで十分な様だった。
木刀はまた一本折れたが。
「……なんだこいつは?」
ぐったりと横たわる者はやはり人間で、けどそのいでたちは。
「コテッコテの『暗殺者』、って感じの格好だな・・・」
試しに『目利き』で見てみると。
名:???
レベル:17
種族:人間
性別:男
職業:【狩人】
武器:ハンターボウ
防具:黒装束
攻撃力:109
防御力:98
素早さ:135
知力:82
精神力:86
器用:41
運:10
状態:気絶
称号:無し
所有スキル:
【弓術LV.3】
【隠密LV.3】
【索敵LV.3】
狩人でした。
(唯火を除けば、俺が見た人間の中では一番レベルが高いな)
半年間で人類が平均何レベルまで到達しているのかは知らないが。
目を覚ましてまだ数週間。
そんな俺がレベル60台に達している。
(……こいつや魔物使いは特別弱かったという事で、唯火クラスがもしかして普通なのか?)
ダンジョンの最下層で千を優に超えるゴブリンの群れを一瞬で殲滅した唯火の姿を思い浮かべる。
「……」
だとしたらゴレイドクラスの化け物や、それ以上の強さを持つ人間がごまんといてもおかしくないってことになるが……
「ほんとにとんでもない世界だな」
そんなことを考えながら同じ工程で残りの二人を倒すと、
世界の未知の可能性に俺は一人、戦慄を感じていた。
「唯火。こっちは終わったぞ」
茂みをかき分け、とっくにあちらも終わっているだろうと思い唯火呼び掛けると。
「!」
「答えて。あなたはどこの人間なの……?」
「ぁ……ぐ」
唯火が襲撃者の喉元を片手で締めあげる意外な光景が広がっていた。
「……唯火?」
「っ!」
俺の声に肩をびくりと震わせると、思わずといった風に襲撃者を解放する。
「……」
「ナ、ナナシさん……」
どこか後ろめたさを感じる表情で振り向くが視線は合わせずうつむいていた。
「―――無理するな」
「え?」
やってる事の規模は違うが、子供がいたずらを見つかったようなしょぼくれた態度についサラサラの髪に手を置きやり。
「こういうのは俺がやる」
【精神掌握者】ならお手の物だ。
首を締めあげられいまだむせ返る黒装束の前に立つ。
「俺たちを襲った目的はなんだ?」
「……」
だんまり、か。
なら―――
「答えないなら質問ごとにどっかの骨を折る」
「っ!」
俺の言葉に反応したのは唯火。
目の前のこいつは特に顔色を変えた様子もない。
(慣れっこ、ってわけか)
この胆のすわり用だけでもこいつが武装したただの一般人じゃないのが分かる。
ならここからは理詰めでいこうか。
「最初の狙撃、まず最初に俺を狙ったな?全員」
「……」
それだけなら腕力のありそうな男を先に殺そうとしたのだと思うが。
「で、避けた後俺たちは背中合わせにくっついてた。なぜそこを一気に射貫かなかった?」
かたまっているところを一斉射撃で射貫けばよかったのに。
まぁ、避けるか弾くかしただろうが。
「この子が射線上にいたからじゃないのか?」
「……」
その証拠に、俺たちの距離が離れた瞬間、唯火への射線が切れた瞬間。
俺だけを狙ってここぞとばかりに打ちまくってきた。
「女狙いの悪漢でもないだろ。お前達みたいに胆が据わったやつは、イカれているがそんな欲望でリスクを冒す人種じゃない」
圧をかけるように『洞察眼』と『読心術』を重ね掛けする。
見透かされる感覚を感じ取ったのか、見る見るうちに額から汗があふれてくる。
……もうとっくに分かっていたことだけどな。
だから唯火もらしくもなく手荒になったんだろう。
答え合わせをしてやる。
「お前たちの狙いは、唯火の身柄確保……」
「そうだろ?そこの木の陰に隠れてるヤツ」
「ほっ!あんた、やっぱりとんだ化け物だのぉ。兄さん」




